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生徒会のてぃーたいむ

作者: 三ノ神龍司

日常ものの練習に書いたものをアップ。これ、コメディなのかな?

 峰谷高校、生徒会室。

 

 「それではこれにて、生徒会活動を終わりにします」

 

 鈴の音のように精錬されたよく通る美しい声が静謐に支配されていた生徒会室を震わせた。

 

 彼女は生徒会長、神薙明日香。品行方正、文武両道、まるで絵に描いたような完璧なる存在でこの学校に君臨していると言っても過言ではない存在だ。誰もが彼女が横を通ったら振り返り、切ないため息をついてしまう。その流れるカラスの濡れ羽色の黒髪の長髪に美しさのあまり胸を押さえてしまう。

 

 そして分け隔てなく優しく、女神のような笑顔を向けられて、彼女に一時でも恋をしないものはいない。

 

 そんな彼女が厳かな表情で司令官張りに指を組み、そこに顎をちょこんと乗せる。

 

 「……終わり、ですが少しお待ちください。もう一つ、議題があります。ですがこれは生徒会とは関係がない個人的なことなのですが……」

 

 ――そう言葉を紡ぐ彼女は、どことなく緊迫した面持ちで、自然と生徒会役員総勢十二名が息を呑む。

 

 そして彼女は告げる、その言葉を。

 

 

 「――ある日、突然、ゾンビが現れたらどうやって生き残るか、を考えてみましょう」


 

 「はい、てっしゅー」

 

 会長の隣に座っていた副会長の谷崎拓篤は、手をぱんぱんを鳴らしながら、他の生徒会役員に退出を促す。拓篤の手際の良さのおかげか、混乱する様子もみせず役員らはテキパキとした様子で片付けを済ませ、役員は次々と生徒会室から出て行ってしまった。

 

 残ったのは、副会長の拓篤とポニーテイルの書記、あと問題発言をした生徒会長の明日香だけだ。


 あまりにも鮮やかすぎる撤退に明日香は呆然としていたようだったが、我に返ると隣の拓篤をバッ見やる。

 

 「な、な、な、なんで皆帰しちゃうんですかぁ!」

 

 「かいちょー、皆はね、一応部活とか色々やってるんですよ。青春しているんですよ。それなのに、かいちょーの馬鹿な議題に付き合わせるのは可哀想でしょう」

 

 「ば、馬鹿って! なんてこと言うんですかっ! こんな扱いを受けて、私だって、とっても可哀想だと思います!」

 

 「そっすね。とっても可哀想ですね」

 

 「や、やめてください! そんな頭の可哀想な子を見るような目を向けるのはやめてください!」

 

 拓篤に憐憫のこもった目を向けられ、明日香はその視線から己を守るかのように頭を抱える。

 

 ちょっとだけ涙目になって「うー」と唸る明日香に、その彼女を覚めたような顔で見やる拓篤。そして、その少し離れたところにてその様子をにやにやと見守る者が一名いた。

 

 生徒会書記、荒山うるかは、ポニーテイルを背中までに垂らす快活な姿をした少女だ。運動が得意そうだが、生粋のインドア派である。

 

 そんな彼女がここに残っているのは、ボケた会長と覚めた副会長の漫才を観察するのが何気に好きだからだ。そのためこのように明日香が変なことを言って拓篤が皆を帰らせる時、残るようにしているのだ。

 

 そして、攻めに弱い明日香をフォローする役割も負っている。

 

 「たくっち、そんなかいちょーをいぢめちゃ可哀想っすよ」

 

 「そうか? ……いや、まあ、確かに『可哀想』かもな」

 

 「うるかちゃんと拓篤くんの言葉の意味がまったく違う気がします! 抗議します!」

 

 「却下で。はい、では『可哀想』なかいちょーのために特別、ゾンビの議題を始めようと思う。で、結論、かいちょーは初手で噛まれてゾンビエンドです」

 

 「なんでですかぁ!」

 

 むきぃ、と明日香は声を張り上げて、ぺしーんと机を叩いて抗議する。あまりにも理不尽かつ、ざっくりした拓篤の物言いにいかに温厚な生徒会長と言えども声を荒げてしまう。

 

 けれど、そんな明日香にも動じることなく、拓篤は飄々、淡々としたもので――

 

 「いや、むしろそうならないことの方が不思議なくらいかと」

 

