33話:親友がチート過ぎた件④
ドンドンドンドーーン。待てぇ待てぇー。 ギャーーギャー
洞窟型のダンジョンには、鳴り止まない爆発音っと無邪気な声、そしてモンスター達の悲痛の叫びが響きわたっていた。
無邪気に剣を振り回して『待てぇ待てぇー』っとモンスターを追いかけ回すひなた、それを微笑みながら眺め、遠距離から弓や槍を持って攻撃してくるモンスターを躊躇なく光属性の魔法で撃ち抜いていく美月、その後ろで山田はどちらがモンスターなのかと疑問に思い小さく身を丸めて震える。
山田は、美月の優しさに怯えていた。それは数時間前の話だった……。
『早く行きたいぃ、ダンジョンに行きたいぃ』
訓練中に城壁を壊し訓練が中止された、ひなたと美月は城からの外出を禁止されてやる事が無く山田1人の訓練待ちで暇を持て余していたが、山田の急がれた訓練が終わった、次の日の朝にアルベルトとドドリアーノからこの異世界のモンスターとダンジョン事情をを聞かされ、ひなたはまるで遊園地に行きたい子供のように駄々をこね美月を困らせていた。
「すみませんが馬を1頭と何日か分の食料を頂けますか?」
困った美月はアルベルトとドドリアーノにお願いしたが、アルベルトとドドリアーノには美月の思考が理解できなかった。
『馬車1台ではなく馬1頭では3人乗れないがよろしいのか?』
「はい。急ぎますので」
『分かった。馬と食料それと武器を急ぎ用意させよう』
「では、30分後に」
『いやいや、チョット待ってくれ、2時間いや、1時間時間をくれないか』
「では、1時間後に」
ひなたと美月が、なぜ急ぐかと言えばアルベルトとドドリアーノから、この異世界のモンスターの事情を聞いたからで有る。
ゴブリンは、人間の女性達を無理矢理ダンジョンに連れ去って散々犯したあげく子供を産ませ、1回の出産が約6ヶ月で、1度に5匹〜6匹生まれる為に繁殖率が非常に高く、増えたゴブリンは街道の馬車や近くの小さな村を襲いまた女性を連れ去り何度も、何度も、子供を産ませ増え続ける悪循環を繰り返していた。
それを聞いた、ひなたは駄々をこね始め美月はひなたの笑顔が見たい為に考えた答えが、「馬1頭と食料」っと言う答えだった。
スピードの出にくい馬車なら片道2日はかかるが、乗馬経験の有る美月とは違い、馬に乗った事のない人間が練習も無しにいきなり馬に乗れる程、乗馬は甘くないし、落馬とかで怪我をすれば余計に時間がかかるのはアルベルトとドドリアーノにも理解出来たが、なぜ馬1頭でいいのか理解出来なかった。
1時間後、アルベルトとドドリアーノは額の汗を拭いながら食料と武器それと馬1頭の準備を整えた。
美月は食料と武器を【異世界収納】に収め、近くに置いて有った縄で山田の腰を縛っり馬の鞍に結び付けて馬に跨りひなたを自分の前に座らせ、優しい美月は山田に防御魔法をかけて馬を全力で走らせた……。
お花畑をスキップする山田(皆さんの御想像にお任せします)
その光景を見た、アルベルトとドドリアーノは背筋がゾクゾクと震える感覚を覚えたが、それと同時に無事ダンジョンの誘導に成功した喜びを素直に噛み締めていた。
美月のお陰で2人は無事に、半日の時間でダンジョンにたどり着いたのであった。ただ1名は川の手前にあるお花畑から生還しゴブリンの悲痛な叫びと、自分の腰を中心に回っていた世界を思い出して震えていた。
『ヘイボン早く行くょ』
「グズグズしてると灰にしますよ」
美月の冷静な言葉に山田は生命の危機を感じ追いかけたが、山田が戦闘をする事は無かった。山田が近接攻撃をするよりも早く敵はひなたに倒され、特訓で覚えた火属性の魔法を唱える為に詠唱を始めれば、美月に蹴られ「こんな狭い地下の洞窟で火属性の魔法を唱えて私たちを窒息死させたいの?」っとキレられ、山田のスキル【周囲警戒心】(周囲のマップを見れて、宝箱・敵・罠の位置が分かる)を使って道や敵の位置を教えようにも、剣を振り回して先頭を行く自由人ひなたの前に出て道案内するなど自殺願望でも無い限り無理な話だった。さらに美月のスキル【知識有る者】(見た物を鑑定する)は、そのまま見た物や人物を鑑定する為ダンジョンの壁や床を見ただけで、どんな罠が仕掛けて有るのかが分かるし、罠の解除もひなたの前では必要無かった……
「ひなちゃん。3歩前の床に毒ガスの罠が有るから気をつけてね」
『ハーイ。罠ごと吹き飛ばすねぇ』
ひなたは剣を上段に構えて大きく振り抜いた。
ドーーン
ひなたの前方6メートル・深さ50センチの床とゴブリンが一瞬で消えたのだった……
「ひなちゃんはホントにチートなんだから」
笑顔で語る美月の言葉に山田の心の叫びは、オマエもだよっと言いたかったが、山田に自殺願望は無かった。故に山田が出来ること言えば、ゴブリンが落としたドロップアイテムと宝箱の回収しか、する事が無かったのだ。
『何だこれ?呪いの掛かった腕輪じゃね〜か』
「早くしなさい!串刺しにされたいの?」
『ま、待って下さい。今行くっス』
山田は宝箱の中から【反転封印の腕輪】《SSR》【呪い】《スキルは自分自身にしか使えない》を取り出し捨てようとしたが、美月に急がされて慌てて回収し後を追いかけるのであった……。




