2.魔王の墓
「これでどうだ!! 火よ!! 俺式炎脚」
俺は片手に持った杖で、地面を爆破させてその勢いを利用して、目の前のスケルトンに強襲をかける。自分には被害が及ばない勢いに魔術を調整して解き放つのだ。勢いを増した俺の剣はスケルトンを容易に貫いた。ぶっちゃけ、カサンドラの技のパクリである。
「さすがねシオン、あなたならできると思っていたわ。あなたって魔術の制御はすごいのよね」
「すごいです、シオンさん!!」
「ふん、それくらい僕だってできるさ」
俺を見守っていた三人が三者三様で褒めたたえる。いやカストロは褒めてないな。むしろ、対抗心をもっているだけだな。俺達は今カサンドラ、ポルクス、カストロと共にクエストの最中である。
俺とカサンドラがギルドで喋っていたらポルクスにクエストに誘われたのだ。いや、喋っていたというか、カサンドラをデートに誘おうとしていたら、ポルクスが会話に入ってきて、クエストに誘われたというのが正しい。その時に俺がどう答えようか迷っていると、二つ返事でカサンドラが受けたのだ。
てかさ、ゴルゴーンの里で、カサンドラとちょっといい雰囲気になって、街に帰ったらデートしようって話をしていたから、その話をしたかったんだけど……そのために、ライムに頼んで、シュバインとどっかにいってもらってたんだけど……
もしかして、社交辞令だった? 童貞特有の自意識過剰だった? やはり、アスに相談するべきだったか……武器屋のおっさんにも杖を見てもらうついでに聞いたら絶対アスには言うなって注意されたから黙っていたんだけど失敗だったかもしれない。
「どうしたんですか、シオンさん、もしかして、ご迷惑でしたか?」
俺の表情に何かを感じ取ったのか、ポルクスが不安そうに声をかけてきた。ああ、気を使わせしまったなと申し訳なく思いながら頭を撫でてやる。
「そんなことないよ、ポルクス達の成長がみれて嬉しいかな。二人とも頑張ってるみたいだしさ」
「えへへ……嬉しいです。でも、私、もっと立派な冒険者になりたいんです。だからまた、今度勉強とか冒険に付き合ってくれますか?」
「ああ、いいよ。ポルクスは偉いな」
俺の言葉に彼女はガッツポーズをする。一体どうしたんだろうね、勉強は確かに大事だけど、そんなに喜ぶことでもないだろうに……ふと俺は違和感を覚える。いつもならこんな風にポルクスと話しているとカストロが邪魔をしてくるんだけどな……と思っていると彼はカサンドラに剣の振り方を教えてもらいながら顔を真っ赤にしている。おやおや、これは……
「なあ、ポルクス、カストロってもしかして、カサンドラの事が気になってるのか?」
「ええ、やっぱりわかりますか? 兄はわかりやすいんですよね……」
「まあ、俺はこういうの鋭いからな」
「いや、それはないと思いますけど……」
俺がニヤニヤと笑みを浮かべていると、ポルクスにすごい冷たい目で見られた。待って、彼女にこんな目で見られたのはじめてなんだけど……確かに彼女の兄の色恋沙汰をネタにするのは失礼だったかもしれないと思い話題を変える事にする。
「それにしてもここは相変わらずだなぁ……アンデットばかり出るね。『魔王の墓』ってだけはあるな」
「そうですね……ここって何でこんなにアンデットが集まってくるのかわからないんですよね……まあ、だから私達にはちょうどいいんですが……」
俺とポルクスは廃墟と化した墓石を見ながら思う。巨大な墓石の中には誰も入れないし、不思議な力で守られていて、壊すこともできない。どことなく神秘的なここもかつては観光地だったらしい。しかし、ある日からどこからか、アンデット系の魔物が集まるようになってきたこともあり、どんどんさびれていったのだ。
今では廃墟と化しており、こうしてアンデット達が街に来ないように定期的に討伐依頼のクエストが来るのである。ここに出現するアンデットはゾンビやスケルトンなど特殊能力をもたない魔物だという事もあり、Cランクの冒険者の絶好の狩場になっている。俺も昔はイアソンや、アス、メディア達と行ったものだ。あの時はアスの法術で一瞬で浄化してたな。
「あ、また、ゾンビですよ、シオンさん!! 今度は私がやりますね」
「ああ、やばくなったら助けるからな」
『誰か私に会いに来てくれ』
「え……?」
「火よ」
今何かゾンビがしゃべったような……俺が何かを聞き返す前にゾンビがポルクスの魔術によって焼かれていった。うわっ臭うな……あわてて近づいたがもう手遅れの様だ。
「なあ、ポルクス、今ゾンビがなんかしゃべらなかったか?」
「いえ、なんかキモイ唸り声はあげてましたけど……あ、でも、声上げててこわかったですぅ」
「いや、ノリノリで倒してたじゃん」
俺は怖がるふりをして抱き着いてくるポルクスに突込みをいれる。ここにいるような低級アンデット系の魔物の声は基本的に俺のギフトでも何か聞こえたりはしないのだ。おそらく知能がないからだろう。彼らの唸り声はそのまんま唸り声なのである。でも今のは……確かに意味のある言葉だった。一応アンジェリーナさんに伝えておいた方がいいだろう。もしかしたら魔王の墓の謎を解くヒントになるかもしれないからだ。俺はそびえたつ墓をみながら思う。
「シオンー、ポルクスちゃん、そろそろいくわよー」
「ああ……ってカサンドラどんだけ倒したんだよ!?」
「これだけ倒せばギルドも満足でしょう」
俺はどや顔をしているカサンドラの横で、大量の討伐証明の骨とゾンビ肉を抱えさせられているカストルに申し訳なく思いながら頭を抱えるのであった。多分カストルに褒められて調子に乗ったんだろうけど狩りすぎなんだよなぁ……てかカストルの匂いがゾンビ肉のせいでやばいんだが……