1話:人生最悪の厄日
「ハッァハッァ………こんなはずで……ゲホッゲホ……この……まま……では………ガハッ!」
スーツ姿の一人の男性が、大きく肩を上下させて息をしながら胸に手を当てて苦しそうに蹲り…… 今に……も……
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
時を遡ること、ほんの数分前…………
カーテンの隙間から、淡い木漏れ日と共に優しく吹き抜け、ほのかに香る春の薫りと小鳥達の囀りに呼ばれ、俺はゆっくりと目を覚ました。
「う―――――ん。よく寝たなぁ〜」
こんなに気持ちのいい朝は、ホントに久しぶりだ。今日は何か特別に良い出来事でも起きそうな予感だ!今さっき夢で見た。絶世の絶世の美女達との運命の再会とか…?
本日、朝9:00から他社との合同での会議があるのだが、そこでまさかの運命の赤い糸で結ばれた女性達との運命的な出会いもしくは、奇跡的な出逢いとか。あったり無かったり。ここ大事なのできっと後で出たらいいな……
俺の名前は、鈴木 空 (36)
40代手前の独身のサラリーマンにとって出会いとは、仕事以上に、とても大事な死活問題であるはず……。 だよね……?
俺が子供の頃に発症した厨二病は、俺にとっては治ることの無い、不治の病だった。自慢じゃないが36歳にも成って今だなに独身貴族だぜ。現実社会と言う名の苦くもほろ苦い、処方せんのおかげで症状が随分と緩和されたのだが、今ではその処方せんも、致死量ほどの現実にいつ押しつぶされても可笑しくない状況なのだ……
そんな事思いながら、俺は布団から起き上がり枕元のデジタル時計を見れば7:53だった。まだ、そんな時間か、これならゆっくりと2度寝……で……き…る……………………わけないだろが………8:40までには会社に着いて会議の準備をしないと、会議に間に合わないのに……まさか?ナイナイ!俺が寝坊!?でも……いや、そんな筈はない!
何故なら今日の朝は、アラームに起こされた記憶が全くないからである。
昨日、寝る前にアラームをセットした記憶が、綺麗、さっぱり、全くと言って良いぐらいに、完璧に無い……のだが、今はそれどころではない。
再度、時計を確認したら7:55だった。2分43秒の自己ベストを更新!慌てて着替えを済ませ家を飛び出した。普段なら駅まで歩いて10分の距離なのだが、走って行けば8:10発の電車に、間に合うはず!。否、きっと間に合うだろう。?間に合うといいな……。
だが、急いでる時に限って、いつもより多くの信号で足止めをくらう。本当についてない!横断歩道の手前ギリギリで信号が青になるのを今か、今か、と呼吸を整えながら待ち構える。これでも毎日4食、昼寝、おやつ付きで鍛えた体は伊達じゃないはず………
「ハッァハッァ………まさか……こんなはずで……ゲホッゲホ……このまま……では………ガハッ!」
呼吸を整えるどころか、今にも永遠に止まりそうだ。普段、全く走らない俺がいきなり全力疾走したもんだからか?昨日の夜、飲んだ酒が甘酢パイ思い出と胃液を連れて、口からマーライオンの噴水の様にキラキラを溢れ出しそうになる。おかげで記憶が走馬灯のように蘇ってきた……
お酒は、金輪際、絶対に、2度と、たぶん、今日は、飲みません……?
何故か、皆んな俺の事を駄目人間と呼ぶ…
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後ろから、小柄で赤毛のショートカットの似合う活発で可愛い妹タイプの女の子と、細身のモデル体型なのに出るところはしっかりと出ている黒髪ロングの美人の落ち着いたお姉さんタイプの2人組の女子高生がゆっくりと、俺の後ろから歩いて来た。
その横を1人の、つり目でどこかの世紀末救世主に、登場しそうな今時、珍しい雑魚キャラA風の派手な頭をした男子高校生が強引に話しかけていた……まさかの、朝っぱらからのナンパである。
(朝早くからナンパとはこいつ、相当、女運が無いな)と自分の事は棚上げ、可哀想な奴だと思いながら話に耳を傾けた。
『あれぇ……絶対〜どこかで〜会ったよね?また会った記念に、今から一緒に遊びに行こうよ』っと言いながら二人の女子高生に近付く派手な頭の男子高校生。
『う―ん?。知らない人に付いて行っちゃダメなんだょー』
『今まで、会ったことないですし。来世でも二度と会うつもり無いので、知り合いだと思われたら不愉快なので消えて下さい』
女子高生2人とも笑顔だが、目が笑ってないんですけど…… それでも男子高校生は、両手を擦り合わせながら諦めず近付く……
『えー可愛い二人に一目惚れしたんだよ。だから、ちょっとで良いから~かまってよ俺様、淋しくて泣いちゃうよ。ねっ、ねっ、お願い!』
男子高校生の言葉に女子高生2人は、あからさまに不機嫌そうな顔で答えた。
『えーだってぇ……頭が、頭がねぇ変なんだょ』
『誘い方が平凡、過ぎて付いて行く気にもなれませんわ』
それを聞いた男子高校生は、プルプルと肩を震わせて大激怒した。
『この俺様……山田 太郎がへ、へ平凡だとぉぉ……』
平凡、過ぎるじゃねーか!っと全力でツッコミそうになったのだが止めた。何故なら、俺達の足元に突然、光り輝く魔法陣が現れたからである。
俺は本能的にこれはヤバイ奴だと思い、取り敢えず全力で逃げる事を考えたのだが……
俺の正面1メートル先は車道で、大型トラックがクラクションを鳴らし猛スピードで、止まる気配など全く無いまま走り去っている。カスる程度でもれなく別世界に転生しそうなのだが……チキンの俺には正面は無理。
右後ろ振り返るとショートカットの女子高生。俺の真後ろは黒髪ロングの女子高生。その左横が山田 太郎だった。
緊急事態とは言え、見ず知らずの女子高生を突き飛ばしたり、タックルするのは流石の俺でも気が引けるし、タックルは暴行に含まれますか?
