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9.指名依頼

「それであなたはなんでこんなところにいるのかしら?」



 俺達三人は路地裏から移動して友人のレストランで食事をしていた。結局肉串とフィッシュチップを食べただけだったからね。少々物足りない。



「もちろん君に会いに……だから無言で睨まないでくれないかなぁ。ちょっと面白いものを見つけたから冒険者ギルドに依頼をしようと思ってねぇ。それで……君がカサンドラちゃんのお仲間さんかい? ずいぶん仲良しみたいなねぇ、さっきも手をつないでいたし」

「なっ……」

「いや、あれは……カサンドラあれは急いでたからで……」



 ヘルメスの言葉に俺達はつい顔を真っ赤にしてしまう。やっべえあの時は無我夢中だったたけど、やっぱり嫌だったのかな? おそるおそるカサンドラの方を見るが彼女は何やら自分の手を見つめていて、いまいち表情が見えない。



「へぇー、カサンドラちゃんにも大事な仲間ができたんだねぇ。よかったよかった。ちょっと聞きたいんだけどさ、シオン君とやらもカサンドラちゃんと組んでいるってことはCランクからBランク相当の実力はあるっていう事だよねぇ。じゃあ、あんな冒険者たち敵じゃなかったんじゃない? なんであんな面倒な事をしたんだい?」

「ああ、それは彼らはこの街の冒険者だからな、下手にプライドを傷つけたら面倒なことになるかさ、それにお互い恨みは少ない方がいいでしょ?」

「ふーん、そういう考えか、力で押さえつけた方が楽だと思うんだけどねぇ……でも、まあ、そういう考え方は嫌いじゃないよ」

「それより、ヘルメス、あなたがここに来た理由を答えてほしいんだけど」



 俺達の会話を断ち切ってカサンドラが再度質問をする。なぜか彼女はヘルメスを信用はしていないようだ。そんな彼女の鋭い視線をヘルメスは胡散臭い笑みを浮かべながら受け止める。



「そんな怒らないで欲しいなぁ、この近くで未知のダンジョンを見つけてね、そこを探索しようと思ってね。そのために冒険者を雇いに来たのさ」

「未知のダンジョンですって……? あなたは本当に何者なのよ?」



 カサンドラが驚いた声をあげるのももっともだと思う。ゴルゴーンの里のよう魔物の巣の近くや、強力な魔物たちが生息している場所ならばともかく、大きな街の近くはすでに探索が終わっていることが多いのだ。そんななかで、未知のダンジョンを見つけるなど普通は考えられない。



「ふふ、僕はミステリアスな男だからねぇ、そこらへんは秘密ってやつだよ。そういえばカサンドラちゃんたちのパーティーはこの街でどれくらいに優秀なのかな? 場合によっては指名依頼したいんだけど」

「私たちは多分ベスト三位には入ると思うわ。ねえ、シオン」

「ああ、俺達群団レギオンはこの街で数少ないBランクだからね」



 実際のところこの街を拠点にしているBランクのパーティーは三つしかない。しかもアルゴーノーツは半壊状態だからね。ちなみにAランクのパーティーはこの街にはいない。もっと大きい街になら常駐しているが、圧倒的に数が足りないのだ。だから、この前の緊急ミッションでもAランクのパーティーはいなかったのである。



「いいね、なら君達にお願いしようかなぁ、さっき助けてくれたお礼もあるしね。そろそろ落ち着いただろうし、僕はそろそろお邪魔するね、お二人のデートを邪魔してごめんねぇ。お詫びにここは僕がはらっておくからねぇ」



 そういってヘルメスは席を立っていった。そう、俺達はデートをしていたのだ。でもさ、なんかそういう雰囲気ではなくなってしまったな。だってさ、未知のダンジョンだよ……そんなのさ……



「シオン……ヘルメスだけど、何を考えているかあまり、わからないから信用しないほうがいいわ。以前会った村でも、みんなにあんな感じで胡散臭いのよね……」

「じゃあ、依頼が来ても受けない方がいいかな?でもさ……」

「わかるわ、未知のダンジョンってテンション上がるわよね!!」

「だよねー!! マジで英雄譚みたいなんだもん」



 そういって俺とカサンドラは声をあわせる。そう、冒険者なんてやっていると初めてのダンジョンとか、誰も言ったことのないダンジョンなどは興奮するのだ。どんなお宝があるかわからないし、未知の魔物などを発見した場合ギルドの評価はあがる。つまり、Aランクへの近道にもなるのだ。何よりも英雄譚に登場する主人公たちのようでテンションがくっそ上がる。

 結局その後はどうしようかなどを色々二人で話し合って、夜もふけたので解散になった。あれ、俺達デートしてたんだよね? いつもとなんか変わらなくなっちゃったんだけど……