 「だからどうしてですかっ! 私、生き残れますっ! 某ゾンビものの海外ドラマを見て、想像想定妄想はばっちりなんですっ!」

 

 拓篤はなんで明日香が今日、こんなボケたことを言い出したのか、分かってしまった。まあそこはほじくり返すまい。

 

 「いや、だってかいちょーは……」

 

 その時だった。

 

 ずだーん、と大きな音が鳴り響く。

 

 「な、なんですか? あっ――うるかちゃん!?」

 

 音源を見やると、そこにはうるかが机に突っ伏していた。微かにピクピクと震えているところを見るに、何か発作でも起きたように見える。

 

 明日香はすぐさま立ち上がると、脇目も振らずにうるかの元へと駆け寄っていく。そしてうるかの具合を確かめようと軽く彼女に触れたところ――がばっ、と起き上がったうるかが明日香の腕を掴んだのだ。

 

 うるかは、明日香の腕に顔を近づけ、あむっと腕を噛む仕草をする。

 

 「がぶー」

 

 「……という風に、かいちょーは倒れた人に駆け寄ってしまうので、高確率でゾンビアポカリプスが起こった場合、最初期に噛まれてゾンビ化します」

 

 淡々粛々と拓篤は一切動じた様子もなく、そう解説する。

 

 何が起こったかいまいち分からない様子で、呆然としていた明日香だったが、我に返ると――、

 

 「もーーーーーーーー!」

 

 顔を真っ赤にして、そう叫ぶのだった。

 

 「二人して私を謀ったんですね! いやらしいです!」

 

 「いや、あれは荒山のアドリブですね。特に計画したとかはないです。ていうか、かいちょーのとんでも発言を事前に察するとか無理あるでしょうに」

 

 「たくっちがなんとなく言わんとしていることは分かったすからね、ちょっと謀って見たっす。――けど、たくっちが一切、動かなかったのがショックなんすけど」

 

 ショック、と言いつつもうるかは、にやにやしているので、実際のところは気にしていないのだろう。たぶん攻められてばかりの明日香のための援護のつもりなのだろう。

 

 明日香はというと「そうですよ」と頬を膨らませながら、拓篤を睨む。


 「友達が倒れたら、即座に駆け寄って安否を確認しないといけませんよ」


 「大体大丈夫だと予想はしてましたけど、万が一を考えて救急車を呼ぶ準備はしていましたよ」


 そう言って、拓篤は11、と打ち込まれた携帯電話の画面を見せる。


 「ちなみに万が一のことを考えてテンパって最後の数字がなんだったか忘れたのをここに告白しておきます」


 「たくっちって意外にヘタレっすよね」


 「ま、まあ、行動に移しているのでいいと思いますよ?」


明日香のちょっとした気遣いが、なんだか無性に目にしみる拓篤であった。


 「……そういう意味ではちゃんとした行動に移れたかいちょーはすごいですよね。集団心理でなんか動かないことってありますし」


 「あれっすね、『誰も消防車を呼んでいないのである!』っすね。そういう意味ではかいちょーのその行動力は賞賛ものっすよ。とっさに動けて、周りの行動に左右されないのって案外難しいっすから」


 「確かに。普通、見て見ぬふりするのに、そういう風なこと出来るかいちょー、そんけーしますね」


 「え、そ、そうですか?」


 明日香は二人にべた褒めされて、照れてしまう。


 「さて、それではかいちょーがそのまんまの気質のままゾンビアポカリプスを生き残ることが出来る方法を考えてみますか。ところでゾンビの設定はありますか?」


 「え? あ、はい。ありますあります、そこはしっかり考えてきました」


 むふーと得意げにして、ホワイトボードに設定を書き込み出す可愛らしい会長を、二人は微笑まし気に見やる。


 そして、書かれたゾンビアポカリプスの設定は――、


 ・基本的に、のろのろゾンビ。姿形が変わったり特殊能力を得たりなどの進化はなし。

 ・噛まれたら感染。唾液感染のみで、引っかかれたり直接死体を食べたり血液を直接飲んだりしないかぎりは接触感染、経口感染、介達感染などの経路はなし。感染後は自然治癒などでは絶対に助からないが、早い段階で噛まれた部位を切り落とせば助かる。