いやいや、待てよ!もしかして言い方を変えたら、何とかなるんじゃないのか……俺は淡い期待を胸一杯に真面目に考えてみた。
『今朝、会社員男性(36)が女子高生に体の一部を、擦り付けて逃走!その後、犯人は近く居合わせた警察官に、現行犯逮捕されました。それでは現場の雪野アナ』……
『ハイ、こちら現場の雪野アナです。容疑者の男性が勤めていた会社の同僚にインタビューしましたのでこちらをご覧ください』
モニターに映った、モザイクの女性がゆっくりと語り始めた……
『私は絶対、近い内に必ずやると思ってました。だってあの人、私の事をいつもやらしい目で見てましたから……』
顔をモザイクで覆われて、声を変えてあるけど分かるよ!俺はアンタの事だけは、見てなかったよ。お局様……
あれぇ?おかしい、言い方を変えたらテレビのニュースでよく見るダメな奴だ!しかもお局様の後ろで俺の同僚が、カメラに向かってピースしている。そんな友情実演は、誰も頼んでいないのだが……
チカンの冤罪にプラスして不名誉な称号が次々と上乗せされている。俺の妄想なのに…どこで真面目の意味を履き違えたのか、ベクトルの方向性が、解散前のロックバンド並みに間違えてるじゃねぇか!
こうなったら眼の前のトラックで別世界に転生か、足下の魔方陣で異世界転移かの二択しか…… 時間にしてわずか数秒だが、色々と無駄に考えてるうちに足元の魔方陣の光りが強くなり、辺りを白く染めて行くのであった……。
…………気が付けば、そこには石造りの部屋で。
全身に鎧を身に纏った兵士達が数名、俺達に槍を構えいつでも攻撃できる体制でこちらの様子を窺っていた。その後ろに、黒いローブを身に付けた神官達が数名。
『皆のもの武器を下ろせ。ようこそ異世界の勇者様。あれぇ…?4人いる?3人じゃなくて…??』……あれぇ?何故か御偉いさん風の人が驚いてるが?。 驚きたいのはこっちだ、本当に異世界か………厨二病の俺でも突然、過ぎて余韻を噛みしめるまもなく、そのまま何の説明もないまま、謁見の間に案内された。
扉からしてキラキラして贅沢な作りだ。部屋に入れば、これでもかと言わんばかりに高そうな美術品が並べられ、大金持ちの宮殿見たいだ。
謁見の間、正面に宝石がゴロゴロ付いた指輪と王冠を身に付けた醜く肥えた王様が座って待ち構えいた。その隣にはキラキラした白いドレスを身に付けて美しく整った顔の女性が、何故かひどく酷く怯えた顔をして座っていた。(王様に怯えてるように見えるが)
俺達4人はキョロキョロしながら出された椅子に腰掛けた。
左から俺、鈴木 空。その右が山田 太郎。その隣が黒髪ロングの上杉 美月。右端が赤毛でショートカットの武田 ひなた。
椅子に座って落ち着いた俺は、ある重大なことに気付いた!
「完全に、遅刻だぁぁ――!!!」
俺は思わず叫んでしまった……
「これから仕事が、いや大事な出会いが、きっとあるはず何です。だからお願いです今すぐ、元の場所に帰して下さい」っと王様に訴えたが『それはできない』の一言でアッサリと片付けられた。
『オイ、オイ、還す事が出来ないのにかってに呼び出すのって酷くなくない?』
山田 太郎が王様に食って掛かった。
これには、流石の王様も、申し訳なさそうに何度も謝罪してくれた。…だが、謝罪したのは部下の兵士達だけだった。
最後まで読んでくれてありがとうございます。もしよろしければ、ブックマーク・評価して頂ければ助かります。
※この作品は以前に書いた「異世界で間違ってスキル使ったら!神になってしまったので、とりあえず……」の改訂版です。スキルや設定が同じなのですがストーリーは全く違うので読んで頂ければ嬉しいです。




