堕ちた英雄 5
「久しぶりですね、イアソン元気そうで何よりです。冒険者としても順調そうですね」
「いえ……今は色々と……」
「はは、知ってますよ、皮肉ですから」
ケイローン先生は笑顔を浮かべているが目は一切笑っていない。おそらく、アスあたりが手紙でも送ったのだろう。居場所は隠していたはずなのだが、彼は狩りの名手であり、元Aランクの冒険者である。どんな方法を使ったかはわからないが、本気を出せば俺の居場所を見つける事なんてたやすいのだろう。
「この男……イアソン様を……」
「いいんだ、メディア黙っていろ」
俺はケイローン先生に敵意をあらわにするメディアを制止する。メディアはケイローン先生の怖さを知らないからこんな事が言えるのだ。
ケイローン先生と合流した俺達は酒場に来ていた。酒を進めたのだが、「水で結構です」と断られてしまった。さて、一体どんな説教がくるやら……アスの手紙の内容はわからないが、ぼろくそにかかれていることだろう。これが他の人だったら無視をするのだが、この人は俺の親代わりであり、恩人でもある。俺を……俺の親父との約束をやぶったあいつらから救ってくれた恩もある。この人だけは無下にできない。
「イアソン、あなたは何か勘違いしていますね。私はシオンを追放したことを怒っているのではありません、冒険者ですからね。実力不足、相性、目的など様々な理由で道をたがえることはよくあります。そして、他者の言葉に惑わされることも……シオンの追放は本気であなたの意思なのですか?」
そういって、ケイローン先生は俺を見つめる。俺は視線を受け止めきれず逸らしてしまう。なぜ、シオンを追放したかったかだって、そんなのは決まっている。あいつはあのままではだめだった、あいつは俺の隣を歩くことをやめてしまっていた。俺の後ろを歩こうとしたのだ。もちろんメディアに言われたのもある。だが、俺は自分の意思であいつに追放を言い渡したのだ。でも、シオンが……本当に俺達から離れるなんて……
「なぜあなたにそんな事を話さないといけないんですか!? この問題は『アルゴーノーツ』の問題です。口を挟まないでいください」
「あなたがメディアですね……イアソンに命を救われたと聞きましたが……なるほど、これはなかなか……」
俺の思考はメディアの言葉によって中断される。にらみつけるメディアをケイローン先生が見定めるように見つめている。あまり変なことを言う前にと思い、制止しようとするが、ケイローン先生の視線によって、止められる。
「はい、そうです、私はイアソン様に救われました。命だけではありません、私の冒険者としての人生もこのお方が救ってくださったのです。イアソン様だけが私を救ってくれた」
「なるほど……英雄の形は様々ですからね。シオンやアスでしか救えない者がいるようにイアソンでしか救えない者もいるのでしょう」
「いえ、イアソン様こそが真の英雄なんです」
彼女の言葉に興味深そうにケイローンはうなづいた。メディアは一片の曇りのない目で俺に尊敬の視線を注ぐ。英雄……俺の目指す存在であり、俺の『ギフト』でもある。でも、今の俺をそう呼ぶのはメディアだけだ。『アルゴーノーツ』が順調だった時は、俺をそう呼ぶ奴もいた。だが今はどうだ。みんながシオン達を褒めたたえてやがる。正直言おう、実際の所それがショックだったわけではない。そんな事は昔から知っているのだから。
今、将来を共に話していた者が、次の日にはこちらを罵倒する。そんな事は良くある話である。だから俺は人を試してしまう。俺が欲しいのは本物の仲間だけだからだ。試すごときで離れるなんて本物ではない証拠だろう?
「イアソン……人はいつでも冷静な判断はできないんです。追い詰められていた場合は普段なら通じる言葉だって、通じなくなってしまうんですよ」
「それは一体どういう……」
「先生、お願いします」
「俺にも教えてもらえるってきいたんだけど……」
俺とケイローン先生の会話は乱入者によって中断される。声のする方を見ると二人のガキ共がいた。ああ、そういえばケイローン先生に戦い方を教えろとか言われたな。
「ではイアソン、彼らに戦い方を教えてあげてください」
「でも、今何か大事な事を……」
「そうですね、この二人に立派に教える事ができたら私もあなたに教えてあげましょう。等価交換というやつですね」
そう言ってケイローン先生はニコニコと底知れない笑みを浮かべながら言った。面倒な事になってしまった。だが先生のいう事だ、従うしかないだろう。メディアとケイローン先生を二人にするのは不安だが、知ったことか。そうして俺はしぶしぶと外へ出るのであった。
イアソン編がおもったより長くなってしまいました……
また新作を始めました。幼馴染とのいちゃらぶものです。よろしくお願いいたします。
『催眠ごっこで結ばれるラブコメ ~初恋の幼なじみの催眠術にかかった振りしたらムチャクチャ甘えてくるんだけど』
https://ncode.syosetu.com/n1226gp/
短編で円卓モチーフの追放ものを書いてみました。よかったら読んでくださると嬉しいです。
これだけで完結しております。
『音魔術によって心を癒せる宮廷音楽家、戦争の役に立たないとリストラで追放されたが、隣国の剣姫に拾われて楽しい宮廷ライフを過ごす。~城内がギスギスして内部崩壊しそうだから戻ってきてくれと言われてももう遅い』
https://ncode.syosetu.com/n1751gp/




