56.それぞれの道
今日は二話更新してます。これは二話目です。
アスの言葉に俺は驚いて、一瞬馬車の手綱を離しそうになった。ガタンと言う音と共に少し揺れるが俺はなんとか、馬たちを落ち着かせる。
「理由を聞いてもいいかな?」
「うん……今回一緒に冒険をして思ったんだ……私とシオンは目指すものが違うんだよ……私はゴルゴーンより、シオンが……人が……大切なんだ……」
「アスそれは違うよ、俺だってアスの方が大事だ」
「でもさ、シオンは、見知らぬ人とメデューサやフィズどちらかしか救えないなったら、迷わず、メデューサを救うでしょう?」
「それは……」
当たり前だ……だって、メデューサやフィズは友達で、見知らぬ人たちはただの他人だ。ならば迷うことはなく俺はメデューサ達を助けるだろう。俺の表情で言いたいことを察したのだろう、アスはさらに言葉を続ける。
「もちろん、私だって、悩んだ末にメデューサ達を選ぶと思う。でもね……迷うのと、迷わないのでは結果的に救うのでも大きく違うんだよ……」
俺は彼女の言葉に何も反論できない。
「あの時だって、シオンの言葉にカサンドラやペルセウスは納得していたけれど、私は納得していないよ。私にとって魔物は魔物だから……余裕があったら助けるのはわかる。でも、命をかけてまで助けるのはおかしいと思う。今回だってシオンは重症だったよね」
つらそうに俺の左腕をみつめながら言う彼女の言葉に俺は顔をうつむく。ゴルゴーン達を助けると言った時に彼女は反対をしていた。もしも、ピンチだったのが人の村だったら彼女はこれほどにまで反対をしただろうか?
俺が『アルゴーノーツ』にいた時はこんなことはおきなかったし、基本イアソンの行動に俺達は苦笑しながらついていくだけだった。だからこそ、俺は気づかなかったのだろう、自分とアスの価値観の違いに。
「別にシオン達が間違っているとは思わないよ……でも、私とは違うなって思ったんだ。今回はシオンの意見に従ったけれど、次はどうなるかわからない……私はカサンドラ達みたいにシオンの考えには賛成できないんだよ。その考えの違いは、いざという時に致命的な衝突になると思う……だから、私たちは一緒に冒険はできないと思うんだ……私はシオンと仲良くしていたいから……シオンの信頼できる家族でいたいから……それともシオンは私の言う事を聞いてくれる?」
「アス……俺は……」
冗談めかして言う彼女の言葉に俺は何も言えなかった。だって俺の目指している英雄とアスの目指している英雄が違うということがわかってしまったから。別にこれで俺とアスの仲が悪くなるとかではないだろう。むしろ譲れないものにお互い触れないという事も大切なのだ。言いたいことはわかるよ。でもさ、やっぱり寂しいな。アスが一緒に歩いてくれないのは寂しいな。
ここで泣けば、しばらくはアスは付き合ってくれるかもしれない。でも、彼女も色々考えて……寂しさをこらえて俺に言ってくれているんだ。だったら俺は……
「それにね、今回の冒険でシオンにも信頼できる仲間がいるってわかったから……私もがんばるからシオンもがんばるんだよ……」
「ああ、わかった。お互い道は違うけど頑張ろう」
「パーティーは組めないけどさ……私はシオンとできる限り一緒にいるからさ……」
そうして俺達は涙をこらえながら色々と話すのだった。昔の事とか、これからの事とかを話すのだった。
なんか恋人の別れ話みたいになってしまいました。
家族とかでもさ、分かり合えないところは触れないってのも俺はありだと思うんだよね。
そんな話です。