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第3話 「そこにいた者」

 進軍開始から30分ほど経った頃、緑海と魔猿によって作戦概要が全軍へ発表された。発表と言っても実際は人伝いに先鋒の軍から後方へと伝わっていくようなものだが。


 作戦は大きく分けて3段階。第1に魔猿・赤鬼武者率いる本軍による北の里の中央広場急襲、北の里にはまとまった広い場所が中央広場くらいしかないため、敵がいるとすれば確実にここに軍を置いているだろうという推測の元の作戦である。


 そしてここからは第1段階次に敵(人間族)がいると確定した場合の作戦になる。第2段階では緑海の指揮に合わせて別働隊が北の里をぐるっと囲むように陣を置き、敵軍を包囲する。これは、敵軍による人間界王都への我々の情報をシャットダウンするを目的としていた。


 そして第3段階として人間族の捕獲作戦。ここではあくまでも今後の人間界側との交渉材料として包囲網内の人間族の捕獲を目的としていた。さらにこの第3段階途中で黒羽が南の里を、西の里の軍勢を率いて参戦するという手はずだった。


 ちなみに南の里、西の里は魔猿の里からどちらも10キロ以内と近い場所に位置しておるためこの作戦が可能だった。


 

 


 北の里まで残るところ5キロとなった。


 「ここで先生と別れたんだったな」


 緑波がぽつりと言った言葉に青嶋が反応した。


 「先生なら大丈夫だ!もしかしたら北の里の人がやらかしてただ火事してるだけかもしれねーしな」


 青嶋は冗談めいてそんなことを言ったが、そのあとは誰もそれを返さず静かな空気が続いた。みな緊張しているのだろう。


 「間も無く着くぞ。本軍は覚悟を決めい」


 魔猿の声が少し前から聞こえてきた。彼ら精鋭班は当然本軍所属だ。さらには一番槍も任せられている。秋丸・夜鳥麻呂・青嶋は鞘から剣を取り出し、緑波は背中にかけてあった槍を手に持ち直し、臨戦態勢に入った。


 森を抜けた。流れてくる空気は熱風で、肌がジリジリと痛かった。未だに北の里全域は燃え続けているようだ。


 里の一番大きな中央の道をそのまま走り抜け、中央広場も見えてきて間も無く着こうかという時だった…。


 バタッ…。


 秋丸の横を走っていた青嶋が無音のままに倒れた。秋丸も最初は緊張で足がもつれたりでもしたのかと思ったが、青嶋の背中には矢が刺さっていた…。そして数秒の時差があって自分の顔スレスレに矢が通って行ったことに気付いた。


 「アオおおおお!」


 秋丸は叫び声をあげながら、なおも降り続ける矢をかいくぐり、道沿いの燃える家に飛び乗った。


 そしてその屋根の上に潜んでいたフードを深くかぶった敵をそこから蹴り落とし、続けてなおも矢を射続ける敵軍を次々に反対側の道に落としていった。


 「まずい…キリがない…」


 秋丸の視界に広がるのは道の反対側のの屋根にもビッチリと並ぶ弓矢兵だった。こちら側のも合わせて軽く100は超えている大軍だった。


 下を見るとなおも被害は拡大を続けていた。実はこの時点で本軍600名のうち4分の1に当たる150名ほどがその命を奪われていたそうだ。


 「構うな!中央広場への進軍を続けろおお」


 魔猿は残った兵を率いて中央広場へと突入していった。秋丸も弓矢兵の駆逐を諦め、屋根から降り、兵たちの後ろについて中央広場へと入った。この混乱の最中、夜鳥麻呂・緑波とははぐれ、青嶋は行方知らずだったが秋丸は無理やり魔猿の鼓舞に点呼する声をあげ、広場内の敵を見えた人から倒し続けた。


 一方、秋丸がようやく広場の入り口の戦闘に交わった頃、既に魔猿は幾十もの陣を単身で破り、広場中央の祭壇へと到達しようとしていた。


 「烈火雷!!」


 魔猿は得意技の1つ『烈火雷(れっからい)』を惜しげもなく使い、その度、赤色の雷が陣内の数十人の兵士を死滅させた。そのようにして瞬時のうちに次の陣へと突破していった。そして彼はこの僅かな時間で中央の祭壇へと辿り着き、そこで敵の総大将と遭遇することとなる…。


 魔猿は立ち尽くした。これまでほぼ反射的に撃っていた烈火雷を使おうともしなかった。自然と顔が引きつり、その場から動けないでいた。


 「な…、なんで…お前がここに…」


 「お前と同じ理由だよ、朱猿。俺も家族を守らなきゃいけないんでな」


 敵総大将はそのセリフと同時に魔猿に殴りかかり、彼を数十メートル吹っ飛ばした。


 「こんなのも防げないか朱猿、落ちてしもうたな。」


 敵総大将は倒れた魔猿の元に接近して、さらに蹴りを浴びせた。それでも魔猿は動かず、敵の意のままに吹っ飛ばされ続けた。




 時を同じくして、当初魔猿と共に敵本陣へと突撃する予定だった赤鬼武者は、息子である青嶋を抱いて、里の道を引き返し走っていた。


 きっと赤鬼武者がいれば、魔猿もあそこまで一方的に攻撃を受けることはなかっただろう。しかし、その張本人である彼は、自分の半分ほどの身長の子供をだいて一人走っていた…。


