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召喚されたら自称悪い魔女に下僕にされた話 【連載版】  作者: 日暮キルハ


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悪い魔女は語りたい

「これ美味しいわね!!」


「プリンタルトです。最近、魔女さんがプリンに飽きたとかいうものですから作ってみたんですけど成功ですね」


「こんな美味しいプリンに飽きるなんて……最悪の魔女は本当に傲慢ね」


 シエルさんがやれやれと言わんばかりに両手を顔の高さまであげて顔を振る。全くもってその通りだ。プリンに飽きるなんてあってはならない。生まれてはじめてキレそうになった。


「……おい。ちょっと待て」


「魔女さんも食べますよね? 同じプリンとは言えど、タルト生地のザクザク感が加わることでもはや別次元の美味しさに昇華していますよ」


「その前に君、ボクに謝ることあるよね?」


「……? あ、もしかしてタルト苦手でしたか? プリンクレープとかにすれば良かったですね。すみません」


「タルトは好きだよ! というか何で分からないんだよ! おかしい奴が当たり前みたいな顔して君がボクの為に作ったお菓子食べてるだろ!?」


「……?」


「……?」


「お前だよ! お前!! なに何のことか分からないみたいな目で見てるんだ! お前以外にあり得ないだろ!」


「うるさい魔女ね。私、今忙しいからあとにして」


「食べるな! それはボクのだぞ!!」


「足りるか怪しいですし追加で作りましょうか」


「君は動くな! というかこれどういうことか説明しなさい!」


 どういうことか、ですか。


「買い物に行きました」


「うん」


「買い物はすぐに終わりました」


「うん」


「そう言えば、自分はこの世界の童話とか全然知らないなとふと思いました」


「……うん?」


「少し寄り道をして書物を扱っているお店に行きました。するとそこでシエルさんに出会いました。で、色々と教えて貰ったりしているうちに魔女さんの家に招待することになりました」


「分かった。君、金輪際寄り道禁止ね」


「そんな!! 酷い!!」


「酷いのは君の頭と警戒心の無さだよ。いっそ何かしらの幻惑魔法でもかけられてるって言われた方が安心できるレベルじゃないか」


「家がバレたくらいでピーピーうるさいなんて器も胸も小さいわね」


「殺すぞ。あと、下僕君」


「はい?」


「この世界の童話が聞きたいならボクに聞けばいいだろ? たまには立場が逆転するというのも面白いじゃないか」


「魔女さんって怪しげな黒魔術とかには精通してそうですけど子供が喜ぶような童話とか知らなさそうですよね」


「君のなかでボクがどういう認識になっているのか一度きっちり話し合った方が良さそうだね。あと、君がこれまでボクに聞かせた話も大概子供が泣き出すような血みどろの話が多かったよ」


「そんな。悪い魔女が殺されるシーンなんてきっと鉄板の爆笑ジョーク並みにうけますよ」


「君のいた世界、魔境か何か?」


「魔境かどうかは分かりませんが人の不幸を喜ぶ人は比較的多かったですね」


「それはもう魔境だよ」


「そうですかね? まぁ、それはともかく、もし魔女さんが何か面白い話を知っているならぜひ聞かせていただきたいです」


「……ふむ。君好みの話となるとどんなのが良いだろうね」


「どうせ魔女のする話なんて陰気なのに決まってるわよ。どうせなら私が面白い話してあげよっか? 私に雇われてくれるなら毎日聞かせてあげてもいいよ」


「お前は黙ってろ。というか帰れ。そして、二度とボクに顔を見せるな。あと、彼の好みは人死にがでるような暗い話だからね」


「魔女さん、自分のことなんだと思ってるんですか」


 急に人聞き悪いこと言わないで欲しい。


「今思い浮かんでる候補は、首がもげる奴と四肢がもげる奴と全身の穴という穴から血が噴き出す奴なんだけどどれから聞きたい?」


「死因であらすじ語るのやめて貰っていいですか?」


「ちなみにどれを選んでもそうなるのは主人公だよ」


「しかもバッドエンド」


「いや、ハッピーエンドさ。主人公は誰からも愛されて誰にでも優しくて誰とでも仲良くできて顔が良くて頭が良くて才能に溢れている嫌な奴だから」


「それ世間一般じゃたぶん善い人ですね」


「なんか癪に障るから嫌いなんだよ。だいたいそんな聖人みたいな人間いるわけないだろ。絶対こいつ人のいないところで小動物殺したりするタイプだよ」


「偏見が酷い」


「偏見じゃないさ。誰とでも仲良くする奴ってのは大概何かしら裏の顔があるものさ」


「……そうですかね?」


「あぁそうさ。こんな話がある。クラスで一人で居ることが多い天才美少女魔導士になぜか毎日のように話しかける男子生徒が居た。一人でいることを望んでいた天才美少女魔導士は最初それを鬱陶しく思っていたが、徐々にいつも笑顔でどれだけ突っぱねても優しく接するその男子生徒のいる生活に慣れ、それを心地よく思うようになった。ある日、天才美少女魔導士は気付いた。どうして彼はあんなに人気者で優しいのにボクにここまで関わってくるのか。そうか、彼はボクのことが好きに違いない。その男子生徒のことを憎からず思っていた天才美少女魔導士は男子生徒にこう尋ねた。好きな人いる? 男子生徒は首を縦に振った。間違いない。確信を得た天才美少女魔導士は冗談めかしてこう続けた。それって……もしかしてボクのこと? すると男子生徒はこう答えた。は? どうしたら壁を好きになれるんだ? おい、みんな今の聞いたか!? 男子生徒の言葉と同時にわらわらと現れるクラスメイト達。そう、全てはクラスメイト全員がグルのドッキリだったのだ。ね? 人間なんて碌なもんじゃない」


「経験談だった……」


「なっ!? ち、違うよ! これはボクの話じゃ……」


「ねぇ、魔女。なんか……ごめんね。これまで酷いこと言って」


「あ、憐れみの目でボクを見るなぁ!!」

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