堕ちた英雄10
翌日もアレクとフィフスは剣を交えていた。何気なく見ていたが、昨日と違う光景に気づいて俺は叱責をする。
「フィフス手加減をするな!! 本気でやれ!!」
「でも……」
「アレク、お前の方が剣の腕では負けている。ならば守りに徹しろ!! そして相手が疲労した隙をつけ。お前の方がフィフスよりも体力はあるんだ。格上相手に正々堂々と戦うな!!」
「え……あ、はい」
アレクは俺の言葉に一瞬驚いた顔をしたが、俺の言葉をかみしめるかのように何かをつぶやいて、剣を構えてフィフスに言った。
「フィフス手加減をしないでくれ、僕だってやれるんだ」
「いいんだな? お前の狙いがわかっているっていうのに、そんなにうまくいくと思うなよ!!」
そして、再びあたりに剣戟が響く。結局、勝ったのはフィフスだったけれど、昨日までとは違いいい勝負になった。そして、昨日とは違い二人とも笑い合って反省点を話し合っていた。俺が何ともいえない感情を抱きながら二人をみているとアレクが立ち上がってこちらへとやってきた。
「イアソンさんありがとうございます。おかげで少し戦い方が分かった気がします」
「ふん、この程度で戦い方がわかるわけがないだろう、調子に乗るな。まあ、ただ貴様が俺の言いつけを守って、毎朝走っていたことは知っていたからな、自分が得意なところで戦えと言っただけだ」
俺がそういうとアレクは嬉しそうにうなづいて日課の基礎の鍛錬を始めた。俺が一息ついていると今度はフィフスがやってきてアレクに聞こえないように小声で俺に礼を言ってきた。
「ありがとうございます、あいつなんか悩んでいたから……」
「勘違いするな、俺はケイローン先生にお前らに教えろと言われたから教えただけに過ぎない」
「それでも、あんたの言葉で救われたのは事実なんですよ。それと……俺にもコツを教えてくれませんか? その……あいつに追いつかれたくないんだ」
そういうと彼はフィフスの方を見て、少し嬉しそうな顔をして言った。その姿はまるでライバルが追い付いてきた事を喜んでいる表情だった。俺はその表情に懐かしいものと苦いものを感じながらも答える。
「面倒だな……お前の方が技量は上なんだ。せっかくスキルに目覚めたんだ。お前は走り込みより、素振りをしろ、効率のいい振り方はスキルがかってに教えてくれるさ。あとは俺が暇な時なら相手をしてやる」
「ありがとうございます!!」
そういって、フィフスも頭をさげて鍛錬へと向かった。最初はあんなに不真面目だったくせに一体どうしたというのだろう。その光景を見て俺は胸が痛む。もしも……俺もあの時にシオンを煽るのではなく、優しい言葉をかければかわったのだろうか? いや、人に優しくすれば舐められる。だから俺は叔父の様に……
「彼らは喜んでますね、心境の変化でもあったんですか? あんなにやさしい言葉をかけるなんて……ちょっと予想外でした」
「別にきまぐれですよ……ただ父だったらそうしたのかって思っただけです。でも、あんな甘い言葉なんて。あいつらのためになるかなんかわかりませんよ……半端に自信をつけて死ぬだけでしょうしね」
「甘さと優しさは違いますよ。英雄は人に慕われなければいけません、時に人を奮わせるために、人を扇動することは必要です。でも、それだけではいけません。それでは人は離れていきますよ。今のあなたならそれをわかっているでしょう」
「……」
ケイローン先生の言わんとすることを理解して俺は顔を歪める。昨晩のメディアの嬉しそうな笑顔、ガキどもの喜びに満ちた顔がよぎる。だが、人の本性は追い詰められた時に出る。俺はそれもまた知っている。そして、優しくすれば舐められるのだ。でも、シオンが悩んでいることを俺は知っていた。
アスはあいつを甘やしていたが、それもまたあいつのプレッシャーになっていたことを知っていた。だから俺は発破をかけるためにメディアの提案に乗ったのだ……でも、あの時優しい言葉をかけていれば何か変わったのだろうか? でも、俺達は幼馴染で、家族のようなもので、だから言わなくてもわかると思っていたのだ。だって、あいつは英雄になると俺やアスと誓ったのだ。だからもっと頑張ると思っていたんだ。俺達に追いつくために努力をすると思っていたのだ。
「ちょっとあのガキたちが調子に乗っていないかみてきます」
俺は胸の中にある痛みの意味を考えながら二人の元へと向かうのであった。




