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悪い魔女は深読む

「食べ物で遊ぶのは良くないですよ」


「違う。これは人類の怒りだよ」


「下僕が頑張って作ったプリンをぐちゃぐちゃに潰すことがですか?」


「……巨乳、死すべし」


「ダメだ。目が据わってる」


 可愛らしい欠伸と共に目覚めた魔女さん。

 少しお腹が空いたと言われたので、魔女さんが寝ている間に作っておいた胸の形を模したプリンを出したら瞬きの間もなくぐちゃぐちゃに潰された。

 いっぱい食べられるように巨乳にしておいたのに、一体何が不服だったのだろうか(棒)


「せっかく上手く作れたのに。……うん、美味しい」


 ぐちゃぐちゃになろうがプリンはプリンだ。

 一欠片スプーンで掬って口に放り込むと甘い香りと甘味特有の幸福感に満たされる。


「ほら、魔女さんもどうぞ」


 いつもよりよっぽど上手くできた。

 これを一人で食べるのは勿体無い。

 手頃な欠片を掬い、魔女さんの口元まで運んで食べることを促す。

 

「……ふん。ボクは食べないよ」


「えぇ? 凄く上手に出来たんですよ。ほら、見てくださいこのプルプル感。匂いだって心なしかいつもより甘くて美味しそうじゃないですか?」


「……それは、ボクが一生をかけて憎むべきものだ……っ」


「いや、プリンですけど」


 うーん。少し意地悪をし過ぎてしまっただろうか。意固地になってしまっている。

 このまま全て自分が食べてしまってもいいけれど、それはそれであとから食べたかったとか言われそう。


「魔女さん。もはやこれはぐちゃぐちゃになったただのプリンです。せっかく魔女さんの為に作ったので、この下僕の気持ちを汲むという意味で食べて頂くわけにはいきませんか?」


「…………まぁ……それなら、食べてあげないことも……ないわけじゃないけど」


「ありがとうございます。では、どうぞ」


「……」


 差し出したスプーンにぱくりと食い付く魔女さん。

 もぐもぐしてて味の感想は聞こえないけど、表情を見るに満足のいく味だったらしい。

 よかったよかった。


「さて、では話に戻りましょうか」


「どこまで聞いたのだったかな?」

 

「王の娘が100年の眠りについたところまでですね」


「あぁ、頭空っぽ姫か」


「ちなみに彼女は貧乳です」


「なんて可哀想なんだ! 百年の眠りなんて酷く過ぎる! ボクは13人目の魔女が許せないよ!」


「手首千切れそうな勢いの掌返しですね。彼女が 100年の眠りについたあと、呪いは城中に波及し、城に居る全ての人は眠りにつきます。しかし、城の周囲の茨だけはどういうわけか急激な成長を遂げ、城は茨によって誰も入れない状態になってしまいました」


「……ふむ。ただの茨だよね? 入る方法はいくらでもありそうなものだけど」


「侵入を試みた者は茨に絡まって動けなくなって死にました」


「その世界、死に方が悉く馬鹿馬鹿しい気がするんだけど気のせいかな」


「紡ぎ車なめてると死にますよ?」


「どう転んでもあれに殺傷能力はないよね」


「角で頭殴られたら死にますよ。それから長い年月が経ち、近くの国の王子がこの国を訪れました。茨に覆われた城を見て王子は城の近くに住む老人にあの城は何かと尋ねます」


「そんな気味の悪い城の近くにその老人もよく住もうと思ったよね」


「たぶん気味の悪い城の近くだから地価が安かったんですよ」


「あからさまに危険な土地に住まざるを得ないほど追いつめられていたんだね。可哀想に」


「たぶんこの話聞いて老人に同情したの魔女さんが初めてですよ」


「……もしかして、これは伏線でその城の近くに住む老人が13人目の魔女なんじゃ」


「違います。老人は王子の質問にこう答えます。城の中には美しい女性が眠っていると聞いたことがある、と。王子は老人の答えを聞いてこう思いました」


「常識的に考えてあり得ないよね。そもそも眠ったまま100年なんて生きてすらいないよ」


「そんなに美しい人ならたとえどんな危険を冒してでも会いたいと」


「王子、頭のなかにゴミでも詰めてるのかな? どんだけ女好きなのさ」


「永い間、頑なに来客を拒んでいた茨は王子が近づいた途端、道を開けます」


「王子、絶対に呪いの関係者だよ。13人目の魔女の子孫とかだよ」


「そうして、王子は城のなかで眠っている王の娘を見つけだし、キスをすると娘は目覚め、王子と結婚し、王や王妃も皆目覚め、王子と姫は幸せに過ごしましたとさ。めでたしめでたし」


「……は?」


「え?」


「伏線の回収は!?」


「そもそも伏線とかないですけど」


「意味ありげに登場した謎の老人の正体は!?」


「ただの城の近所に住んでる老人です」


「よく分からないぽっと出の王子が茨に近づいた途端道ができたのは!?」


「さぁ? ちょうど100年経ったんじゃないですか?」


「寝てるところにいきなり見知らぬ男にキスされて結婚するまでに至った姫の気持ちは!?」


「いや、言い方。たしかに寝てるところにキスとかほとんど強姦と変わらないですけど」


 納得いかないといった様子の魔女さん。

 でも、そもそも童話にその手のツッコミを入れ出せばわりとキリがない。

 シンデレラとかなんで12時に解けるような半端な魔法かけてるんだよって話だし。


「まぁ、あれです。そもそも初めから金の皿を13枚きちんと用意しておけばこうはならなかったので全部王が悪いです」


「ここで自分に責任が飛んでくるとは王も思わなかっただろうね……」


 魔女さんもなんだかガッカリって感じだし、もうこの話は終わりたい。

 魔女さん相手には不幸なお姫様とそれを助ける王子様のラブロマンスなんてものは大して心揺さぶるものじゃなかったと知れただけ良かったと思っておこう。


 さて、次は何を話そうか。

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