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悪い魔女はボッチ

 召喚されてからかれこれ一月。

 今日も魔女さんは暇そうに椅子にだらしなく背を預けていた。


「……下僕君」


「暇ですか? では、悪い魔女の話を」


「……できれば他のが良いのだけど」


「ある国に、子供に恵まれない王と王妃が居ました」


「主人の話を無視する下僕とかたぶん君くらいだよ?」


「自分くらいですか。なんだか特別な感じがしてとてもいいですね」


「無駄にポジティブだなぁ……」


「……話を続けても?」


「……うん。まぁ、もういいよ」


 しぶしぶ、といった様子で頷く魔女さん。

 なんだかこれではまるで自分が話したいみたいじゃないか。

 自ら聞きたいと思ってもらわないと。


「安心してください。この話では悪い魔女は特に酷い目にあうことはありませんから」


「おや、そうなのかい?」


「はい。好き放題やったあとは特に話のなかにでてこない姑息なやり逃げ野郎です。最低ですね」


「ボクの顔を見ながら言うのはやめなさい」


「親代わりの人から人と話すときはちゃんと相手の顔を見なさいと教えられていたので」


「いい教育だと思うけど、今やられてるのはなんか違う」


「気のせいですよ。ところでやるだけやって責任とらないのってどんな気分ですか?」


「……」


「さて、話に戻りましょう。子供に恵まれなかった王と王妃ですが、ついに念願の子宝に恵まれます。女の子です。喜んだ王と王妃は国内に住む13人の魔女を祝宴に招待することにしました。しかし、ここで一つ問題が生じます。彼女たちをもてなすのに必要な金の皿が12枚しかなかったのです」


「買えよ」


「自分も思いますけどそういうこと言っちゃダメです。たぶんあれです。かなり特殊で貴重な金の皿とかそんな感じなんです」


「……うーん。まぁ、それで?」


「仕方がないので12人の魔女だけ招待しました」


「王のその金の皿への異常な拘りはなんなの?」


「たぶん、金の皿を崇める宗教とかに入ってたんですよ。そして、その結果、一人だけ仲間はずれにされてしまった魔女は報復として祝宴の最中に現れ、女の子が15歳になった時に紡ぎ車の錘が指に刺さって死ぬ呪いをかけたのです」


「死に方おかしくないかい? けど、まぁ、呪いの内容はともかく、妥当なところだね。誰か一人だけを招待しないなんて真似をするからそんな目にあうのさ」


 良い気味だと言わんばかりに悪い笑みを浮かべる魔女さん。

 少し意外だ。

 まさか悪い魔女のやったことに自称悪い魔女の実際はそれほどでもない魔女さんが賛同するとは思わなかった。


「さすがに少しやりすぎのような気もしますけど」


「いいや、そんなことはない。想像してみなよ、クラスの人気者の誕生日パーティーがあって、自分以外のクラス全員が招待されてるんだ。一体どんな気分になる?」


「……まぁ、それは……嫌、ですかね」


「だから、ボクは絶対にエリザベスを許さない」


「実話だった」


「あのアマ! 何がアイリスちゃんは優等生で勉強に忙しいと思ったから誘わなかったの~だ! お前がボクに勝てないからって裏でこそこそ取り巻きと陰口言ってたのボクは知ってるんだからな! 誰の胸がまな板だ!」


「変なスイッチ入っちゃった。あと、魔女さんアイリスって名前なんですね。可愛いですね」


「そ、そんな調子の良いこと言って、どうせ君もボクを騙して何かを企んでいるんだろう!?」


「魔女さん地雷源か何かですか?」


「どうせボクは貧乳だよ!」


「えぇ……なんですか急に。たしかに魔女さんの上で料理できそうなくらい真っ平ではありますけど……」


「口を開けろ。生まれてきたことを後悔させてやる」


「ごめんなさい。謝りますからその紫色の液体は机に置いてください」


「君はボクの逆鱗に触れた。そして、魔女は残虐非道だ」


「……そうですか。でも、自分は魔女さんは胸云々はともかく凄く可愛いと思いますよ?」


「……し、仕方ないな。今回だけだよ?」


「まぁ、胸も負けず劣らず可愛らしいですけど」


「……」


「さて、では話に戻りましょう。13人目の魔女が呪いをかけたあと、12人目の魔女によってその呪いは効力を弱められることになります」


「……まぁ、死に方おかしいからね」


「15歳になった時、紡ぎ車の錘が指に刺さって100年の眠りにつくという呪いに弱められたのです」


「もっと他に変える部分あったよね。そもそも死の呪い一つまともに解呪できないような魔女を呼ぶところからそもそも間違ってるよね。きっと、13人目の魔女は他の魔女より頭一つ抜けて優秀だったから嫉妬されていたんだ。可哀想に」


「凄いシンパシー感じてますね」


「そんなことないよ。ところで呪い一つまともに解呪できない役立たずの胸だけ魔女が処刑されるところまで話を進めてもらってもいいかな?」


「そんな展開はありません。王は娘の身を案じ、国内の紡ぎ車を全て焼き捨ててしまいます。しかし、15歳になった娘が一人で城の中を歩いていると、老婆が紡ぎ車を使い、糸を紡いでいるところに出くわします。娘はこれに関心をもって近づくのですが、その時、錘が手の指に刺さり100年の眠りにつくのです」


「警戒心ゼロかい? 胸にばかり栄養を取られて頭のなかすっからかんだったんだろうね。一生寝てろ」


「辛辣」


 いつになく饒舌な魔女さん。

 巨乳への憎悪だろうか。

 そもそも王の娘が巨乳だとは一言も言っていないのだけど。


「なんだかイライラしてきたから一眠りするよ。また、あとで話を聞かせてもらえるかな?」


「もちろん構いませんよ。どうぞ、毛布です」


「ありがとう」


 ソファーに横たわり、手渡した毛布を被るとすぐに寝息が聞こえ始める。いつもながらに眠りに入るのが早い人だ。


「さて、では自分は魔女さんが起きた時の為におやつでも作って待つことにしますか」


 何が良いだろうか。

 あぁ、そうだ。胸の形を模したプリンなんてどうだろう。

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