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召喚されたら自称悪い魔女に下僕にされた話 【連載版】  作者: 日暮キルハ


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18/40

悪い魔女は髪をとく

「久しぶりに魔女の話をしましょう」


 ビクリっ。

 一度大きく体を震わせると魔女さんはぎこちない動きでこちらを向き言った。


「……こちらの世界の魔女の登場する話に興味はない?」


 ないわけがない。ぜひ聞きたいところだ。


「それは面白そうですね」


 パッと魔女さんの表情が明るくなる。


「じゃあ」


「今度聞かせてもらいます」


「……」


 能面みたいな無表情になった。


「さて、今日の話の主人公は美しく長い金髪を持った一人の少女です。あるところに長い間子宝に恵まれずようやく子宝に恵まれた夫婦がいました。その夫婦の家からはとてもきれいな庭が庭が見えており、そこにはラプンツェルという植物が植えられていました。魔女の庭です」


「……魔女ってさ、君の世界だとそんな身近に住んでて良いような存在じゃないよね」


「庶民派だったんですよたぶん。妻は妊娠中、どうしてもその庭のラプンツェルが食べたくなります。そして、夫に取ってきてくれるように頼みました。夫は妻の頼みを聞こうと魔女の庭に忍び込みます」


「それ普通に窃盗じゃない? 魔女何も悪くないよね?」


「近い、近いです魔女さん。自分も同意見ですから離れて下さい」


 魔女擁護に余念が無さ過ぎる。


「……忍び込んだ夫はすぐに魔女に見つかります。そして、魔女は夫にラプンツェルを持って行くことを許す代わりに子供が生まれたら自分に寄越すようにと要求をしました。夫は怯えながらもそれを約束します」


「自分可愛さにまだ生まれても居ない子供を売る父親……」


「父親も大概ですけど、子供を欲しがる魔女も魔女ですよね。どんだけ寂しいんだよと。まるでどこかの魔女さんみたいです」


「……? 君、ボク以外に魔女の知り合いが居るのかい? ボク達の間で隠し事は無しにすべきだと思うんだけど?」


「残念ながら自分に魔女さん以外の魔女の知り合いは居ませんよ。それからしばらくして子供が生まれると魔女は子供を連れて行ってしまいました。両親はとても悲しみます」


「少なくとも夫の方には悲しむ権利ないよね。あと、魔女の敷地内に盗みに行かせた妻も言ってみれば元凶だからね。いっそ夫が邪魔になったから魔女の庭に送り込んで殺すつもりだったって言われた方がしっくりくるよ」


 ありそうで怖い。


「さて、それから十二年。少女はラプンツェルと名付けられ塔に幽閉されていました」


「いきなりとんだね。というか攫った少女に植物の名前って。しかも幽閉されてるし」


「塔には窓が一つあるだけ。魔女がその塔を出入りする際には窓から垂らされたラプンツェルの長く美しい金髪をよじ登る必要がありました」


「当たり前みたいに頭おかしいこと言い出した。ラプンツェル頭皮に痛覚ないの?」


「ある日、ラプンツェルが歌を歌っているとその歌声に惹かれて一人の王子が塔を訪れました。王子は魔女がラプンツェルの髪を伝って塔へと入って行くところを見て、ラプンツェルに同じことを頼みます」


「なんであっさり受け入れちゃうかな。そもそもどうやって頼んだんだろうね。君の髪を登って塔に入りたいんだ!とか? ボクだったらそんな奴絶対入れないけど」


「それで降りてきても怖くて登れませんよね普通。まぁでも王子は登りました。そして、ラプンツェルの歌声に惹かれたことを伝えます。ラプンツェルもそれを聞いて王子に惹かれます」


「ちょっろ。ラプンツェルちょっろ」


「……魔女さん」


「なに?」


「今日も綺麗ですね」


「えっ!? ちょっ、な、なにさ、もう……っ。そんなこと言われたってボクは騙されないんだからね! ……えへへ///」


「……」


 ちょっろ。


「二人は一緒になることを決意します。しかし、それを許さないのは魔女。二人が会えないようにラプンツェルの長い髪を切り、あげく荒れ地に連れていきそのまま放置してしまいます」


「ラプンツェルの何が魔女にそこまでさせるのか」


「可愛さ余って憎さ百倍って奴ですかね。何も知らずいつも通り髪の毛を登って王子は塔を登ります」


「いつも通り髪の毛を登るって言葉の異常性たるや」


「塔を登った王子を待っていたのは魔女。ラプンツェルはもういないことを告げられた王子は塔を飛び降りイバラのトゲで目を突き刺し失明してしまいます」


「どういう飛び方したらそうなるのさ」


 絶対狙いすましてますよね。


「失明した王子は数年間、森の中をさまよい歩き、とうとうラプンツェルのいる荒れ地に辿り着きます」


「普通に凄いよ。凄いけど、失明した状態でそれが出来るだけのバイタリティのある王子がどうして目からイバラに突っ込むような飛び降り方をしたのか不思議で仕方ない」


 だからウケ狙いですって。思いのほか失明したってだけで。


「ラプンツェルは王子との間に出来た子供たちと荒れ地で仲良く暮らしていました」


「ラプンツェル強い」


「母親は強いものですから」


「ラプンツェルの親にも聞かせてやりたいね」


 とんだ流れ弾。


「王子に気付いたラプンツェルは駆け寄り涙を流します。するとその涙が王子の目に触れた瞬間王子の目は元通りに治り二人は子供たちを連れて国へと帰り幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」


「ラプンツェルの涙なんなの。ラプンツェル絶対不死鳥の血とか流れてるよ」


「まさかラプンツェルの母親の不倫疑惑が浮上するとは」


 いつもながらに魔女さんの感想はおかしい。


「それにしても今回の話、魔女はとことん被害者だね」


「たしかにそうですね。ラプンツェルを幽閉したり置き去りにしたところはいただけないですけど、そもそも最初に余計なことをしたのはラプンツェルの両親ですし、幽閉してまで人と触れさせないように育てた娘は男と密会して駆け落ちみたいなことまでしでかしますし」


「可哀想な魔女。これは巡り巡って君がボクに優しくするべきだね」


「とんでもない理論ですね。まぁいいですけど。何をすれば?」


「はい。これ」


「……? 櫛、ですか」


「あぁ。君の話を聞いていたら最近まともに髪の手入れをしていないことを思い出してね」


「もったいない。せっかく綺麗な白髪をしているんですからしっかりしてください」


「だから君に頼むのさ。ボクがこの本を読み終わるまででいいよ」


「……別に構いませんけど」


 広辞苑みたいな本広げておいて譲歩した感じ出すのはおかしいですよね。


「そうだ。せっかくだからしりとりでもしながらにしようか」


「それ本読み終わりますかね」


 終わらなかった。

新連載始めました。

超能力者の少年が頭のおかしい少女に脅されて人助けをする話です。

よければ作者ページから読んでみてください。


こっちの投稿頻度もあげられるように頑張ります。

これからもよろしくお願いします。

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