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悪い魔女は教わる

 ――魔法は使えなかった。


 そもそも、魔力が自分にはまるでないらしい。

 出鼻挫かれた魔女さんが「……魔力ないなら仕方ないよね。……うん。戻ろうか……」って哀愁漂う表情で言った時は本当に申し訳なくなった。

 ただ、まぁないものはない。


 魔女さんにあんな顔をさせたくないし、魔力だって可能なら寿命を削ってでも捻り出したいところではある。

 でも、ないのだ。ないものをどうにかすることはできない。


 だから、あるもので魔女さんの希望を叶えることにした。

 すなわち料理で。


「では、何を作りましょうか?」


 要するに親睦を深めようというのが魔女さんの希望。

 別に手段は問題ではない。

 一緒に料理を作っていれば自然と会話も増えるし、食べる際も調理時のあれこれで会話が生まれる、はず。


「プリンじゃないのかい?」


「もう、明後日の分までちゃんとストックが作ってあるので大丈夫ですよ」


「……そう。じゃあ、作るのは夕食になるのかな?」


「ですね。何か食べたいものとかありますか?」


「そうだね……何でもいいかな」


「一番困る回答やめてください。何でもいいならプリン夜ご飯にしますよ」


「ちゃんと考えるからそれはやめてくれ……」


「そこまで嫌ですか? プリンは凄いんですよ? 普通に食べても最高に美味しい神の食べ物ですけど、軍艦巻きの上にのせて醤油を垂らせばウニの味になったりもしますからね」


「軍艦巻き……? ウニ……?」


「……? あぁ、そっか。この世界には寿司は伝わってないんですね」


「寿司?」


「……せっかくですし、今日のご飯は手巻き寿司にしましょう。美味しくて楽しいですよ」


「……? まぁ、君がそう言うなら。でも、さすがのボクも見たこともない料理は手伝えないよ?」


「見たことある料理でもどのみち戦力外なんだから気にしなくていいですよ。それに、用意さえ済ませてしまえば小さな子供ですら楽しみながら作ることのできる料理ですから」


「へぇ、それは楽しみだね。ところで君さっき何て言った? ボクが戦力外?」


「では、食材の買い出しに行ってきます」


◇◆◇◆◇


 ☆猿でもできる!美味しい手巻き寿司の作り方!☆


 1、ほどよいサイズの長方形にカットした海苔を手に取る。


 2、海苔の上に酢飯を適量のせる。


 3、その上にお好みの具材をのせる(特にプリンとか)。


 4、海苔でぐるっと食材を巻く。


 5、醤油をつけて食べる。


 ほら?簡単でしょ?

 これができないようなら猿以下だから人間名乗るの金輪際やめようね(笑)


 参考文献

 『猿でもできる!美味しい手巻き寿司の作り方!』著、猿山(さるやま)文紀伊(もんきぃ)


「ボクは、とても優秀だ。使えない魔法なんてないと自負しているし、同じ魔法を使っても誰よりも優れたものになると自覚している。その代償に料理の才能を奪われたに違いない。……だから、これはボクのせいじゃない」


「猿以下……」


「う、うるさい!」


 何をどうすればそうなるのか。

 見るも無惨にぐちゃぐちゃにされた海苔と表裏関係なしに引っ付いている酢飯。散乱した具材達。

 

 一応、念のためにと用意した昔読んだ手巻き寿司作りの本を参考に作成した紙芝居を見たときは「なんだ。全然簡単じゃないか。わざわざこんな紙芝居を作るなんて君って案外懲り性なんだね?」なんて言っていたのにこのザマである。

 二度と「ボクくらいの魔女になれば、料理なんて目をつむっていても簡単さ」なんて言わないでほしい。たしかにこの調子じゃ目をつむっていても開けていても大して結果は変わらないだろうけど。


「も、もう一回……」


「また、何の罪もない食材を犠牲にする気ですか?」


「し、失礼だな! コツは掴んだんだ! 次こそは君があっと驚くような手巻き寿司を作ってみせる!」


「酷すぎるって意味ではすでにあっと驚かされてますけど……」


「そういう意味じゃない! あっ、海苔が……君のせいだぞ!」


「何をどう間違えたら海苔でメビウスの輪が完成するんですか……?」


 絶対に自分のせいじゃない。


「次こそは……」


「魔女さん。このまま一人でやり続けると現代アートが完成しそうなので自分も手伝います」


「むっ。手出しは無用だよ」


「まぁまぁ、そう言わず。成功体験があればコツも掴めるかもしれませんし」


「……まぁ……それはそうかもしれないけど」


「では、手をお借りしますね」


「う、うん」


 背後から魔女さんの手を支える。

 なぜ、この人はたかが手巻き寿司でこんなにガチガチに固まっているのだろうか。


「魔女さん。海苔は掌にのせるだけです。握っちゃだめです」


「わ、分かってるよ」


「あ、酢飯はもうちょっと少ない方がいいですよ。あんまり入れると包むのが大変ですし、海苔が破けるかもしれません」


「う、うん」


「具材も欲張りすぎです。どうせいくつも作って食べるんですから一つひとつはそこそこに留めてくださいよ。どれだけ強欲なんですか。あと、プリンだけ避けるのはどういう了見ですか? 三食プリンにしますよ?」


「ほ、ほら。君のためにプリンは残しておこうと思ってね」


「そんな遠慮なさらず。むしろプリンだけのせても良いくらいですよ」


「ひぇっ……」


 うんうん。ちょっと不恰好ではあるけれど、ちゃんと手巻き寿司と呼べる代物になった。余計な具材が多すぎてプリンがちょっとしか入れられなかったのは残念だけど、まだまだ手巻きパーティはこれからだ。たっぷりプリンを食べてもらおう。


「……あれ? 気づけば結局自分だけで料理してるような……」


「……うぅ。絶対にプリンないほうが美味しいよこれ……」


 ……しまった。

 完全に当初の予定からずれてしまった。


「もう! 次はボクだけで作るから邪魔しないでよ?」


「……あ、はい」


 ……まぁ、でも、楽しそうだし、会話もあるし、これはこれで良かったのかな?

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