堕ちた英雄2
辺境の地の村の酒場で俺は昼間っから酒を飲んでいた。さびれた村という事もあってか、客は他には誰もいない。幸いにもBランクの冒険者の肩書があることもあり、この村で何か起きた時のための専属の冒険者として雇ってもらっている。こんな辺鄙な村である。変わりの冒険者が来ることもそうそうないので、このまま生きていくことは可能だろう。
だが、本当はこんなはずではなかったのだ。本来ならば俺はもっと大きな街で賞賛を浴びるべき存在のはずである。俺はシオン達に救われたことを……あいつらが賞賛を英雄扱いされていることを思い出してしまい、己の中の昏い感情が爆発する。
「くそがぁぁぁ!! なんであいつは活躍をして、俺はこんなところで……」
勢いよく投げた酒瓶が、壁にぶつかりガラスと、中身がぶちまけられた。だって、そうだろう。本来ならば俺はこんなところにいる人間ではないのだ。俺のギフトは『??の英雄』まだギフトは解放されていないが、英雄なのだ。この世を、世界を救う可能性のある選ばれた存在のはずなのだ。スキルやステータスもそれに見合うだけのものを持っている。なのになぜ『翻訳者』すぎないあいつが街で賞賛されて、俺はこんなとこにいるのだ? 世界が間違っている。
「イアソン様!! 落ち着いてください。あなたが英雄だという事は私がわかっていますから!! 今は確かにこんなところにいますが、あなたはいずれ世界を救う存在になるはずです」
「うるさい、こうなったのはお前のせいだろうが!! この魔女め!! お前が俺をそそのかしたから……」
煩わしい声で話しかけてくるメディアに俺は怒鳴り返す。そもそもこいつがシオンを追放しようとなんて言わなければこうはならなかったのだ。シオンもシオンである。俺が追放するといったからって、すぐに新しいパーティーを組みやがって……あんな女のどこがいいというのだ。俺はカサンドラとか言ったあの女の顔を思い出して顔を歪める。魔族の血を引く血のような赤い髪の炎使いの女だ。だが、正直そんなことはどうでもいい。あの女を見つめるシオンの目には確かに信頼があった。出会って数日にすぎないであろうにもだ。それが、余計に俺の感情を揺さぶるのだった。
「シオンやアスクレピオスがいなくても、私はずっといます。だから落ち着いてください、イアソン様……私の英雄」
メディアは俺に抱き着いてくる。甘い香りと共に、柔らかい感触が俺の体を支配する。黙って考え事をしている俺の視界に彼女の妖艶な笑みがうつる。でも、この女が、こいつだけが俺のついてきてくれたのだ。俺はため息をついて、彼女の頭を軽くはたく。
「どこで習ったかわからんが、そういうのはもっと大人になってからしろ」
「おかしいですね……私の聞いたはずではこれで男はメロメロになると聞いたのですが……やはり、アスクレピオスに媚薬の調合をお願いすべきだったのでしょうか……」
そういうとメディアは少しがっかりしたようにため息をついた。痩身痩躯の彼女は人形のような美貌を持っているが、芸術品のような美しさであり、なんというか、そういう気分にはならないのだ。あと、ぶっちゃけ、肉付きのいい女性の方が好みということもある。とはいえ、一回冗談半分でそう言ったら、色々と大変なことになったので彼女にはいわないようにしているのだが……
「だいたいお前だって俺のそばからいつか、去っていくんじゃないか?」
「ありえませんね。シオン達がいなくても私があなたを守りますから。私はあなたのものですから。だから、私を捨てないでくださいね」
「ふん、お前に守ってもらわなくても俺は生きていける」
俺はこちらに抱き着こうとしてくるメディアの頭をポンポンと叩いてやる、すると彼女は目をつむってなにやら笑みを浮かべている。今はそういっているが彼女とていつまでも俺の元にいるかなんかわからないのだ。
俺はすでにそういう事が実際おきる事を知っている……だから、俺はケイローン先生の元へと行くことになったのだから……俺が考え事をしていると、俺達の前に酒場の店員が慌てた様子でやってきた。
「冒険者様、子供がゴブリンの巣にいってしまって……」
「ああ、わかった。メディア行くぞ」
「ええ、もちろんです。でもイアソン様お酒が……」
「馬鹿にしているのか? ゴブリン程度酔っていても敵ではない。俺は英雄になる存在なのだからな!!」
そうして俺は装備を整えゴブリンを倒しに行くのであった。
というわけでイアソンの話が始まります。
よろしくお願いします。




