堕ちた英雄16
ゴブリンの襲撃から二日ほどたって俺達は身支度をしていた。近くに魔物の巣はもうないようだし、なによりもケイローン先生がしばらくこの村に住むと聞いたのでもう安心だろう。今頃冒険者ギルドを経由して街に送った手紙も届いているだろう。
アスは絶対怒ってるだろうな……俺は街に帰還しての事を考えるとと少し憂鬱になった。それに、テセウスやアタランテにも謝らなければいけないだろう。そして……許されるならシオンとも話をすべきだ。だけど……不思議と体はこの村へと逃げるようにやってきた時よりも軽かった。俺は後ろで荷物をまとめているメディアを見ながら思う。一人ではないのだけは心強いものだ。
「ついに旅立つのですね、迷いははれたようでなによりです。シオンとアスによろしくと伝えておいてください。あの子たちは私が鍛えておきますからご安心を。メディア、イアソンをお願いしますね」
「もちろんです、あなたに言われるまでもありません」
「メディア……怒られるの俺なんだからケイローン先生にその態度はやめろよ……」
「ふふ、別に構いませんよ。仲の良い事で何よりです」
部屋を出た俺を出迎えたのはケイローン先生だった。ゴブリン達との戦いで、機転をみせたアレクとスキルに目覚めたフィフスを見て正式に弟子としてとることにしたらしい。そう言えばこの人は結局何で孤児たちを育てているんだろうか?
「いろいろとお世話になりました。二人はクソ生意気ですが、見所はあると思います。無っ鉄砲な所はありますが、ケイローン先生に育ててもらえるなら少し安心です」
「大丈夫ですよ、あなたほどクソ生意気ではないですから」
「イアソン様に何て口を……」
「な……まて、メディアこれは挨拶みたいなものだ。だから杖をおけ」
ケイローン先生の軽口に反応して魔術を放とうとしたメディアを俺は慌てて止める。そんなメディアに対してケイローン先生は楽しそうに笑っているだけだ。もしかして冗談だと思っているのかもしれないがこの女は普通に魔術を撃つぞ……
「ああ、そうだ。街に着いて、ヘルメスという男にあったら力を貸してあげてください。彼に力を貸すことがあなたが英雄になるための近道になるでしょう」
「ヘルメスですか……」
「それより、ほら、そこの二人が何か話したがってますよ」
聞きなれない名前に俺は、首をかしげていたが、ケイローン先生が指をさす方向をみるとシスターとフィフスとアレクがいた。しかし、ケイローン先生に友達っていたんだな。
「短い間でしたが色々と教えてくれてありがとうございました」
「俺もあんたより強くなってパーティーに入ってやるからそれまで死ぬなよ」
「こら、二人とも。ちゃんと挨拶をしなさい。イアソンさんありがとうございました」
好き勝手言う二人をシスターがたしなめる。そうすると二人とも俺をみて少し涙ぐんでやがる。俺はただケイローン先生に言われたから鍛えただけだというのに……
「俺が教えたのは本当に基礎だけだ。ここから地獄が待っていると思うがまあ、がんばれよ。死にはしないだろうが、死にたいなって思う事は2日に1回くらいはあるだろう」
「え、でもあの人はあんたと違って優しそうじゃないか……」
「優しいのと優しそうなのは天と地ほど違うんだよ」
俺が微笑んでやると二人ともげんなりとした顔をしてケイローン先生の方を見つめた。まあ、無事に卒業できれば冒険者としてはやっていけるだろう。それともこの村を守る道を選ぶか……それはこれからの二人が決める事だ。俺には関係ない。だが、まあ少しくらいやさしくしてやっても罰は当たらないだろう。
「俺はアルゴーノーツというパーティーで活動をしている。まあ、街に来る機会があったらギルドに連絡くらいよこせ。一日くらいなら予定をあけてやるよ」
そうして俺達は村を出る事にする。久々のギルドはどうなっているだろう。さすがにシオン達もまだAランクにはなってないよな……あとはアスにどうあやまろう……俺はかっこつけて出たものの少し憂鬱になるのであった。
これでイアソンの話は終了です。
次から三章になります。よろしくお願いします。




