堕ちた英雄8
「イアソン、人を憎んではいけないよ、人に優しくすれば、必ずそれは返ってくる。だから君は優しい王をめざしなさい」
それが父の口癖だった。俺はとある王家の第一王子だった。有能とは言えないが温厚な父と、優しく人を疑う事を知らない母の間に生まれ何不自由なく俺は育った。子供ながらに俺がこの国を継ぐのだなと思っていたものだ。子供ながら城内や、城下町を歩くたびに皆が父を褒めているのを聞いて嬉しく誇りに思っていたことを覚えている。そんな俺の人生が変わったのは5歳の頃だった。
平穏は突然終わりをつげた。隣の国に宣戦布告をされたのだ。父は戦の経験もなく、人の善性を信じる人だった。だからだろう和平交渉をしに行った結果、だまし討ちにあって命を失ってしまった。交渉に行く前に、賊に襲われて命を失ったらしい。隣の国は関係性を否定したが実際のところは怪しいものだ。
おそらく。父は幼い自分の事を想って戦争を回避したかったのだろう。だが、そんなことはもはやどうでもいいのだ。王を失ったからには後継者が必要である。しかし、平和な時ならばともかく、戦争中だというのに、当時五歳の俺に王を任せる事などできるはずもなく、俺が大人になるまでという条件付きで叔父が王の世話係になる事になった。
「そう怖い顔をするなよ、あくまで代理だ。今は非常事態だからな。お前が大人になるまでの話だよ」
そう言って笑いかけてくる叔父が俺は少し苦手だった。叔父は戦好きで乱暴者という事もあり、普段は敬遠されていたのだが、戦争がはじまるであろう今はタイミングがよかったのだろう。大した戦争を知らない我が国の連中はどうすればいいのか困惑していたが叔父はそいつらに言ったのだ。
「お前らは自国の王が死んだというのに騒いでいるだけなのか? 情けない話だな。あの世の兄も泣いているだろうよ」
馬鹿にするように嘲るようにそう言った。それに対する反応は様々だった。やはり乱暴者には国は任せられないというもの、俺の父は何で死んでしまったのだと嘆くもの、そして、悔しいけど今は戦わねばならないと奮起するもの。こちらがバタついても隣の国は待ってはくれない。我が国は叔父の主導で戦争を行うことになった。
最初は不安があった声も、叔父が勝ち続けていくにつれて不満の声はなくなった。叔父の側近たちは戦好きの叔父に率いられていたからか戦争がうまかった。そして、俺はお飾りの王としていたが、何がおきているかよくわからないまま戦争は終わり叔父は英雄と呼ばれるようになった。それまではいい。問題はそれからだった。
亡き父は確かに有能ではなかったかもしれないが平和を愛し民にも愛されていたはずだった。だけど戦争が終わり、叔父が更なる戦争で勝ち進むにつれて、評価は変わっていくのだった。「あの王ではだめだったのだと、今の王こそがふさわしいと」そして、その声が多くなるにつれて、こんな声も聞こえてくる。「イアソン様に王が変わってはまた我が国は弱くなるのではないか」平和なときは父を褒めたたえていた声はどんどん小さくなり、叔父を褒める声が大きくなっていく。そして俺はいつの日か叔父と国の主要人物たちに呼ばれたのだった。
「イアソンよ、この国はしばらく、俺が統治することになった。お前はしばらく、冒険者の元で色々と勉強をしに行き、やがて国の役に立ってほしい」
叔父の言葉を聞いたときは心底憎いと思ったものだ。だが、俺はただの小さい子供だった。できることなどはない。だから助けを求めた。父を慕っていた臣下をみた。気まずそうに目を逸らされた。父に失態を許されて、一生ついて行くと言っていた臣下をみた。彼は哀れなものをみる目で俺を見ていた。それで悟る。ああ、ここに俺の味方はいないのだなと。優しい父を慕っていた部下何ていなかったのだなと……命まで奪われなかったのは、父への罪悪感か、ともかく、俺は国を追放されたのだった。
冒険者に連れられて俺は馬車に揺られながら思う。いつかこの国に返り咲いてやる。そして俺は叔父たちに復讐をするのだ。父が弱いからこうなった。だったら俺は強くなってやる。叔父よりも強ければ問題はないだろう。優しい父は舐められたからこうなった。だったら優しい言葉でだめだ。そんなものでは裏切られる。父は簡単に信じたから裏切られた。だったら俺は何度も試そう、そして信用できるやつだけを周りにおこう。優しい父よりも、傲慢だけれど、人を煽り、戦が上手い叔父の方が評価をされるというのならば俺は叔父を超えよう。
「いい目ですね、あなたは憎しみを知っている、あなたは強くなれますよ」
その冒険者は……ケイローンと名乗った男は俺にそういった。こいつが何を思っているかなどどうでもいい。俺は叔父よりも強くなり、俺は国を奪い取ってやるのだ。だから俺は答えてやる。
「ああ、俺は誰よりも強くなってやる、だれにも舐められないように英雄になってやるさ」
そして俺はケイローン先生の元で色々と習うことになったのだった。ああ、でも、俺は……愚かだったかもしれないけれど、戦時は無能だったかもしれないけれど、優しい父の事が確かに好きだったのだ。
気分転換に短編を書いてみました!
読んでくださると嬉しいです。
ざまぁとか、もう遅いとかはないです。
『ツンデレ義妹に冗談で彼女ができたって言ったら「もう遅いんだ……」って走って行っちゃったんだけど…… いやいや、まだ間に合うよ!!』
https://ncode.syosetu.com/n2018gq/
 




