13.ヘルメスの依頼
ちょっとした騒動になってしまったので俺達はギルドにある個室で話し合うことになった。ちなみに借りるのをアンジェリーナさんにお願いしたんだけど、笑顔を浮かべているけど目は一切笑っていない状態で「あとでシオンさんにはお話がありますからね」って言われたんだけど、デートのお誘いかなぁ……はい、絶対説教ですね、わかります。短期間で模擬戦をしすぎたよね。
「やあやあ、シオン君の戦いは見せてもらったよ。中々僕好みだねぇ、姑息で大好きだよ」
「はぁ……」
「まあ、確かにシオンらしかったわよね」
「カサンドラそれって褒めてるよね? 皮肉じゃないよね?」
「さあ、どうかしらね」
俺の懇願にカサンドラはふふんと鼻で笑う。ちなみにライムとシュバインは模擬戦の片づけをやってもらっている。ヘルメスの言葉が通じないからね。後でまとめて話した方が楽なのだ。
「でも、ここ結構高いわよね、支払いは大丈夫なのかしら」
「安心してほしいなぁ、知ってる? 賭けって言うのは胴元が儲かるようにできているのさ」
「うわぁ……」
そういやこの人さっき俺達の戦いで賭けをやってやがったな。一瞬で自分が儲かるように計算したのか……すごいけど何というか尊敬はできないなと思う。
「まあ、それはさておき、今回の依頼の話をさせてもらうよ。僕は趣味で骨董品集めもしていてね。たまたま、鍵である『魔王』の遺産を見つけたのさ」
「「魔王の遺産……?」」
俺とカサンドラの声が重なった。確かに魔王の最期は謎に包まれている。魔族の寿命は長い。生きているのならば何らかの活動はするはずである。それが無いという事は彼はやはり死んでいるのだろう。だが遺産か……聞いたこともないな。俺は警戒のレベルを上げる。
「そんな顔をしないで欲しいなぁ。僕は遺産と共にあった古文書を読み解いてね。彼の秘宝が隠された場所を見つけたのさ。この街には魔王の墓があるだろ?」
「魔王の墓ってあれよね、なんかアンデット系の魔物がでてくるとこよね」
「ああ、そうだ。そして墓の中には誰も入れない……」
俺の答えにヘルメスは満足そうにうなづいた。そして彼はカバンから真っ黒い細い棒のようなものを取り出した。俺とカサンドラはそのナニカから不思議と目が離せない。なんだろう黒くて昏くて小さいくせに存在感だけはある。
「そう、これがカギだよ。魔王の墓っていうけど、あそこに魔王の遺体はないよねぇ? じゃあ、あそこの中には何が入ってるのかなぁ? 君たちは興味が無いかな? 誰も入ったことのないダンジョン、まさに英雄譚に出てくる冒険じゃないかな?」
ヘルメスはにやにやと軽薄そうな笑みを浮かべていった。そう、あの墓の中身に関しては確かに誰も知らないのだ。まさしく冒険者の花形である。お互いに目を合せるカサンドラの目にはおそらく未知への探求心と冒険への高揚感に支配されていた。そして、それは俺も同じだろう。そうして、俺達はヘルメスの話を依頼を正式に受けることにした。