14.アタランテ
ヘルメスの話を聞いた俺達はライムとシュバインにも事情を説明した後それぞれ必要なものの買い出しに向かっていた。手入れをお願いしている武器の回収をするために武器屋に向かう。そろそろ杖の鑑定も終わっただろうしね。
「あ、こんにちはです……」
「やあ、奇遇だね」
「あの、その、今日はいい天気ですね。あははは」
見覚えがある人影であるなと思ったらアタランテだった。彼女は相棒である猪と一緒に武器屋を訪れていたようだ。目があったからだろう彼女は先ほどの事もあり、少し気まずそうに俺に挨拶をする。
元々アタランテは喋るタイプではないので、あまり交流はないのだが、代わりに俺にとって彼女とコミュニケーションをとる際に強い味方がいるのだ。何を話そうとかと悩んでいると俺と彼女の間に猪が割って入ってくる。
『すまぬ、我が主のコミュ障は相変わらず直っていないのだ。失礼を許してほしい』
「ああ、気にしないでくれ、カリュドーン。さっき彼女の仲間と揉めたんだ。だから気を使ってがんばって話してくれているんだと思う」
『そうか、だからへこんでいたのだな。ほら、アタランテ我をモフモフするがいい』
そう言うとカリュドーンはじゃれるようにアタランテに体を預ける。カリュドーンの体毛は柔らかいのか、アタランテの緊張していた顔が和らいでいく。
「ああ、癒される。森でずっとこうしていたいぃぃぃぃ。シオンさんは動物達と話せていいですね。羨ましいです。何を考えているかは大体はわかるのですが、やはり言葉が通じるとまた違うんでしょうね」
先ほどの俺とカリュドーンとのやり取りを見ていたからか、アタランテがモフモフしながら羨ましそうに言う。でも、俺はアタランテとカリュドーンの心を許しあったやりとりをみて思う。
「アタランテの方がすごいよ、だって言葉は通じないけど心は通じ合ってるんだから」
「えへへ、そう言われると嬉しいですね。私の一族は森で育ち一匹の獣と一緒にそだれられるんですよ……ってそうじゃなかった。頑張って声をかけたのはテセウスの件があったからなんですよ!! 先ほどは失礼しました」
そう言って彼女は姿勢を正して俺に頭を下げる。この子自分の相棒に関してはむっちゃ早口になるんだよなぁ……精神的に落ち着くためか片手ではしっかりとカリュドーンをモフっている。
「いや、俺は別に気にしてはいないが……間接的に『アルゴーノーツ』をけなしたことになったんだし」
「実はですね、我々『アルゴーノーツ』がCランクに落とされそうなんですよ、私とテセウスではBランクの依頼は中々受けれませんし、アスクレピオスさんも「イアソンとメディアに話を聞かないと依頼は受けない」っていって協力してくれなかったので……」
「ああ、そういう……」
確かに主力メンバーが離れたのだ。Bランクの維持はむずかしかったんだろう。でもさ、それってテセウスのせいではなくてイアソンが悪い気がするんだけど……
「テセウスはイアソンさんの事を尊敬してますからね、だから『アルゴーノーツ』を維持するために必死だったんです。特に今はイアソンさんが帰ってくるって手紙がきましたからね。おそらくあの依頼を受けてイアソンさんと合流してフルメンバーで、依頼をうけて『アルゴーノーツ』の名声を復活させたかったんでしょう」
「そっかー、なら今度テセウスにあった時言ってくれ、俺は気にしてないし、焦る必要はないってさ。アスにも協力してあげるよういっておくよ」
「本当ですか!! よかった……正直このままじゃ崩壊寸前だったんで助かります。これで宿屋を追い出されないで済みます……カリュドーンの餌代も馬鹿にはなりませんからね」
そういうとアタランテは気が抜けたというようにカリュドーンをもふもふとしている。カリュドーンもなるがままにされていが目があうと「ありがとう」と訴えてきた。俺は手をふって武器屋へとむかった。