「…………」

「あの、アス、なんで何にも喋らないの? こわいんだけど……」

「私は誘ってくれないのに……カサンドラとは演劇に行くんだ……」



 昨日からずっとこんな感じで機嫌が悪い。どうやら俺とカサンドラが一緒にいるところを見たらしく、ずっとこんな感じで機嫌が悪いのだ。冒険者ギルドに行く道中ずっと機嫌が悪いんだけど……



「黙ってたのは謝るって。アスってそんなに演劇好きだったっけ? 今度みんなも誘っていこう」

「そうじゃないんだけど……鈍感……でも、まあ、シオンが連れてってくれるなら楽しみ……」



 よかった、機嫌が直ったみたいだ。俺は安堵の吐息をもらす。ちなみにアスはイアソンから手紙が来たらしいので『アルゴーノーツ』のメンバーと今後の打ち合わせをするそうだ。あいつ無事だったんだな……正直再会してもどういう風に接すればいいかはわからないけど、無事だと聞いて少しほっとしている自分がいるのに気づいた。



「シオンは優しいね……私だったらボコボコにしてる……」

「まあ、なんだかんだいって幼馴染だしね。でも、俺も一言くらいは文句は言わせてもらうけどね」

「シオンの分も……私が殴るから安心して……」



 アスが俺の顔を見て何かに感づいたらしく、嬉しそうに微笑んだ。こういう時に幼馴染というのはらくだ。彼女との時間は居心地がいい。



「あ、シオンさん、お客さんですよ。指名依頼が入りました!!」

「わかりました。今行きます。じゃあ、アスまたね」

「うん……よかったね……」



 ギルドに入るとアンジェリーナさんに声をかけられたのでアスとは別れ、アンジェリーナさんの方へと向かう。すると彼女は満面の笑みで俺を出迎えてくれた。しかもなんか無茶苦茶テンションが高い。



「シオンさん聞いてください、依頼の内容はなんと未知のダンジョンの探索ですよ!!」

「わかりました、依頼者はもうきてますか?」

「あれ? なんかリアクション薄くないですか? なんか私だけはしゃいでてバカみたいなんですが……」

「いやいや、そんなことないですって」



 俺の言葉に彼女は頬を膨らませる。確かに未知のダンジョンの探索と聞いてテンションが上がるのはわかる。いきなりきいたらびっくりするけど昨日きいたてからなぁ……心の準備はできているのだ。それに、ヘルメスっていうやつはカサンドラの言う通りなんか信用できないというか……



「シオン早かったわね、指名依頼がきてるみたいじゃない。まあ、ヘルメスからって言うのが心配だけど……」

『話は聞いてるぜ。未知のダンジョンって言う事は強い敵がいるんだろ、受けようぜ』

『なんかちょっと怖いなぁ、可愛い子もいなさそうだし、僕は留守番しちゃあダメかな……』

「とりあえずヘルメスの話を聞いてからにしよう。彼が来たらみんなの所につれてくね」

「わかったわ、皆には私の方から詳しく話しておくわね」



 ギルドに入った皆は俺とアンジェリーナさんが話しているのを聞いて、みんながそれぞれ好き勝手な事を言う。俺はとりあえずみんなには席についていってもらい、ヘルメスを待っていると軽薄そうな声が聞こえた。



「やあやあ、昨日ぶりだねぇ、本当に魔物を仲間にしてるなんてすごいなぁ。さすがこの街最強のパーティーだ」



 あまりに大声で言うからか、ギルド内の視線が俺達に集中してしまう。というか俺は別に最強とは言ってないよ? 上位とは言ったけどさ。

 案の定何人かから、調子に乗ってんなよみたいな視線を感じる。俺達はまだまだ結成して新しいパーティーだし、魔物などを連れているからか、目立っていることもあり、まだ万人に受け入れられているわけではない。特に緊急ミッションの後に街にきた冒険者や大事な仲間を失ったパーティーには不信感を抱かれているのだ。だから余計な事を言って目立ちたくはないんだけど……



「確かに俺達はこの街では強い方だけど、最強ってわけじゃないさ。とにかく話を聞くからそっちに行こう」

「いやいや、未知のダンジョンの探索だよ、何がおきるかわからないんだ。最強の君たちにお願いしたいんだよ」


 なんでこいつはまわりを煽るようなことを言うんだ。やたらと最強を強調するヘルメスを俺がさっさと席へ押そうとすると背後から声をかけられた。



「ちょっと待った、俺達を差し置いて最強を名乗るのはどうかと思いますよ、シオンさん」

「ちょっと……テセウスだめだよ。ごめんなさい、彼馬鹿なの」



 俺を睨みつけるテセウスをアタランテが制止している。彼らは緊急ミッションの時にイアソンとパーティーを組んでいた二人である。なんかすっごい嫌な予感がするんだけど……


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― 新着の感想 ―
[良い点] トリックスターがらしい事してますねー さて、彼の真意は如何に・・・!? さて、アスが可哀想なのでそろそろシオンをぶん殴って良いですか?(笑)
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