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8話:異世界は怖いとこ?


 残俺の全財産は、残り144000Gだ。収入源のない俺は取りあえず【塩】を売るために道具屋を探して街を歩いていると、十字路の道を挟んで大きな建物が2つ向かい合って立っていた。看板を観ると左側が冒険者ギルド、右側が商人ギルドだった。


 さすがは異世界だ、冒険者ギルドが普通に有る。だが戦闘スキルの無い俺には冒険者ギルドに登録する意味が無い。ルーシーやフェルと違い、俺1人ではモンスターに出くわしてもまず戦えない。だから冒険者ギルドに登録しても無駄になる。俺は登録するなら商人ギルドにしようと思う……

 商人ギルドの横に道具屋の看板を発見したので登録よりも、まずは【塩】を売るために道具屋の扉を開けて、すぐに終わるからと、ルーシーとフェルには道具屋の前で待ってもらった。


 『いらっしゃい♡』

 カウンターの奥に30代ぐらいの茶髪でクルクルの巻き髪をし、足の付け根まで大胆なスリットが入って胸元の開いた黒いワンピースを着た大人の色気をプンプンに振り撒くスタイルの良い女性が座っていた。

お店の中には、ほとんどの商品が品切状態だった。


『ごめんなさいねぇ。今は、出国と入国に制限が掛けられてて商品どころか人さえも、なかなか出入りができないからねぇー。定期便の船と馬車も王国から停められてるしねぇ♡』


 豊かな谷間を強調させた女性の、その言葉に俺はビックリし慌てた。

「えっ??国境を越えて、この王国から出られないんですか?」


『全く出れない訳じゃないけどねぇ…国境を越えるには王国の許可書がない限り出れないのよ。ちょっと前にねぇ、国王がまた税金を値上げして取り立てたせいで商人や貴族連中が我先に出国するもんだからねぇ……どんどん規制が厳しくなっちゃってねぇ。何でも、もうすぐ国境を完全に封鎖するんじゃないかって噂だしねぇ♡』


 おいおい、マジかよ!「何か他に出る方法って無いですか?」

   

『全ての国境の城門は異世界から来た人に護られてて力ずくで出るのはまず無理だしねぇー。凄腕の冒険者を何人か護衛に雇って火山を越えるは無理じゃないけど、山賊や化け物が出るって話だし。それに道が狭くて垂直の崖を登らないと行けないから、馬車で食料や武器とかを運べないし!そもそも護衛を雇うにも腕の良い冒険者はもう商人や貴族に雇われて出て居ないしねぇ♡…』


 そう言って謝ってきたが悪いのは全て、この国の王の豚王ですから!!垂直の崖や護衛はルーシーとフェルに頼めば何とかなりそうだ、そう思い俺はカウンターの上に、本題の【塩】を置いて聞いてみた。


「あの~これを買取りしてもらえますか?」


『えっ?ホントに私が好きに買取りしてもいいのぉ?♡』


「えっ?あっはい………買取りでお願いします!」


 『どれどれ、拝見するねぇ♡』塩の袋を手に取り、従業員の女性は谷間をさらに強調するように腕を組、大胆なスリットが入った方の脚を組み直して、俺の顔をじーーと見つめて首を傾けてにっこりと笑顔で微笑んだ。


『ねぇ~♡あなた、どこの村の産まれ?』


 女性の質問に俺は、答えと眼のやり場に困ったあげく、しどろもどろしながら自分でも何を言ってるのか、解からなかった。


「あっ…の…その…私は……ポ…ポ、ポ、ポルテット……から……キ…タ…」 


『あなた、異世界の人でしょう?♡』


「……えっ?」


 俺は、女性からの突然の確信に言葉を失った。 何故だ、どこでバレた!?


『この世界では余程の事がない限り初対面のお店で、物を売らないのよ。物を売るのは、お隣の商人ギルドなのよ。なぜだか解るかなぁ?』


「……い…いえ… 存じ…上げな…い…デス。」


俺の態度に確信したのか?女性は笑顔で近づいて来た。


『あらぁー。そんなに固く、ならなくていいのよぉ……力抜いて♡』


 ……えっ?なにこれ……?そう言うプレイじゃないよね……??料金発生しないよね………???誰も頼んでないのにフルーツの盛り合わせとか、多数人分のゴールド色のシュワシュワするお酒出ないよね?異世界は、水一杯だけで数10万円発生しないよね…?するのは現実の世界だけだよね………??(※鈴木 空の体験談より)


『あなたの世界と違ってこっちの世界は、いい人ばっかりじゃないからねぇ♡』


「いや……ホント。色んな意味で、仰ってる意味が…よく理解出来ませんが……。」


『何て言えば解るかなぁ〜プロの傭兵に素人が素手で戦って勝てる?そんな訳がないでしょぉ?商売人に素人が物を売っても、お金にならないの、この世界では子供でも知ってる常識よ。その為に、商人ギルドが平均的な価格で買い取って、それを商売人がギルドから買って一般に販売するのよ。そうしないとね、生産者達が、ほとんど損して儲けが無くなって潰れちゃうからねぇ♡』


 もしかしたら……この世界の知識がない俺は商人から見たら、赤子の手首に関節を決めるぐらいに簡単に騙せるのかも?


