悪い魔女は安心する
「今日は少し趣向を変えてみましょう」
「……趣向を変える? どういうことだい?」
十戦十勝。
それでも諦めずもう一回と盤の上の石を回収し始める魔女さんを遮ってそう切り出す。
「はい。これまでは魔女の出てくる話ばかりをしてきました」
「いや、ただの脳筋の話もあったような気がするけど」
「メインウェポンが斧なだけでちゃんと彼女も魔女です」
「魔女の定義」
「ともかく、自分はこれまで魔女の出てくる話ばかりをしてきました」
「……まぁ、そうだね」
「思ったんです。別に魔女さん、魔女の出てくる話望んでないなって」
「だって君のする魔女の話、大体魔女は酷い殺され方するんだもん」
「そこで自分は考えました。魔女の出てこない話でも別に良いのでは?」
「ということは、今回の話は魔女が出てこないのかい?」
「はい。簡潔に言うと狼が溺死する話です」
「オチを言うのはやめろと」
「この言い方だと何が面白いのかさっぱりですね」
「君、人に聞かせる気ある?」
「もちろんありますよ。最初にハードルを下げておけばよっぽどつまらなくない限りは凄く面白く聞こえるじゃないですか」
「ハードル下げすぎて地面に埋まってるけど」
「えへへ」
「褒めてないよ」
「では、そろそろ始めますね」
「まぁ、いいけど」
「昔、あるところに七匹の子ヤギとその母親ヤギが暮らしていました。ある日、森に食べ物を取りに行こうと考え、子供達には留守番をしてもらおうと考えました」
「子沢山、と思ったけど、ヤギなら別にそうでもないのかな。魔女が出てこないからなのか、凄く普通な出だしだね」
「母親ヤギは子供達を呼び、変装をする狼に気をつけて、絶対に扉を開けてはいけないよと注意します」
「一気に普通からかけ離れた。そもそも扉って」
「一軒家に住んでますからね」
「よくあの手で家が作れたね……。あと、変装する狼ってなに?
「最近は狼も流行に敏感ですから」
「……ボクの知ってる動物と中身が違いすぎるんだけど?」
「ちなみに二足歩行ですよ」
「……」
「留守番をする子ヤギ達。そこに狼がやって来て言いました。お母さんだよ。開けておくれ。声が汚すぎてすぐに子ヤギ達に狼だと看破されます」
「理由が酷い」
「しかし、狼は諦めません。チョークを買い、それを頬張ることで声を変えて再挑戦です」
「喉おかしくなりそう」
「声は騙せましたが、足が黒かった為に狼だと見破られてしまいます」
「母親ヤギの声とは」
「狼は次にパン屋で小麦粉を足に塗りたくって白くします」
「もう、騙すんじゃなくて普通に実力行使で扉蹴破ればいいのに」
「きっと、狼が蹴破れないような頑丈な扉なんですよ。そして、またヤギ達の家に行き、扉を開けるようにと頼みます。騙された子供達は扉を開けてしまい、狼が家のなかに入ってしまいました。慌てて隠れる子ヤギ達でしたが、一匹、また一匹と狼に食べられてしまいます。たった一匹、柱時計の中に隠れた末っ子を除いて」
「チョークを頬張った足だけ白い狼に騙されちゃったか……」
「帰ってきた母親ヤギは驚きます。扉は開けられ、家のなかは荒れ放題、子供達の姿も末っ子を除いて見当たりません」
「子を想う親の気持ちというものに種族は関係ない。きっと、悲しんだことだろうね」
「母親ヤギは慌てず六匹の子ヤギを丸呑みしてお腹を膨らませて寝ている狼を発見すると、腹を鋏で切り裂いて丸呑みにされていた子ヤギ達を救出します」
「思いの外たくましかった……。というか怖い」
「あと、子ヤギの代わりに石を詰めて縫い合わせます」
「母親ヤギめちゃくちゃ怒ってるよね」
「目を覚ました狼。なんだか腹から硬い物が転がるような音が聞こえ、やけに体が重たくなっていました」
「石詰められたからね」
「喉が乾いた狼は井戸で水を飲もうとしますが、石が重くて井戸に落ちてそのまま溺死してしまいました。めでたしめでたし」
「……めでたい……かな?」
「狼は魔女と並んで童話の悪役ツートップみたいなところがありますからね」
「なんだか狼に感情移入してしまいそうだよ」
「死に方のバラエティも豊かですよ」
「そんな種類の豊富さは求めてないよ……」
「でも、狼の死に方は魔女に比べるとありふれたものが多いので、その点では魔女が勝ってますよ。安心してください」
「ボクはそれを聞いて一体どんな風に安心すれば良いのさ」
「あ、でも、狼はよく丸呑みにしたあと腹を裂かれて中身を取り出されることがありますけど、魔女はそういうのないですね」
「ごめん。ちょっと安心した」