闇に響く声
「誰か来てくれ……私と会話をしてくれ……気が狂いそうだ……」
少女のつぶやきは闇へと消えていく。そこにあるのは巨大な水晶だった。そしてその水晶にまるで囚われるかのように埋まっているのは腰まである長い金髪の美少女と、少女の五倍以上の巨大な人型の生き物だった。その巨大な生き物は、その存在を主張するかのように、時折不快な音を鳴らす。ずっと一緒に水晶の中にいるのだ。親近感でも湧きそうなものだがそうなることは未来永劫ないだろう。なぜなら自分の本能がこれは危険だと訴えている。そして、この生き物が危険だという事を私は誰よりも知っている。
「誰か……私を見つけてくれ……私と話してくれ……寂しいよう……」
もう何年も、何十年も繰り返したつぶやきを繰り返す。その声は誰にも届かない。わかっているけど彼女は言わずにはいられないのだ。自我を取り戻してからずっと孤独だった。記憶があいまいで、なぜ自分がここにいるのかはわからない。だけど、彼女は確かに覚えているものもある。誰かと仲良く笑った記憶がある。誰かと喧嘩をした記憶もある。彼らの名前だって覚えている。
「また、会えるかな……ゼウス、暴食……」
その後も何人もの名前が続いていく。かつての仲間との思い出だけを胸に彼女は迷宮の底で生きるのであった。その名前を呼ぶだけで自分の胸が暖かくなるのであった。なんで私はあいつらと別れたんだろうな? 肝心な事が思い出せない。だけどおそらく彼等がもういないであろう事もわかっている。
「誰か私に会いに来てくれ」
だから寂しさを誤魔かすように眷属を使って誰かいないか探すもそれも徒労に終わる。少女の言葉は闇へと消えるのであった。
三章のはじまりです。
ようやく主人公達の物語です。




