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堕ちた英雄14

 でかいゴブリンはゴブリンチャンピオンという通常のゴブリンより強力な魔物だ。Cクラスに分類されており、ゴブリンにしては腕力などが強力だが、その力は通常のオークより少し強い程度である。そして杖を持ったゴブリンはゴブリンマジシャンだ。ゴブリンのくせに魔術を使い、知能も高い。同じようにCクラスだが、こいつらが組むと厄介極まりないのだ。ゴブリンはオークほど強力な力はないが、その分ずる賢く、残忍だ。そしてその残忍さは何も敵である俺達だけではない。味方であるはずのゴブリンにも向けられる。極端な話こいつらは、部下を全て犠牲にして俺達を倒せるとなれば躊躇なくそうしてくるだろう。

 ただ、ゴブリンには致命的な弱点がある。リーダーを倒せば統率を失うという事だ。元々お互いを利用しあっているようなゴブリンである。強い奴が殺されたら、自分は殺されまいと逃げるだろう。そうなるとリーダーの見極めが肝心となる。

 普通だったらでかいゴブリンチャンピオンがリーダーだろう。だが、わざわざ巣を複数にわけて強襲に備える知能、先ほどの襲撃の手際の良さから考えるとゴブリンマジシャンの方がリーダーの可能性が高い。俺はもう知っている。魔物だからと言って体が大きい奴がリーダーであるとは限らない事を……



「フィフス、アレク村へ戻れ、作戦変更だ。はやくもどって奇襲に備えろとつたえてやれ」

「え、でも……」

「いいから行くぞ、アレク」

「不意打ちと追っ手に気をつけろよ」



 俺は二人を見送る。困惑しているアレクだったが、それをフィフスが制する。どうやらフィフスは察してくれたらしい。悪いな。思ったよりも面倒な事になりそうなんだ。お前たちは足手まといになってしまうんだよ。俺は逃げようとする二人を狙う矢を剣ではじきながらメディアに話しかける。



「メディア……やれるな。俺達にはこの前のようなミスは許されない。俺の判断を信じろ」

「はい、イアソン様となら私は何が相手でも戦えます。そしてイアソン様の言葉を疑いはしません」



 俺は武器を構えてメディアを守るようにして立ちはだかる。以前のような侮るような真似はしない。俺はゴブリンマジシャンを警戒しながら、メディアに命じて魔術を撃たせる。



「火よ!!」



 メディアの杖に強力な火の球が宿ると共に、ゴブリンチャンピオンへと向かう。ゴブリンチャンピオンの視線が一瞬泳ぎ、その視線の先にはいるゴブリンマジシャンが何らかのサインをするのを見逃さなかった。ああ、まったくもってシオンの言うとおりだ。目は口程に物を言いいやがる。別に言葉なんてわからなくても多少は対応できるものだ。俺はゴブリン達が撃った矢をはじくが、流石に数が多く何本か突き刺さる。俺は急所とメディアを避けながら受け止め、痛みに耐えながらメディアに命じる。



「メディア本命はあっちだ!!」

「わかりました」



 俺の命令によってメディアはの杖から放たれた火の玉が方向を変えてゴブリンマジシャンへと向かう。俺は近くにいた部下を盾にしようと掴んだまま驚愕の表情を浮かべているゴブリンチャンピオンにけん制として投石をして時間を稼ぐ。ゴブリンマジシャンは最後に何かを叫ぶと炎に包まれて息絶えた。急な魔術の方向転換はメディアクラスの制御力がなければ無理だからな。なまじ魔術を使える分予想外の事に相手も反応はできなかったのだろう。そして俺は最期にゴブリンマジシャンが上をみたのを見逃さなかった。魔術を放ち呼吸を整えているメディアを木の上に潜んでいたゴブリンが射抜くが読んでいた俺ははじき返す。本来ならばゴブリンチャンピオンに魔術を放ち、油断したところを奇襲するはずだったのだろう。俺がお返しとばかりに石を投げるとそれは見事にゴブリンの頭に当たり、そのまま落下したゴブリンはぐしゃりと音を立てて息絶えた。

 


「グォォォォォォォ!!」



 大きな咆哮と共にゴブリンチャンピオンを筆頭に何匹ものゴブリン達が一斉に襲ってくる。おそらくゴブリンマジシャンの最後の命令が失敗したせいか、やけくそになったようだ。

 まだ、逃げないのはゴブリンチャンピオンがいるからだろうか。俺はアスからもらっていたポーションを口にしながら剣を構えて、メディアを守るように構える。口の中を不快な感覚が襲う。効果は抜群ですぐに痛みは引いたがこの味は何とかならなかったのだろうか?

 などと考えている間にも敵は迫ってくる。ゴブリンチャンピオンの足は速くメディアの魔術は間に合わないだろう。通常ならばな。



「メディア、俺の後ろから魔術を放て、あのクソ女のまねごとをしろ。できるな? 俺はお前を信じている」

「……はい!!」



 俺とゴブリンチャンピオンの大剣が激突をする。しばらく動かなかったからなまっているかと思ったがあのガキ共との修行に付き合ったのは無駄ではなかったようだ。ゴブリンチャンピオンの大剣を受け流し一瞬できた隙のうちに俺は剣を掲げる。



「風よ!!」



 メディアの魔術がミスリルの剣にまとわりついた。この剣は『アルゴーノーツ』の全員で手に入れた力だ。俺はかつての思い出がよぎり、胸にずきりと鈍い痛みを感じながらも、前に一歩踏み込んで一閃した。魔術を纏った剣はまるで紙でも斬るかのようにやつの大剣ごとゴブリンチャンピオンを切り裂いた。



「カサンドラのクソ女以上の魔力を持つメディアとシオン以上の剣技を持つ俺の合わせ技だ。ゴブリンごとき相手になるわけがないだろう。死ね!!」



 色々と考えなければいけないこともあるだろう。やらなければいけないこともあるだろう。だが、今は村の平和が第一だ。俺が一閃するごとにゴブリンどもは数を減らす。 隠れていたゴブリンや、距離をとっていたゴブリン達はメディアの魔術によって切り裂かれていった。だが、多勢に無勢という事もあり、さすがにゴブリンの数匹が村の方へと逃げてしまった。だが、俺は……俺達はまだやれる。まだ強くなれるのだ。あの失敗は無駄ではなかったのだ。



「メディア行くぞ」

「はい、イアソン様。なにか晴れやかな顔をしていますね」

「そりゃあ、雑魚を狩るのは楽しいからな」

「ふふ、そういう事にしておきますね」



 そう答えるメディアはなぜかいつもよりも嬉しそうだった。


投稿していたはずができてませんでした……

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― 新着の感想 ―
[良い点] もう、作者様のイアソン愛が溢れ過ぎですね(笑) どっちが主人公だ!? 2人だよ。 と(笑) とりあえず、シオンが今の道を貫き過ぎると、どうなるかですね。 鈍感で自分の我を通す、実は意…
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