53.ソラ
「皆さま、ちゃんとご挨拶をするのは初めてですね。みなさまのおかげで里は救われました。本当にありがとうございます」
そういって笑顔で、ペルセウス達と、俺とアスを迎えてくれたのは新たな族長になったエウリュアレさんだ。カサンドラには念のため、シュバインとライムの様子を見てもらっている。ステンノがいない今、意識を取り戻した彼女かメデューサが族長にと言う話だったのだが……
「あなたが、ペルセウスさんですね、妹をお願いしますね。家事などはまだまだ修行不足ですのでガンガンきたえてあげてください」
「僕の事はいいじゃないかぁ……」
「無論だと言わせてもらおう、我が歌姫と一緒に住めるなんて夢の様だよ、姉様」
「君の姉様じゃないだろ? 僕の姉様だ!!」
「フッ、これから私と我が歌姫の姉様になるのだよ」
「ふたりは本当に仲良しですね」
「ああ、もううるさいなぁ!!」
エウリュアレさんとペルセウスの言葉にメデューサが顔を真っ赤にする。そう、人とゴルゴーンの和解の証に彼らは一緒に住むことになったのである。なぜか、へこんでいるアンドロメダさんをアスが慰めていたけれど、なんでだろうね。
「ふふ、それもあなたが……あなたたちが頑張ったからですよ。冒険者の方々にはこのたびは本当に感謝してもしきれないほどの気持ちです。何かお礼をしたいのですが……」
「私は……血がもらえれば問題ない……」
「もちろんです、ただ、私たちの血の効果は……」
「もちろん……他言はしないから安心してほしい……」
エウリュアレさんの言葉にわかってるとばかりにアスが頷いた。これでアスは安定して血をもらえることになった、これで依頼は終了だね。俺がほっと一息ついているとエウリュアレさんと目があった。その瞳は慈しみがあふれていて、心優しい方なんだなっていうのがわかる。
「シオンさん達にも何かお礼をしたいのですが……」
「いえ、俺達はアスの依頼できただけですから」
これからゴルゴーンの里は復興するのにも必要なものがあるだろう。余裕はないだろうし、そもそも、俺達は報酬をアスからもらっているしね。それに実は、ペルセウスからアイテムをもらうことになっている。だからゴルゴーン達はからは何ももらわない、これは俺達パーティーで決めていたことだ。
「お優しいですね。ですがそれでは私たちの気持ちが晴れません。だからこのお方を連れて行ってはいただけないでしょうか?」
『下賤なるものたちよ、我が貴様らについて行ってやろう。感謝してうやまうがいい』
エウリュアレさんの言葉を合図に空から飛んできたのは一匹のペガサスだ。彼は偉そうに空を飛びながらヒヒンと鳴いて俺達とエウリュアレさんの間に華麗に着地する。
「馬刺し!?」
「は? 馬刺し……? まさか、神聖なるペガサス様の名前ではないですよね……」
『こいつらは我の事を馬刺しと呼ぶのだ。罰当たりと思わないか? エウリュアレよ』
エウリュアレさんの表情に俺は嫌な予感を覚える。アスも何かを感じ取ったのか冷や汗を流している。やっべえ、髪が蛇になってるんだけど……アスはしゃべるのが苦手たからね、ここは俺がサポートしないと……
「いえ、馬刺しが食べたいなぁっておもっていたものでつい……」
「はぁ……人は変わっていますね。ま、今回の料理には猪などはありますが、馬はなかったですからね……今度いらっしゃるときには新鮮な馬刺しを用意しておきますよ。それで……このお方が里を守ってくださったお礼としてあなた方にご同行したいとおっしゃってます。お願いできますか?」
『フン、こんなサービスめったにしないんだからね」
うわぁ、すっげえ馬刺しにしてえ……俺は偉そうな顔をして鼻を鳴らす馬刺しを睨みつけながら思う。
「我が里の守護獣であるソラ様をよろしくお願いします」
あれ? こいつなんかもっとクソ長い名前じゃなかったけ? どうやらエウリュアレさんは馬刺し……じゃなかったソラの言葉がわかるわけではないようだ。よかった命拾いをした。まあ、ペットの飼い主とかも大体気持ちはわかるっていうけど言葉がわかるわけではないからね。俺は命拾いしたことに安堵の吐息を漏らした。そうして俺達はエウリュアレさんにお礼を言って宴会の続きを楽しむのであった。
ペガサスの名前がアークナイツとかぶったのはまじで偶然です。