 ・生前、感染していなくても死んだら、誰でもゾンビになる。

 ・頭を破壊することで、殺すことが出来る。

 ・知能は低く触覚や痛覚はない。ただ視覚と聴覚は優れている。

 ・腐らない。

 ・世界規模で起きている。


 「こんな感じです」


 「ロメロ式を採用ってことでいいですか?」


 「ですね、基本的に根元はその設定で考えます。……正直、ダッシュゾンビとか生き残れる自信ないですし」


 「右に同じっすね」


 「同感」


 三者三様、深く頷く。ダッシュゾンビはスタイリッシュで映画では見応えがあるものの、『実際』を考えたらかなり生き残ることの難易度が高すぎるのだ。


 あと単純に拓篤とうるかは運動が苦手だった。


 「まず、かいちょーが生き残るってことで、パンデミックが発生した際にどこにいるかが重要になりますね。なるべく人が少なくて、けど仲間がいる場所……」


 「なら、ここが良いんじゃないっすか? 放課後の生徒会室に三人だけ」


 明日香がぽむきゅと手を打つ。


 「あっ、なんだか、いけそうな気がしますね。えっと、ゾンビパンデミックの始まりは、ベタに不審者がー、みたいな感じでいいですか?」


 「良いと思いますよ。で、この学校って不審者対応のマニュアルみたいなのってありましたっけ?」


 「えーっと、確か暴漢が現れた場合、ダミーで来客の放送が流れるはずなので、その場合、近くの教室に避難するようになっています」


 「で、しばらく隠れていると悲鳴が聞こえてくる感じっすかね? この場合、かいちょーの行動は?」


 「まあ、その場合は隠れていると思います」


 明日香は、ちょっと申し訳なさそうな顔をする。


 「さすがに私でどうにかなる問題ではないので、二次被害を拡大させないためにもしばらくは何があっても隠れていると思いますよ。お二人を守るのが最優先にしなければならないので」


 「かいちょー格好良いっすー」


 「ひゅーひゅー」


 「か、からかわないでくださいっ!」


 顔を赤くして、ぷくうと頬を膨らませて可愛らしい表情をしている。そのいじらしい姿にもっとイジワルをしたくなってしまう二人だったが、グッと我慢する。


 「これでかいちょーがゾンビ化を防ぐルートを確立しましたが……さて、下はゾンビだらけになっている現状。確実にここに流れ込んでくる未来が見えますね。ちょっとご都合入れてゾンビが流れてくる前にゾンビアポカリプスが発生したと分かる感じにしましょうか……」


 「だとしても詰んでるっすね。運動神経抜群なかいちょーはともかくインドア派二人に集団戦はきついっす」


 「俺ら二人がゾンビ化する未来が見えるな。ゾンビアポカリプスに気付いてから、ここから逃げ出して階段で降りて外に出る前に噛まれる未来が見える。生徒会室にバリケード築いても崩されて襲われる未来が見える。未来視得たくらいにはっきり見える。運良く学校から逃げられるとかご都合主義は想像し得ぬのですが、どうでしょう」


 「ネガティブ過ぎます! 諦めないでください! 嫌ですよ、二人がゾンビ化するのを見るなんて!」


 精神崩壊パターン待ったなしだ。きっと、だーくかいちょーあすかが生まれてしまうだろう。そしてとある集団のリーダーを担って、暴政を尽くし、最後は悲惨な末路を辿ってしまうのだ。


 「ですけど現実に基づいて考えるとこうなりますよ」


 「あまりインドア派の動けなさを甘くみないで欲しいっすね」


 「甘くみさせてくださいっ! 私、こんな絶望に塗れたゾンビ世界の妄想談義は望んでいなかったです! もっとこう、武器とか拠点とかどうしようとか、きゃっきゃっうふふしたいです!」


 「それを語るには絶望的窮地を脱する必要があります。……さあ、かいちょーはザコモブな俺らを生き残らせることが出来るでしょうか」


「お願いっす、かいちょー……ザコモブなうちらをゾンビにしないで……」


 「お二人はザコモブじゃないですっ! えと、えっと、なにか、なにかありませんかっ! あっ、どこかに脱出用の滑り台的な何かがあったはずです!」


 明日香は、立ち上がりテラスへと走って行く。拓篤とうるかもそれに続いていく。


 夕焼けに染まる空が美しい。テラスの縁から眼下に広がる校庭では、運動部が練習に励んでいる。溌剌とした掛け声が耳に心地よい。


 拓篤は目を細め、豆粒程度の大きさの運動部員らを見つめる。


 「下には大体、三十人ちょいか? 声に集まって学校の外からゾンビが雪崩れ込んでくるとして、校庭には三十~五十体程度のゾンビがいることにしましょう。何人か応戦していたりとかもあるでしょうね」


