堕ちた英雄11
「たあぁぁぁぁ!!」
「くらえ!! そして当たれ!!」
俺は斬りかかってきたアレクとフィフスの攻撃をいなす。同時に斬りかかって連携しているので頭は使っているようだが、まだまだでつたない。俺はわずかに遅れたアレクに剣を受け流して、体勢を崩したのを見計らって、押しやるとおもしろいように、フィフスの攻撃を妨害するように倒れていき、それを見て、動きが遅れたフィフスの首に剣を寸止めをしてやると悔しそうに顔を歪める。
「はっ、スキルを手に入れて多少強くなったくらいで俺様とやり合えると思ったのか、雑魚が!!」
「くそがぁぁぁぁぁーーー!! 冒険者の癖に大人げないぞ、あんた!!」
「まあまあ、フィフス落ち着いて、イアソンさんには色々教わっているんだからさ。そんな言い方失礼だよ」
俺の言葉に対照的な反応をするアレクとフィフス、それにしても変わったものだ。フィフスのやつは最初はアレクに付き合っていやいやだったというのに今では本当に負けて悔しがっている。そして、そんなフィフスをなだめるようにアレクは話しかける。その光景に懐かしいものを覚えたからというわけではないがアドバイスをしてやることにした。
「そうだな、お前らもしっかり考えているから特別にヒントをやるよ。お前らは俺より弱いのはわかっているんだから正々堂々戦うな。数は上とはいえお前らと俺とでは腕前が違いすぎる。そうだな……ここはお前らの村なのだろう? 地の利とかを利用すれば、もうすこしまともに戦えるだろうよ」
「地の利ですか……?」
「作戦をかんがえるぞ。絶対勝ってやる!!」
そういって二人はあーでもない、こーでもないと何やら話し始めた。ああ、昔は俺もケイローン先生を倒すためにこんな風に話したものだなと過去を思い出す。あの人は俺達が必死に考えぬいてようやくヒントをくれるのだ。そんなことを考えていると背後から声をかけられた。
「イアソンさんありがとうございます。二人ともあなたのおかげで元気になったようで……」
「ふん、勘違いするなよ。しょせんこんなものは付け焼刃にすぎん。俺が教えてやっているのも先生がうるさいから仕方なくだな……」
「ふふ、イアソンさんは素直じゃないですね。二人とも最近はあなたの事ばかり話していますよ。最初は適当だったけど最近は色々教えてくれるって」
「人をツンデレみたいに言うんじゃない。あまりにも見当外れな事をしようとしていたから仕方なく教えてやっているんだけだ」
振り向くととシスターがいた。彼女は最初にあった時とは全く違い俺に好意的な表情を見せている。それは扇動していた時には見れない表情で……やはり父の様に優しい王こそが正解だったのだろうか? いや、今が平和だから慕っているようにみえるだけだ。非常時になればきっと……例えば魔物が攻めてきたら優しさだけでは守れないのだ。
「それでもいいんです。二人は魔物に両親を殺されてますからね。何か打ち込むものが必要だったんでしょう。付け焼刃でも、二人が元気になったというのは現実ですから。でも、最初に煽ってやる気を出させて、奮い立たせて、立ち直らせるなんて……私も騙されてしまいました。最初のあれは演技だったんですね。さすがBランクの冒険者さんですね」
いやいや、違うんだが!! マジでめんどくさいし、シオンに負けてへこんでいたから適当な事を言っていただけなんだが……焦る俺の顔を見て彼女は何かを勘違いしたのか「わかってますよ」といいながらクスクス笑う。俺は少し気まずくなって話題変える。
「そうか……ここは魔物がよく現れるのか?」
「はい……これまでは小競り合い程度だったんですが、ゴブリン達が活発になっていて、最近は狩人たちも手を焼いてまして……だから、イアソンさんが来てくださって助かっているのは事実ですね」
「なるほど……だから、昼から酒を飲んでいるだけの俺達に嫌な顔をしながらも受け入れていていたのか」
「はい、正直、最初はこの無駄飯喰らいどもめって思ってましたね」
「な……」
やはり、あのガキどもに優しくしすぎたのだろうか? すっかり、舐められている気がする。でも、そう言って笑う彼女の表情はまるであの二人を見守る母親のようで……俺は何が正しいのかわからなくなってしまう。父の様に優しい王が正しかったのか。叔父の様に扇動する王が正しかったのか……今の彼女のこの笑顔を作ったのは叔父の様に煽ったことと、父の様なやさしさなわけで……
「用事を思い出した。ガキどもには走り込みをやっておけと伝えておいてくれ」
俺はそう言って、シスターの元を去るのであった。わからないなら素直に聞くのも必要だろう。俺は俺なりに考えたのだから……今ならケイローン先生も何かを教えてくれるような気がした。




