偽りの英雄15
自分にとって魔物は全てを奪う恐怖の象徴だった。自分の両親を奪って、村の平和を、日常を奪う。だからだろう。その魔物を倒す冒険者という存在にあこがれた。
この村に冒険者が来るという話を聞いて柄にもなくワクワクとしたものだ。だけど、その期待はすぐに裏切られた。その冒険者は確かに強かったけれど酒を飲んで罵倒するだけだった。俺の期待はすぐさま軽蔑へと変わった。だからアレクのやつがその冒険者に剣を教えてもらうと言った時に俺は鼻で笑ったものだ。
「どうせ、適当にあしらわれるさ」
俺はあいつにそう言ったけれど、彼はそれでも頼むようだった。そして、最初はしぶしぶといった感じだったその冒険者も、アレクの熱意に押されたのと、もう一人のケイローンという冒険者の言葉によってきちんと教えてくれるようになった。俺もアレクに付き合って鍛錬をしていると、俺には剣の才能が有るらしいという事がわかった。
この力があれば俺もゴブリンを狩れるんじゃないだろうか? 俺の手で両親の仇を討てるんではないだろうか。俺の心は歓喜に震えていた。だけど……そんな気持ちも追ってくるゴブリン達を見てすぐに消え去った。
あの冒険者は言っていた。ゴブリン何て雑魚だと。ああ、確かにそうかもしれない、スキルを得た俺ならば一対一ならなんとか戦えたかもしれない。だけど、それは、相手が殺意をもっていなかった場合の話だ。ゴブリンに醜悪な笑みを浮かべられた俺は思わず剣を落としそうになる。そんな俺を支えたのは隣にいる親友だ。こいつにだけは情けないところを見たくないのだ。
「フィフス、このままじゃあ、まずいよね。村にゴブリンがきちゃうよ」
「ああ、そうだな。俺の剣で倒してやるよ」
そう答える俺の声は震えていなかっただろうか? 俺は何とか剣を構える。こちらに向かってくるのはでかいゴブリン一体と小さいゴブリンが三体である。不意打ちをして、俺が時間を稼いでいる間にアレクが村に救援を求めれば何とかなるだろう。俺がそう思い剣を構えたが、それをアレクが制止した。
「イアソンさんが言ってたでしょ。頭を使えってさ。これでもくらえ!!」
そう言うとアレクが石を投げる。それは放物線場を描いてでかいゴブリンに当たった。ゴブリンは何かを叫んでさらに加速していく。
「フィフスあそこに行くよ!!」
「なるほどそういう事か」
俺はアレクについていく事にした。そうだ、あの冒険者は頭を使えと言っていた。あそこに誘い込めば何とかなるかもしれない。
山の中を俺とメディアは走っていた。村へ向かう途中に追いついたゴブリンを倒しては進むというのを繰り返したせいで思ったよりも時間がとられたようだ。
「イアソン様!!」
「ああ、わかっている!! 悪い、先に行くぞ」
メディアの言葉に俺は脚を早める。森の中で何かがぶつかり合う音が聞こえたからだ。あのガキ共まさかゴブリンどもとと真っ向から戦っているんじゃないだろうな。俺は少し焦りながらも音の響く場所へと行く。
そこは不思議な光景が広がっていた。ゴブリンの数匹がトラばさみなどのトラップにひっかかりうめいており、体の大きいホブゴブリンの攻撃を二人が必死に回避をしていた。森の中という事もあり体の大きいホブゴブリンの攻撃をうまく翻弄しているようだ。
だが、それにも限界はあるようだ。トラばさみに引っかかっても少し動きが鈍くなるだけのホブゴブリンの持つこん棒がついにフィフスを捕える……はずだった。もしも俺がいなかったらそうなっていただろう。
俺の剣とこんぼうがぶつかり合う音がする。俺は突然の横入りに動揺しているホブゴブリンの腹を全力で蹴飛ばしてフィフスから距離をとらせる。
「なんで逃げなかったんだ、クソガキども!!」
「だって……この数のゴブリンがいきなりきたら……」
俺の言葉にフィフスは言いにくそうに答える。確かにこれだけのゴブリンががいきなり村にきたら、最終的には倒せるだろうが、老人や子供は襲われるかもしれない。この村の人間はこいつらにとって家族なのだろう。だが……
「それでお前らが死んだら意味がないだろうが!! まあ、正々堂々戦わなかったところだけは褒めてやるよ」
「うん、これはフィフスと一緒にイアソンさんを倒すために仕掛けたトラップなんだ」
ちょっと待って、トラばさみとか普通にひっかたら痛いんだが……こいつら冒険者を化け物か何かと勘違いしていないだろうか?
俺もギフトの加護はあるとはいえ普通の人間なんだが……俺は一瞬恐ろしいものをかんじたが、まあいいだろう。俺は再び英雄を目指すと決めたのだ。この姿が正しいかなんかわからない。俺は結局父の様に優しくはないけれど、叔父のように戦上手ではないけれど、俺は俺のやり方で英雄を目指すと決めたのだ。
「せっかくだ、俺の強さをみせてやるよ。見とけ、これがお前らを救う英雄の力だ」
俺はこちらに向かってくるホブゴブリンの一撃をかわしそのまま喉元を貫いた。そもそもこの程度の魔物は俺にとっては敵ではない。剣に貫かれたホブゴブリンはやがて動かなくなった。そして俺は背後で戦いをみていた二人に声をかける。
「お前らは弱いんだ。だから無茶をするな。まあ、だが、トラップを使ったのは良かったな。まあ、ガキなりには考えたと褒めてやろう。このままがんばればいつの日か冒険者になれるかもしれないな」
俺の言葉に叱られるかと思っていたらしい二人は驚いたような顔をしてそして泣きながら抱き着こうとしてきたのでかわす。あいにく男に抱き着かれて喜ぶような趣味はない。
「うっとおしいな、まだゴブリンどもにとどめをさしていないんだ。邪魔をするな」
俺はそして、遅れてきたメディアと共にゴブリンにとどめをさすのであった。だけど、なんだろう、二人に感謝されるのは悪い気持ちはしなかった。