 拓篤の仮想状況を聞きながら、明日香はきょろきょろと辺りを見回しながら、テラスを歩いて行く。そして、とある無人の教室前にて、救助袋と書かれた大きなボックスを見つける。どうやら滑り台風の避難袋らしい。これを組み立てて、滑り降りて脱出するようだ。


 「どこに降りる感じになるんすかね」


 実際に組み立てるわけにはいかないので、画像検索したところ、降りる位置は校舎から十数メートル離れた地点だ。


 明日香はテラスの縁から下を眺める。


 「降りるところは昇降口から外れて、校舎の真ん中の位置ですね。昇降口付近はきっとゾンビがたむろしているので幸い、と言ったところでしょうか。設置してからすぐなら、群がられる心配はないかもしれませんね。時間との勝負です」


 「この教室には鍵は……かかってますね。たぶん廊下側も閉まっているでしょうね。後ろから、がばーということはないでしょう。扉がぶち破られない限りは」


 「ゾンビがここに来るとしてその侵入経路は、この教室の外、生徒会室……他二つくらい無人の教室があったっすかね。そこは鍵がしまっていると仮定しましょう。あと確か、部活動に使用している教室が一つあるっすね。たぶんそこは鍵が開いている可能性があるんで、短時間でゾンビがここに来る可能性大っす」


 「組み立ては……それなりに行程がありますね。私が組み立てて、お二人が警戒する流れでしょうか?」


 「異議はないですが、ゾンビを素手で止められる自信はないですね。……ゾンビアポカリプスが起こったことを知っている感じにするなら、箒でも持っていることにしましょうか」


 「長物があるだけで安心感が違うっすね。ここ狭いから振り回せないんで、突くだけっすけど、それでも噛まれる可能性は減ると思いますし」


 テラスの幅は一メートルもない。狭いが、ある意味そのおかげでゾンビの数の暴力に晒される危険性が低くなる。むろん逃げにくさも増すので、脱出に手間取れば追い詰められてデッドエンドだ。


 「組み立てたとして、降りる順番はどうしましょう」


 「最初は、かいちょーかたくっちじゃないっすかね。降りてからゾンビを近づけない役目があると思うので。仮にもたくっち男子っすからね、うちよりマシっしょ」


 「『仮にも男子』のひ弱さを舐めるなよ。まあ、そこは頑張るけど。でも、かいちょーとスイッチする手間かけるより、かいちょーに、先に降りてもらって、次に荒山、最後俺が良いんじゃないか?」


 「トリになったたくっちが降り遅れて噛まれての死亡フラグが立ったっすけど、妥当っすね」


 「そこはもはや運だな。噛まれないように頑張って、入り口に箒を引っかけてゾンビが滑ってこないようにしたりなんかして、生存率を上げよう。……とりあえずこれで学校から逃げられたことにするか。校庭での死闘はもはや運だ」


 「これで学校から脱出出来ましたね。次は学校の外に出るわけですが……まず必要なのは拠点探しですかね?」


 ちょっとウキウキし出す明日香だ。ゾンビ世界の妄想を語る上で、拠点をどこにする、は欠かせないものだ。鉄板とも言って良い。


 三人はとりあえず生徒会室に戻り、それぞれの席に着席する。


 笑顔の明日香がしゅびっと挙手する。


 「やっぱりホームセンターですよね!」


 「却下です」


 「何故ですっ!?」


拓篤による無慈悲な一刀両断が炸裂し、明日香がガタンと立ち上がる。


 対して拓篤は相変わらず淡々としたものだ。


 「物資調達ならともかく、あんな出入り口多くて、ガラス張りの開放感溢れる場所に立てこもるって自殺願望持ってるとしか思えませんよ」


 「で、ですが武器もありますし、バリケードも築けそうですし、他の人もいそうですし。というかシャッター閉めればいいじゃないですかっ!」


 「広いから安全確保に手間がかかって維持も大変、死角が多く、電気が通らなくなったら暗くなって視界も悪い。てか、シャッターを閉める? ゾンビがうろついているかも知れないのに? 即刻ゾンビに包囲間違いなしですね。たとえ電動シャッターでも大きいものならかなりでかい音しますよ?」