『それに……ねぇ、こんな真っ白で不純物が混ざってない塩なんて私、産まれて初めて見たぁ♡。王族や貴族でもこんな良い塩を使って無いわょ。こんなの他の悪徳商人にバレたら入手先を話さない限り、間違いなく解放されないレベルよぉ♡』


「確かに悪徳商人が金の成木を見す、見す、見逃す筈がない…」


『さらに忠告するとねぇ♡異世界人だって奴隷商人に、バレたら間違いなく、あの手この手で多額の借金させられるか、犯罪に巻き込まれて気が付いたら一生奴隷だからねぇ。異世界の知識、無限アイテムボックス、全言語通訳どれを取っても間違いなく、この世界の常識を越えてるからねぇ。でも私は()()()()、奴隷商売に興味がないから安心してねぇ。でもねぇ、このお店の隣のお店が奴隷商売のお店だから気を付けてねぇ。さらにその隣が、多分あなたと同じ異世界から来た人がやってる料理屋さんが、あるんだからねぇ♡』


  突然、俺は聞いてもいない衝撃の事実を満面の笑顔で聴かされた……。


「えっ?異世界から来た人が料理屋さん?」


『そうなのよ。全く見た事もない料理が驚ほど!美味しいから多分そうだと思う、今から行ってみたら?』


「いやいや……俺からしたら驚く所は、そこじゃないから!!」


 他の国と闘う為に呼ばれた筈なのになぜ?見つかったら奴隷確定なのになぜ、その横で店を開く?


『話は変わるけど、他にあなたの世界の物無いの?珍しい異世界物だから、異世界の文字が書いた紙切れ1枚でも商人ギルドに売れば、安くても金貨50枚はくだらないわよ』


「………えっ?売れるの?この店では、売れないって言われたから、そのまま服を買った店で着ていたスーツと会議で使う資料がいっぱい入ったカバンを、タダで処分してもらったんですが……」


『ハッハハハそりゃそうだょ!服屋で異世界の品物が売れるわけ無いよ。商人ギルドに行って売れば金貨数千枚で売れた、だろうにね。もったいない』


 ……あれ?もしかして俺、知らない間に騙されてたしかも物凄く損してない? 文字が書かれた紙一枚が金貨50枚って……はじめに王様から貰った金額よりも高いじゃないか!しかもカバンの中には会議で使う筈だった資料が数百枚入ってたし! そりゃ~不規則な飛びかたをする、銀色の円盤の設計図が書いた紙なんて、国家予算級の金額になるだろうけど、そうじゃなくても異世界の言葉を理解する為の資料には、なるだろうし大昔に使われた古代文字よりも、遥かに技術が進んだ世界の文字の方が、希少で珍しく劣化していない為に高値で売れるのだろう………。


『それとね、この塩ギルドで売れば金貨1枚以上ぐらいになると思うけど、情報料と口止め料って事で銀貨5枚で、お願いできるかしら?』


 大人の色気で揺さぶって、緩んだ隙を突いて動揺させて話の流れをいい方向に誘い込み、そのまま進められ聞いてもいないのに奴隷商人と同じ異世界から来た人の情報と場所をわざわざと教える事で、脅しと異世界人の人質がいる事を伝え、疲れた所に()()()()()値段の()()()をしてきた。


 この世界のギルドの意味が少し解った気がした。素人が商人に商売で勝てる気がしない!断ればどんな仕打ちが待ってるか………考えるだけで怖い。 元々、タダで取れる【塩】が銀貨5枚で売れるだけでもかなり儲け物だが俺の心境は、高く売れるはず!売れたらいいな?売れるはずがなかった……に変化した今、損して得取る事した。


「塩は差し上げます!ただし、何かあれば、無料で相談に乗ってください。」


『……えっ?ホントに?相談に乗るだけでいいの??』


「ハイ!情報料と授業料だと思えば安いもんですから!解らない事があれば聞きに来るので、お願いします」


『気持ちよくしてあげるから♡。私ローゼ姉さんに任せるのよ♡』


「……………………ベルです。………また来ます。」


 扉を開け外に出ると、ルーシーに『遅い遅い』っと文句を連呼されて言われた。辺りを見渡せば夕日は完全に沈み、飲み屋の看板が灯をともし、午後7時を知らせる鐘の音と晩飯を知らせるルーシーの腹の音が辺りに鳴り響いた。


 俺達は教えて貰った2軒隣の料理屋さんに行く事にした。


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