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悪い魔女は引きずる

「魔女さん。悪い魔女が溺死する話をしましょう」


「出オチ」


「英雄譚だって大概始まる前からオチは見えているものです。大事なのはその過程ではないですか」


「ハッピーエンドはともかくバッドエンドでそれをされるのは……。悪い魔女がふとしたときに見せる優しさとかがあったら苦しくなるじゃないか」


「ハッピーエンドですよ。悪い魔女が死ぬので」


「ボクにとっては立派なバッドエンドだよ。そもそも、悪い魔女が酷い死に方をする話はもうお腹いっぱいだ」


「……ま、茶番はここまでにして話を始めましょう」


「主の言葉を茶番呼ばわり……」


 気分がのらない様子の魔女さん。

 嫌よ嫌よも好きの内なんて言葉もある。話している内にのってくるだろう。


「一人の森林官が木の上に鳥に誘拐された子供を見つけます」


「早速情報量が酷い」


「子供を可哀想だと思った森林官は子供を連れて帰り、娘と一緒に大事に育てることに決めました。名前はめっけ鳥です」


「……鳥?」


「人です。子供です」


「名付けのセンスが酷すぎないかい?」


「ですね。普通、鳥の種類みたいな名前はつけないですよ。自分だったらもっとカッコいい名前をつけてあげます。バードとか」


「鳥」


「さて、そんなこんなでめっけ鳥と森林官の娘は成長していくのですが、二人の住まう家には一人の年をとった料理番の女がいました」


「あぁ、今回の犠牲者だね」


「ある日、森林官の娘は両手に桶を持ち、何度も井戸から水を汲む料理番の女を見つけ、どうしてそんなことをしているのかと尋ねます。女は答えました。鍋いっぱいに湯を沸かしてめっけ鳥を煮るのだと」


「なぜ言っちゃうのか」


「森林官の娘はめっけ鳥を連れて逃げ出します」


「だろうね」


「不幸な事故です。もし、めっけ鳥は人だときちんと説明しておけばこんなことにはならなかったのかもしれない。きっと鶏ガラスープが飲みたかったのでしょう」


「別にめっけ鳥を鳥だと思ったわけじゃないと思うよ」


「料理番の女は三人の召使いに二人のあとを追わせます」


「魔女がペラペラ計画を話したせいで仕事が増えるのだから召使いもいい迷惑だよね」


「森林官の娘は森の入り口で召使い達がやってくるのを見つけると、自分はバラの花になるからめっけ鳥はバラの木になるように言います」


「気でも狂ったのかな?」


「料理番の女の下へ帰った召使い達は報告します。バラの木とバラの花以外には何もありませんでした、と」


「なれちゃったよ」


「料理番の女はすぐにそのバラの木と花が子供達であることに気づき、召使い達を叱りつけ、もう一度捜索に行かせます」


「まぁ、魔女だからね。変身の魔法なんて見慣れたものだろうね」


「再び召使い達がやって来るのを見た森林官の娘はめっけ鳥に教会になるように言い、自分は教会のシャンデリアになります」


「森林官の娘、ちょっと楽しみだしてない? そもそも、いきなり森の中に教会なんてできたら怪しすぎる。まぁ、幸いなことに二人とも魔法が使えるようだからね。見つかったとしてもいくらでも闘いようはある」


「召使い達は帰って報告します。教会とシャンデリアしかありませんでした」


「もうクビだよそいつら」


「魔女はすぐに教会がめっけ鳥だと気づき、今度は召使い達だけでなく自分も森の中に入ることにしました」


「仕方がないね。召使い達に任せていたら逃げられてしまうもの」


「そんな彼女らを見ためっけ鳥は池に、森林官の娘は池に浮かぶカモになります」


「……愚策だね。召使いはともかく魔女にそんな子供騙しは通用しない」


「はい。魔女はすぐに池とカモの正体に気づきました」


「いよいよ魔法対魔法の対決か。数の差もあるし、子供達には不利な闘いになりそうだね」


「いえ、池の水を飲み尽くそうと横ばいになったところをカモにくちばしで掴まれて水の中に引摺り込まれて溺死します」


「バカなのかな?」


「たぶん、鶏ガラスープが飲みたかったんですよ」


「絶対違うのにもしかしたらあり得ない話でもないんじゃないかと錯覚してしまうくらいには間抜けな死に方だね……」


「ま、相手が子供と侮ったということもあるのでしょう」


「まさか子供がそこまで殺意に満ちて襲ってくるとは思わないものね」


「バカな魔女です。この世は弱肉強食。弱者に生きる資格などないというのに」


「それを理解して行動に移す子供なんてボクは嫌だ」


「まぁ、そんなこんなで間抜けを殺し、一仕事終えた二人は一緒に家に帰り、幸せに過ごしましたとさ。めでたしめでたし」


「二人は熟練の殺し屋か何かなのかい?」


「いえ、物語のなかでそういった話はなかったのでおそらくはただの子供です。だからこそ、きっと大人になった二人は当時のことを酒の肴にすることでしょう」


「何も喉を通らなくなりそう」


 苦笑を浮かべる魔女さん。

 けれど、まぁ、それなりには楽しんで貰えたようでなによりだ。


「あ、ところで聞きたいのだけど」


「なんですか?」


「めっけ鳥の正体は13人目の魔女であってるかい?」


「違います。作品も違います」

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