 「く、くぅううう……!」


 「あと人に関しては、最初期は三人のままが良いと思います」


 「うぐぐぐ、何故です……?」


 「最初期は、皆の精神が崩壊一歩手前なので、ちょっとした問題……防衛を失敗して誰かがゾンビに襲われたらパニックが起こりますよ。その場合、しっちゃかめっちゃかになるでしょうね。それに文明崩壊レベルの災害が起こったら、ひゃっはーな人が出てくると思うんで、合流はよく考えるべきだと思いますよ。力が強い奴がボスを気取って好き勝手すると思いますし」


 「……うちら女性は、いやーんな展開があり得るっすからね」


 「ひゃっはーな人じゃなくても、この後、死ぬかもしれない、とか思った人間は理性のタガが外れるからな。安定期に入るまでは、即席の集団に加入するのは避けた方が良いでしょう。自衛隊や警察とかが作ったある程度の安全が約束された避難所ならともかく」


 「むうー、言われてみればそうかもしれないですね……」


 明日香は納得したようだが、ホームセンターに立てこもれないことが残念そうだ。斧やバール、ロマンとして釘打ち機やチェーンソーでゾンビを薙ぎ払うのは一度はやってみたいと思うことだろう。


 だが、『実際』を考えたら戦うよりも『隠れる』が正解だ。勝つのではなく、生き残ることが何よりも重要だ。


 「ただ言ったように物資調達という点においてはホームセンターは優秀なんで、早めに取りに行った方がいいかもしれませんね。立てこもろうとする奴が独占するかもしれないんで」


 「余裕があったら物資調達ですね。で、拠点選択する際は、三人で維持管理が可能な場所を選ぶんですか? たとえば?」


 「ひねりはせずに民家とかですかね。出来れば塀と門があるところが望ましいです。二階建ての窓が小さいとなおよしです」


 「ひねりがなさ過ぎないっすか?」


 「言っておいてなんだけど、確かにな。ゾンビに襲われた時に囲まれて少数対多数なんてことにならない位置取りが出来れば、とりあえずはいいんだ。それかそもそも襲われないところにいるか、だな。たとえば死角は多くて自然災害時にはやばいだろうけど海沿いのコンテナ置き場に住み着いたり……変わったところだと、変電所にあるコンクリート製の小屋とかだな。平らな屋根だから、その上にテントとか張ったりして上り下りはハシゴを使ったり。出来るならそこの屋根の一部をぶち抜いて、出入り口を完全封鎖、出入りは屋根からにするとかもいいかもな。あそこ窓は高い位置にあるし。とにかく警戒してなくても侵入されにくい場所がいい」


 「銀行の敷地に稀にある保管庫っぽい建物を開けられたら、そこでもいいんじゃないっすかね。鉄の扉とか頑丈そうっす。退路を作るのが大変そうっすけどね」


 「水門の上についてあるなんか小屋っぽいところとかどうでしょう。鉄の扉ですし、出入り口が狭いので、撃退法さえ確立すれば良い場所かと。こちらも退路の心配がありますが。それに、橋や水門、堤防の管理が出来なくなって使えなくなる可能性もありますが。……というか、あれ、一度入ってみたいです」


