悪い魔女は嫉妬する1
「魔女さん」
「……ん、なに?」
「魔女さんって懸賞金かかってたんですね」
「……あぁ、町で見たのかい?」
「えぇ、まぁ。今日は魔女さんが昼寝してたので買い物を終えてすぐに帰っても暇でしたから、ちょっと散歩をしようと思ってうろついていたら」
「ま、ボクは悪い魔女だからね。それより、ボクが昼寝をしていたら暇だなんて随分とボクのことが好きなんだね。今だって寝起きのボクに話しかけてきたくらいだ」
「どうやら、まだ寝ぼけているみたいですね。もう少し寝た方が良いんじゃないですか? 100年くらい」
「照れ隠しかい? 可愛いところがあるじゃないか」
「……いえいえ。自分なんて魔女さん、いえ、アイリスさんに比べたら全然可愛くないですよ」
「…………え? ちょっ……っ」
「あぁ、アイリスさんは可愛いなぁ。普段の精巧に作られた人形のように整った無表情も、寝ているときのあどけない顔も、そもそもアイリスって名前の響きからして可愛いです」
「……わ、分かった。ボクが悪かった。だから、やめよう」
「やめる? 何をですか? 自分はただ思ったことを言っているだけですよ?」
「いや、その……これ、思ったより恥ずかしい……っ」
「そんな。遠慮なさらず。……宝石みたいに真っ赤な瞳も」
「ちょっ、ほんとやめ」
「窓から差し込む光に照らされた真っ白な髪も」
「も、もう……っ」
「寝言で「プリンが……追いかけてくる……っ」とか言っちゃうところも」
「おい、いい加減にしないと世界ごと君を殺すことになるぞ?」
「ごめんなさい」
「……分かればいいんだ。分かれば」
「ところでどうして顔真っ赤なんですか? アイリスさん」
「絶対に許さない……」
「さて、魔女さんの目もバッチリ覚めたことですし、おやつにしましょう。今日はなんとプリンです!」
「今日も、だよ。……ところで、最近プリンが追いかけてくる悪夢を見るようになってきたんだけど」
「なんて幸せな夢なんでしょう」
「プリンに関しては一生君と分かりあえそうにないよ……」
得たいの知れないものを見るような目で見るのはやめてほしい。
地味に傷つく。
「出てきなさい! 最悪の魔女!」
「……? 外、ですよね」
「……ふむ。最悪の魔女、か。あまり友好的な相手ではなさそうだね」
「とりあえず入ってきてもらいましょう。お客さんなんて自分が来てから初めてじゃないですか?」
「いやいや、あれはどう考えても客では」
「こんにちは。とりあえずその剣はしまってプリン食べませんか?」
「…………え?」
「君、めちゃくちゃだな」
◇◆◇◆◇
「へぇ、シエルさんは聖騎士さんなんですね」
「えぇ、そうよ! ところで、この……プリン?とかいうの美味しいわね! もう一つ欲しいのだけど!」
「わぁ、ほんとですか? まだまだあるんでいっぱい食べてくださいね」
「まだまだ!? いっぱい!? 貴方、もしかしなくても良い人ね!?」
「あ、ばれちゃいましたか? そうなんです。自分はとっても良い人なんですよ。というわけでプリンどうぞ」
「ありがとう! でも、そうなると困ったわね。私、最悪の魔女を殺すためにここに来たのよ?」
「わぁ、それは困りますね。ところでどうしてここが分かったんですか?」
「だって、貴方が魔女の手配書を見ながら魔女さんって呟いてたから」
「あー、あれを見られていたんですか。迂闊でしたね」
「そうね。あれがなかったら私も貴方が最悪の魔女の関係者かもなんて思いもしなかったはずだもの」
「……あれを見て追いかけてきた。ということはこの事を知っているのはシエルさんだけということですか?」
「えぇ、そうよ」
「……見なかったことにして帰ってもらうわけにはいきませんか?」
「ダメよ。その魔女は危険だもの」
「そうですか? 案外チョロくて可愛いところもありますよ?」
「おい、誰がチョロいって?」
「あれ、魔女さん。静かだから寝ているのかと」
「君がずっとその猥褻物とばかり話すから入るタイミングがなかったんだよ!」
「ほら、結構繊細でシャイな一面もあるんですよ。可愛いでしょ?」
「というか猥褻物ってどういう意味よ!」
「はぁ? 二つも脂肪の塊ぶら下げておいて何を言ってるんだい? 死ねよ」
「巨乳への殺意高いなぁ……」
「大体、君も君だ。こんな頭の悪そうな女とニコニコ楽しそうに……。そんなに大きいのが好きなのか!」
「まぁ、人並みには。でも、魔女さんのまな板も好きですよ?」
「まさかと思うけど、それでフォローのつもりかい?」
「いえ、ただの率直な意見です」
「それはそれで腹が立つな」
「ねぇ、プリンのおかわり貰ってもいい?」




