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召喚されたら自称悪い魔女に下僕にされた話 【連載版】  作者: 日暮キルハ


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悪い魔女は語る1

「その……もし、あれだったら私の知り合いに性格いい子何人かいるから紹介してあげようか?」


「うるさい! 早く帰れ!」


 お土産のプリンを魔法で捻じ曲げ開いた空間の中に収納しながら遠慮がちに尋ねるシエルさん。

 魔女さんはそれに若干上ずった声で感情のままに叫ぶ。目にはうっすら涙が滲んでいた。


◇◆◇◆◇


「……そんなに恥ずかしがるなら話さなければよかったのに」


「だから! あれは! ボクの! 話じゃ! ない!!」


「それはさすがに無理がありますよ……」


 そっとしておくに越したことはない。

 そう思って変に構わないようにしてからかれこれ三時間。三時間前とまるで変わることなく椅子の上で毛布にくるまっている魔女さんに思わず声を掛けてしまった。


「ないもん! 無理なんかないもん! だって、あれはボクの話じゃないもん!!」


「あぁもう。分かりました。分かりましたから出てきてください。もう夕飯の時間です」


「嫌だ! 絶対今の言い方信じてないじゃないか!」


「何言ってるんですか。自分は魔女さんの言葉を疑ったことなんて一度もありませんよ」


「……ほんとに?」


「はい。間違いなくあれは魔女さんの話だと確信を持っています」


「もういいよバカ!!」


「まぁまぁ、そんなこと言わず。今日は魔女さんの好きなふわとろオムライスです。早く食べないと冷めてしまいますよ?」


「……っ。謀ったな!?」


「まさか。今日は色々と魔女さんにとって大変な日でしたから。労わろうと思っただけですよ」


「……。あれは本当にボクの話じゃないんだよ……?」


「はいはい。分かりましたから。早く食べましょう」


「うぅ……。なんだか釈然としないなぁ……」


「そもそも自分にとっては魔女さんに黒歴史があろうがなかろうがどちらでもいいことですからね。魔女さんが望まないならいちいち詮索しようとも思いません。それより今日の話の続きです」


「興味がないなら大人しくボクの言うことを信じてくれてもいいのに……。ん? 今日の話?」


 むすっとした表情でスプーンを手に取り、オムライスにケチャップで記した『可愛いぞ!アイリスちゃん!』の文字を塗り潰しながら愚痴のように呟く魔女さん。

 そして、顔を上げると分からないと言うように小首を傾げる。


「えぇ、今日の話です。言ってくれたじゃないですか。この世界のお話を聞かせてくれるって」


「あぁ、すっかり忘れてた。どれにしようか」


「主人公が死なない奴がいいですね」


「えー、嫌だ。できるだけいけ好かない人気者が惨たらしく死ぬ奴にしたいよ」


「可愛い顔してなんてこと言うんですか。もっと、こう……妖精とかが出てくる奴にしましょうよ」


「うーん。妖精……妖精かぁ。……うん。あれでいいかな」


「なんですか」


 半分ほど食べ進めたところでカチャリと小さな音を立てて魔女さんはスプーンを置いて向き直る。


「あるところに平民の貧しい少年と貴族の恵まれた少年がいた」


 そして、小さく一つ息を吐くとそう話を切り出した。


「恵まれた少年は生まれた時から全てを持っていた。才能も環境も容姿も。全てね」


「魔女さんが嫌いそうな人ですね」


「死ねばいいのにね」


「もはや殺意だった……」


「対して貧しい少年には何もなかった。才能も環境も容姿も。全てなかった。全て人並かそれ以下のものしか持っていなかった。けれど、貧しい少年には夢があった」


「夢、ですか」


「あぁ、夢だ。それもとびきり大きなね。……貧しい少年は世界一の魔法使いになりたかった。世界一の魔法使いなら少年の生まれた貧しい村に雨を降らせることが出来る。世界一の魔法使いなら時折村を襲う魔獣から村を守ることが出来る。世界一の魔法使いなら難病に侵された妹救うことが出来る。世界一の魔法使いなら全てを変えることが出来る。だから、少年は世界一の魔法使いになりたかった」


「……良い夢ですね」


「うん。でも、絵空事だよ。どれだけ想ったところで少年には何もない。けど、貧しい少年は諦めなかった。諦めなかったから努力を重ねた。その頃、恵まれた少年は特に努力はしていなかったけれどすでにその有り余る才能で色んな方面で結果を出し始めていた」


 努力と才能。

 なんとなくだけどこれはそういうものがテーマになっている話な気がしてきた。

 元居た世界での話に例えるなら『うさぎとかめ』なんかが相応しいのだろうか。


「貧しい少年は努力を重ねた。初級魔法が使えるようになった。剣を握っても体がふらつかなくなった。恵まれた少年は何もしていないけれど、その頃すでに上級魔法が使えたし、剣を握れば誰も彼を止めることはできないほどにその実力は高みにあった」


「…………」


「才能の差は歴然。貧しい少年が努力を怠った日なんて一日もない。けど、努力は必ずしも報われない。……そんなある日、日課の修練をする森のなかで少年はとある存在に出会った」


「……それが妖精」


「うん。妖精はずっと貧しい少年を見ていた。努力を積み重ねる少年を。それが報われない少年を。妖精はそんな少年を気に入っていた。だから、妖精は少年に提案した。自分の力を貸し与えることを」

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