 「その水門は入れるかどうか分かりませんが、ダムとか見学出来るとこありませんでしたっけ?」


 「あー、そういえば聞いたことあるっすねえ。ちょっと行ってみたいっすね」


 「見学とか言って、先生と交渉すれば見させてもらえるんじゃないですか?」


 「じゃあ社会科見学の一環として考えてみましょうか。……もし行けるのなら、ちょっと楽しみです」


 「俺も興味あるのでお願いします」


 「後学のために見たいのでうちもよろしくっす」


 「わかりましたー。計画してみますねー」


 ちょっとだけ明日香はわくわくしたような笑顔を浮かべていた。まさかの社会科見学が計画されたが、全員乗り気である。


 拓篤は口元を押さえる。


 「学生の見学っていう特権使えば、普段は入れないところを見せてもらえることって多そうだよな。他にもあるなら、そういうとこ行ってみたいな」


 「それ、良いっすね。普段見られないところを見られるって、創作の幅広げられたりしますもんねえ」


 「付き添いの先生とかの関係で無作為に何度もというのは無理そうですけど、出来るかもしれませんよ」


 発電所、自衛隊基地などなどそう簡単に入れなさそうなところをあげつらう三人だった。



 ある程度落ち着いたところで、話しをゾンビアポカリプスに戻す。


 「拠点は少数防衛がしやすくて、警戒が薄いときでも侵入されにくことが重要なんですよね」


 明日香の確認に拓篤は頷く。


 「人間、いつまでも気を張ってられませんからね。最初は良くてもいずれどこかで必ずミスをします。だからミスをすることがない状況作りが大事だと思いますよ。塀があっても家の中に最低限のバリケードを築くのは、絶対やった方がいいと思います」


 「将来どうなるとか家族や友達の安否とか気になって、気を張り詰めることになるっすからね。休む時ぐらいは落ち着けないとやってけないっすよね」


 とにかく少しでも安心安全を確保出来るようにしなければならない。でなければ、命を失う前に精神崩壊待ったなしだ。


 大人数の場合は、拠点の選び方も変わってくるが、あくまで現在考えるのは、三人でいる場合で限定している。


 ちなみに人数が多くなると、防衛はしやすくなる。だが突発的な死亡により拠点でゾンビが発生して内部崩壊の危険がある。そこを阻止できるように対策を練らないといけないだろう。また食料確保も難しくなってくることも懸念されるため、早々に自給自足が出来るようにしないといけない。


 ――拠点を持ったとしても、色々と考えるべきことがあるのだ。


 そう、色々と。


「……住み着きたい拠点を色々出してもらったけど、とりあえず二人に訊きたいことがある」


 「な、なんですか?」


 「改まってちゃってまあ、なんすか?」


 ごごごご、と効果音が聞こえてきそうな神妙そうな顔をして、司令官風に組んだ手で口元を隠す拓篤だ。


 「トイレ、及び風呂はどうする?」


 「…………」

 「…………」


 明日香、うるかの二人がビキリと固まる。


 「俺、含めて今出した拠点の案にはそれらの設備がない。まあ、かいちょーの案なら水場が近いし、最悪トイレなら色々橋の上から川に垂れ流ししても問題ないだろうけど。ああ、それと汚物の処理は良いとして、自分自身の『出した汚れ』はどうするか。……紙、貴重になるだろうな」


 「……近くに川なら、最悪……不浄の右手っすか……」


 「い、いやぁああああ……嫌ですぅ……せ、せめてタオルとか使い回すことを考えれば……」


 絶望に染まりまくった二人の乙女だ。


 「かいちょーの言うとおり、タオル的なものを使えばいいですかね。右手は最終手段として、紙は使えなくなるから、布で我慢するしかないだろうな。洗って何度も使うしかない。風呂は水ってかお湯作るための燃料とか何やらが貴重になりそうだから、小さな拠点だと身体を拭くしかなくなるだろうな」


 「下手すると乙女のスメルが大暴走しそうっすね。たくっちって臭いフェチでしたっけ?」


 「今のところ、そこら辺の性癖は発現してないな。まあ、でも、頑張る。つーか、布で身体を清めるだけって、効果はどんな感じなんだろうな」


 「試したことがないのでなんとも。少なくとも満足感はないと思うっすよ。とりあえず臭いの予防は出来るとは思いますが。臭いの原因は大元が汗の酸化とかって話しですし、拭けば臭いは防げるんじゃないっすか? 重要なのは臭いではなくて、清潔にして病気の予防っすけどね」


 「うぅ、そうですよね。拠点によっては、トイレやらお風呂やらが機能しにくいんですよね……」


 「トイレは処理をしっかりしないと川がないタイプの拠点は周りがえらいことに」


 「わぁお☆ さらにワンダーなワールドが構築されちゃうっすね!」


 とんでもない臭気が拠点を包み込むことになるだろう。ストレス値と衛生面が不味いことになるのは請け合いだ。安全はともかく、安心が跡形もなく砕け散って塵になることだろう。


 「普通の家……少なくとも、最低限の生活が出来る施設じゃないと衛生面がとっても危ういことになりますね……」


 ――結論。やっぱり塀に囲まれた家が良い。普通が一番。

 


 