 普段は息子に冷たく厳しく当たる彼だが、目の前に倒れた自分の息子を見て、動揺せずにはいられなかったようだ。彼は既に完成しているはずの包囲網本陣、緑海の元へと向かった。この里に回復魔法をまともに扱えるのは彼しかいなかったためである。


 


 激戦区である広場の入り口では、魔猿軍が苦戦を強いられていた。先程までは数の利を活かして圧倒的な展開を見せていたのだが、他の兵となんら変わりはないように見える黒いフードを被った男の登場で状況は一変した。


 その男は竜巻を自由自在に起こした。自分の周りなら直接触れてなくても巨大な竜巻を起こすことができた。当然竜巻から逃げる練習などしているわけもない魔猿軍にとってこれは相当に有効打であり、彼らの中にはすでに敗走を始める兵士もいた。


 「うぁぁぁあああ」


 竜巻が目の前に迫り、恐怖の叫び声を上げる兵士たちだったが、その竜巻は兵士の目と鼻の先で歪み、形を保てなくなり消滅した。


 「皆さん、今のすきに早く捕虜を!」


 その掛け声の主は竜巻を起こす謎の男に後ろから蹴りを入れ、その男の態勢を崩させた秋丸だった。謎の男も、まさか竜巻を恐れず、回り込み自分に攻撃をしてくるやつがいるなど予想していなかったのだろう。


 立ち上がり、服に付いた土を払った男に秋丸はこう言った。


 「あなた、何者ですか?人間族の魔法使いか何かですか?」


 「いいや、違うな。俺は龍尾(りゅうび)。名前くらいは聞いたことあるだろう。龍族のプリンセスだ。」


 龍族…。そのワードに秋丸は混乱した。そう。敵は人間ではなかったのだ…。




 「なあ龍神(りゅうじん)、教えてくれよ。魔王の幹部だったお前がどうして同じ幹部の俺の里を襲撃したんだ」


 血だらけで壁にもたれかかって座る魔猿がぽつりと言った。


 「もう…龍安(りゅうあん)とは呼んでくれないか…、朱猿。」


 「呼び方なんてどうだっていいだろ。せめてこの里は死ぬべくして死んだんだと言ってくれよ。理由も分からねえんじゃわしは成仏できねえよ」


 龍神。彼はかつて魔王四天王の一人だった。だからこそ魔猿は同じ四天王の龍神に攻められたことに納得が出来ずにいた。


 「どっから話せばいいかな…、とりあえず俺たちは今人間族のしもべなんだよ、朱猿」


 「ガッハッハ!傑作だな龍神。魔王軍1の人嫌いのお前が人の家来か」


 魔猿は先程までの声とは変わり、それを聞いて大きな笑い声をあげた。


 「笑うなら笑ってくれよ、朱猿。俺たちは魔界からの逃亡の道中、運の悪いことに勇者一行の1人、戦士率いる軍勢に出会っちまったんだ」


 龍神は自らを嘲笑いならそう言い、さらにこう続けた。


 「俺たちはたしかに龍族だ。魔族ではねえ。ただ魔族に忠誠を誓った身だった…。それなのにそれなのに…。俺は龍族全員の命と引き換えにお前たちを裏切る道を選んじまったんだよ朱猿」


 龍神のその小さな目からは涙が溢れ始めていた。龍族は血こそ龍の血が流れているが、見た目は人間と変わらない。そこに人間族は着目したのかもしれない。最も、今となっては魔族の魔猿一族ですら人間の血が入り、若者たちはほとんど人間と変わらぬ姿となりつつあるが…。


 「朱猿。本当に悪かったな。でもここでお別れだ。来世は強き支配する側になれよな…」


 龍神が拳を掲げ、青い光を纏わせた後、それを魔猿にぶつけた。魔猿は拳を正面から受け、死んだ。


 そう思われたが、魔猿はその拳を自らの手で受け止めて、こう言った。


 「強き支配する側だと?誰がそんなもの決めた。忘れて危うく死ぬところだったぜ。わしはこんなクソみたいな世界を…!変えるためにここにいるんだったな」


 魔猿は龍神の拳を掴んだまま彼の腹を殴った。よろめく龍神に対して魔猿は立ち上がり、首を掴み、そのままもう片方の拳で彼の顔を炎も纏わせた手で殴った。龍神も首を掴まれ、持ち上げられたまま魔猿の腹に蹴りを入れ、魔猿から逃れた。


 2人は1メートルほどの距離を置いてにらみ合った。攻撃のタイミングを見計らっていた。そしてここに魔王四天王が一角、魔猿一族と龍神一族の頭領同士による頂上決戦が始まろうとしていた。

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