堕ちた英雄 6
「もたもたしてんじゃねえ、さっさと動けよ、クソガキども」
「はい……がんばります」
「くっそ……なんでこの人こんなに体力が……」
俺は二人の子供たちと一緒にひたすら走っていた。そして、力なく、ヘタレているガキを蹴飛ばして喝をいれてやる。するとガキどもは泣きそうな顔をしながらも起き上がる。
まったく、Bランクの冒険者様に指導を受けれるんだもっとありがたく思いやがれっていうんだ。しかし、これに何の意味があるのだろうか? 短期間の鍛錬など無意味だと思うんだが。俺はお互いを慰め合っている二人をみながら思う。だが、その光景は、俺の懐かしい記憶を呼び覚ます。シオンともこんな感じでケイローン先生にしごかれていたな……
「イアソン様、こちらをどうぞ」
「ああ、ありがとうよ」
俺の思考をメディアの言葉が遮る。俺はコップに注がれた水を遠慮なく飲み干した。ふと視線を感じたので目をやると、アレクとフィフスがこちらを羨ましそうにみていた。
「すいません……僕たちにも水をいただけないでしょうか……」
「このままじゃ……死ぬ……」
「は? 何を言ってるんですか、これはイアソン様のためだけに作った私特製の水ですよ、なんであなたたちにあげなきゃいけないんですか?」
メディアの言葉に二人は絶望的な表情を浮かべる。いや、特製の水ってなんだよ。なんか変なもの入ってないだろうなと思ったが怖くて聞けなかった。それよりもやることがある。俺は助けを求めている目でこちらを見つめる二人に満面の笑みを浮かべていってやった。
「これは俺の水だぞ、誰がやるかバーカ。メディアおかわりだ」
「はい、愛を込めて作りますね。水よ」
空のコップをメディアに差し出すと、メディアが魔術で水をだし、圧倒的な制御力でコップに水を注いだので再度目の前で飲んでやる。すると二人のガキどもの顔が歪んだ。
「くっそ、性根が腐ってる……シスターに水をもらいにいこう」
「でも……」
「いいからいくぞ、このままじゃ、マジで死んじまう」
二人のガキたちが逃げ出すように走っていった。まあ、今日は十分走った。あとは飯を食べたら素振りでもさせればいいだろう。二人は仲良く助け合っている。その姿は俺とシオン、アスでケイローン先生との特訓を受けた時の事を思いださせる。いつも俺とシオンが死にそうな顔をしていて、アスは無表情だけど実は一番体力がなくて、よく気を失っては二人で心配したものだ。
最初は俺達三人とも同じくらいだったのだ。変わったのはギフトとスキルに目覚めてからだった。まずはアスがギフトに目覚めて、彼女は後方支援の道を選んだ。次に俺がギフトに目覚めて、前衛で戦う道を選んだ。そしてシオンが最後にギフトに目覚めたが戦闘向けのギフトではなかった。あいつはそれでも冒険者であることを選んだ。冒険者になりたてはそれでもそこまでの差はなかったのだ。でも、ランクが上がるにつれて差は広がっていく一方だった。あの時俺は他にできることは本当になかったのだろうか? あいつを追放するのではなくもっと何かいい方法あったのではないだろうか……
「楽しそうですね、イアソン」
俺が考え事をしていると、ケイローン先生に声をかけられた。それに肩を竦めながら答える。
「そう見えますか? 暇つぶしですよ。こんなのは……」
「いえ、これはあなたに必要な事です、そのうちわかりますよ」
「はあ……それはいったいどういう……?」
質問する俺にケイローン先生は笑うだけであった。