 次は武器の話しでもしましょうか、と明日香は思いながら、窓の外に視線を送る。いつの間にか空が暗くなり始めている。思いのほか話し込んでいたようだ。


 ……さすがにこれ以上は我が儘は言えまい。


 「そろそろ遅い時間ですし、帰りましょうか。今日は有り難うございました」


 「いいえ、こちらこそ楽しませてもらいました」


 「結構、面白かったっすね」


 そんな二人の言葉に明日香は内心安堵する。本当にゾンビアポカリプスのことは話したかったから、後悔はしていない。けれど、つまらないと思わせて退屈な時間を送らせるのだけは抵抗があった。


 明日香は変なことを度々言うし、実行するが空気が読めないわけでも人の感情に疎いわけでもない。むしろ相手が気を遣っていたり、我慢していたりしたらすぐに気付いてしまう。


 だからこそ本気で楽しんでくれた二人には感謝している。


 本当はもっと大勢で楽しみたかったが、拓篤の言うとおり無理に残らせるわけにはいかなかっただろう。


 そういう意味では拓篤が皆を帰らせたのは、有り難いことだといえるだろうか。


 (……拓篤くんは、気を回してくれているんですよね)


 明日香のために気を遣うのではなく、気を回す。簡単そうで難しいことを、彼の副会長は為してくれる。結構、彼に助けられていることは多いだろう。


 うるかにしてもそうだ。彼女も明日香にそれとなく手助けをしてくれることが多々ある。明日香は優秀なのだが、抜けていることがあるためそのフォローをしてくれるのがうるかなのだ。


 明日香は帰り支度をしている二人を見ながら、微笑む。


 「私、本当にゾンビな世界になったら、お二人と一緒なら頑張れそうです」


 その言葉に、二人がぴたりと止まり、うるかが首を傾げ、


 「うちで良ければ、一緒に頑張りましょ?」


 拓篤が微笑み――、


 「俺は御免被りますけどね」


 ――ながら酷いことを言って明日香の微笑みに亀裂を入れた。


 雰囲気的にも表情的にも絶対そんなことを言わなそうだったのに、酷いことを言われた明日香は、一瞬呆然としたあと、ぺしんと机を叩く。


 「な、なんですかあ!」


 「精神が持ちません(性欲的な意味で)」


 「ど、どういう意味ですか詳しく――」


 「あばよ、かいちょー」


 拓篤は明日香の追求をするりとかわし、手荷物を掴むと帰ろうとしてしまう。


 むう、と頬を膨らました明日香が追いかけようとした、その瞬間だった。


 「うっ……!」


 突然、拓篤が入り口付近で胸を押さえて、うずくまってしまったのだ。何やら息が荒くなっている様子だ。


 「拓篤くんっ?」


 明日香が慌てて駆け寄って、慎重に容態を確認しようとする。


 と、明日香が軽く拓篤の身体に触れようとしたところ、彼が逆に明日香の腕を掴み、振り返って口を大きく開ける。


 そして、あむっと噛む振りをした。


 「がぶー、っと。まあ、こんな感じですね」


 「え?」


 呆然とする明日香を見上げる拓篤は、淡々とした口調と表情だ。


 「あれですね。やっぱりかいちょーは生き残れませんね。これが『どういう意味』かの答えです。――ぷぎゃー」


 指を指し小馬鹿にしてくる拓篤だ。


 明日香は顔を真っ赤にして叫ぶ。


 「もぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 そんな叫び声が生徒会室の外まで響き渡った。


 これはいつもの生徒会の風景。


 いつもの彼らの安らぎの一時(ティータイム)なのであった。

 どうも三ノ神です。

 

 現代ゾンビアポカリプスものの小説が書きたいけれど、サバイバルの心得がないので書き出せない今日この頃。いつか書けるようになりたいですね。


 ゾンビアポカリプスの話をする時、定番なのが拠点決めですかね。ゾンビものが好きな自分は、たまに外で高い塀に囲まれた家を見ると、ここ立てこもれるな!って思っちゃったりしてます。


 上のお話では拓篤くんがなんか色々言ってますが、実際、一番良い拠点ってどんなところなんでしょうね。その時々によるのか。とりあえずパルクールさえ使えればどこだっていいのか。……パルクールといえば、ああ、ダイイングライト2、発売いつかなあ。


バイオRE:2は今日ですよね。ゾンビは好きだけどホラーは苦手、だからゲームはやらないかもしれないけど、一応買う予定です。



まあ、そんなこんなでおわりです。さようなら。


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