55.帰還
次の日の朝二日酔い気味だった俺はアスから薬を貰って飲んだ。なにこれ? 一気に頭がすっきりしたんだけど……効果がありすぎて逆に怖い。
酒の力もあってか、昨日の宴会は一応成功したようだ。最後の方は談笑しているゴルゴーンと人のグループもあった。このままゴルゴーンと人の関係が徐々にでも良くなったらなとおもう。
「シュバイン大丈夫なの? さっきから虚ろな目をしてるわよ?」
『蛇こわい蛇こわい蛇こわい……』
カサンドラが何やら、虚ろな目でぶつぶつと呟いているシュバインに声をかける。あいつは確か宴会の最中にライムと一緒にゴルゴーン達とどっかに消えたんだけど、何があったんだろう?
「なあ、ライム。昨日あの後どうなったんだ?」
『何もなかった、何もなかったよ……』
「あ、ゴルゴーンがライムをみてるよ」
『ひぃぃぃ!! プルプル、僕はエロいスライムじゃないよ』
「いや、マジで何があったの!?」
俺が声をかけるとライムはさっと甲冑の中に潜り込んでしまった。俺は二人の姿を見て、やっぱりゴルゴーンと人間の共存はむずかしいのかもと思い始めた。ライムはともかく、シュバインは何があっても気にしなさそうなのに……
「みんなありがとう、ゴルゴーンの里が落ち着いたらまた来てほしいな」
「我が歌姫との結婚式にはぜひとも来てくれ!! あと、そのアイテムは好きに使ってもらって構わない。必ず冒険の役に立つはずだ」
「だから僕らはまだ結婚とか考えていないっていってるだろう!? まあ……一緒に暮らしてしばらくしたら考えなくもないけど……」
「聞いたかシオン!! 今のは実質逆プロポーズだと言えるのでは!?」
「いちゃつくなら俺らが帰ってからやってくれない!?」
周囲を視線を気にせずイチャイチャしている二人にツッコミをいれる。俺がため息をつきながら、あたりを見回すと、アスがなにやら、へこんでいるアンドロメダさんと話していた。
「大丈夫……まだチャンスはある……幼馴染は負けヒロインじゃない……」
「うう……ありがとう、私がんばるよ。アスちゃんも頑張ってね。ぽっとでの女にとられないようにね。あいつら、いきなり出てきてかっさらうから気を付けてね」
「わかってる……いざとなったら薬で……」
いつの間にか仲良くなったアスとアンドロメダさんが会話しているのを俺はほほえましく見つめる。アスは人見知りというのもあって、中々友達を作れないからこうして俺達以外と話しているのを見ると嬉しくなるよね。二人のやりとりをみていると声をかけられた。
「おい、人間。この子が話があるって」
「別に私は……それに、こいつ人の街に帰るからもう会わないし……」
「だからってストーカーみたいに遠くから見てても、何も進まないでしょ」
「誰がストーカーよ!?」
振り向くと、友人らしきゴルゴーンに押されてこちらにやってくるフィズがいた。彼女はなぜか俺を睨みつけるようにしながら言った。
「ゴルゴーンの里を救ってくれてありがとう。おかげで里のみんなも喜んでいるわ。本当に助けてもらえるなんて思ってなかった……」
「言ったじゃん、俺は英雄を目指しているんだって。これくらいの困難は何の問題もないよ」
「そうね、本当に英雄みたいだったわ。白馬に乗って私たちを救う姿はまるで里に伝わる英雄みたいでかっこよかったわよ」
「そっか、よかった。なら俺はフィズの英雄になれたかな?」
フィズの言葉に俺は笑顔で答える。本当はマジでギリギリだったけどそれは言わない方がいいだろう。カサンドラやアスに心配させてしまったしね。
俺の言葉に彼女は一瞬何かを言いよどんだ後になぜか、顔を赤くして答えた。
「そうね、本当にあなたは英雄だったわ。ゴルゴーンの里と……私の英雄ね」
「里を救えたのは俺の力だけじゃないよ、みんなのおかげだよ。俺だけじゃキマイラなんてどうしようもなかったし。でも、ありがとう。英雄って言ってもらえるとすっごい嬉しいよ」
「でも……あなたが助けるって言ったからみんな動いたのよ」
俺の言葉に彼女は真剣な顔をして答えてくれた。その瞳には確かな感謝が宿っており、俺のしたことは間違っていなかったと確信が持てた。それにさ、こうして、感謝を直に言われると自分に少しだけど自信ももてるよね。
「今度里に来るときは言って。あなたはちゃんと見てなかったでしょうけど、ゴルゴーンの里には多分人間がみても楽しいところがあるわ。私が案内してあげる」
「ああ、楽しみにしてるよ」
そういうとフィズは去っていた。なぜか背後で友人に「やったわね」と言われるとなぜか顔を真っ赤にして「うるさい」とか言ってるがなにいかいいことでもあったのだろうか?
「またライバルが増えた……シオン、そろそろ行くよ」
「ああ、そうだね、そろそろ名残惜しいけどいくか」
そうしてみんなに挨拶をした俺達は街を目指して馬車に乗るのであった。ちなみに、ソラはゴルゴーンの里がもう少し復旧してから合流することになっている。まあ、馬車には乗らないしちょうどいいよね。
俺が御者台で馬車を操っていると、隣にアスがやってきた。行きと同じだ。色々とあったせいかずいぶんと昔のように感じる。
「シオン……ありがとう、おかげで私の目的のものが手に入ったよ……おかげで、万能薬に一歩近づいた……」
「俺も力になれてよかったよ。それでアスはこれからどうするんだ?」
「これから……か……」
俺の言葉に、アスは考え込むように呻く。アルゴーノーツはイアソンが行方不明ということもあり壊滅状態だ。アスの力なら臨時のパーティーに雇ってもらう事も可能だろう。でも、臨時パーティーには当たり外れがあるのも事実だ。それにうちにはヒーラーがいない。だから、俺は考えていたことを尋ねる。
「よかったら、アスも俺達のパーティーに入らないか? イアソンが帰ってきたら『アルゴーノーツ』の事は、その時に考えればいいと思うんだ。それにアスがいると頼りになるんだ。どうかな?」
「ありがとう……嬉しい……」
彼女は嬉しそうに笑顔を浮かべた後に一呼吸おいて俺にこう言った。
「でも、ごめん。私はシオンと……シオン達とはパーティーは組めないよ」
アスがそう言った理由は次の話できっちり説明します。