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第一章

文体模索も含めて、新ジャンルを書いてみます。SFです。(軸足はファンタジーですが)

ご一読頂ければ幸いです。

会話主体で時々アクションに成ると思います。

「じゃあ、授業? を始めようか」

「授業? これは私達への聞き取り調査でしょう? 審問官」

「彼が『学校のようだ』と認識している。その場合、これは『授業』と呼ぶようだが誤認識だったかな」

 そう言ったのは短髪の、精悍な顔立ちの男だった。黒いスーツを着ている。

 スーツの男と対面するように机を挟んで、二人が座っている。

 審問官、と呼び掛けたのは金色のウェーブのある長い髪、細い顔のイリヤだ。

 イリヤの隣に居るのはハクト。黒髪のミドルヘア、細かな癖のある髪、どこか線の細いところのある顔。

 既に眠そうだった。ハクトとしては本気で眠いのだ。

 木のテーブルを挟んで誰かと話す時点でもう眠い。授業でも別教室でこんな感じだった。

 教師と一対一か、精々二、三人。

「しっかりしてよ。相手だってどう動いていいか分からないじゃない。うまく行けば地球が助かるのよ。ねえ、起きて」

 イリヤの手がハクトを揺さぶる。

「お腹空いた」

 突っ伏したままハクトが力なく言う。

「ああ、君たちは食事をしながらだと、よりコミュニケーションが取りやすい? 親密? に成りやすいようだね。何か用意させる」

「もう、寝たままでもいいから意識を全部読んで頂いても結構です。眠い、とお腹が空いた、は面倒臭いという意味でしかありません」

 イリアがまくし立てる。

「彼にとっては同義のようだね。賢人会議での決定によれば、君たちの自然なコミュニケーション形態を偽装しながら意識を読むことになっている。どうだろう。この姿に違和感はないかな」

 審問官、と呼ばれた男も全身が偽装だ。信用されるだろう地球人の姿を取っているだけだ。

 椅子から立つと、筋肉質の身体を見せつけるように軽く回って見せた。

「あの、とても自然で……」

「立派? 信用できる? 信頼感? 好み? その辺りかな」

「へー。こういうの好みなんだ」

 ハクトが急に顔を上げる。すっかり目覚めたように目を輝かせている。

「ハクト君は、可愛い、と思われているようだ。好ましい? ほぼ同義だろうか」

「何でこういう話題だけ。本当にもう」

 イリヤとしては耐えられない。気恥ずかしいにも程がある。話を切りたかった。

「彼の興味のある話題に絞ってもいいが、それでは全体の状況が掴めない。昨日の方式に戻るのも手だが、あまり紳士的? 親和性のある? 扱いではないようだ」

「あれはちょっと、私も耐えられないです」

 暗い部屋。記憶から合成したらしい写真、単語が数秒間写される。

 その反応だけから彼ら――デルガ、と発音するらしい――という生命体がイリヤの精神を読み取る。

 たったの四時間と言えばそれまでだけれど、終わった時には疲労困憊していた。

 全部の写真、全部の単語に反応しようとした。

 結果は良かったらしい。けれど毎日あれだと持たない。

 ハクトは別室で同じ実験を受け、殆ど寝ていたのだが。

「そうだ。君たちの生体情報から、生殖可能性を調べさせて貰った。結果は非常にいい」

「やめましょう。ね。そういう話題」

 イリヤの顔が火照って止まらない。

「失礼。君はこの話題が嫌いだね。以降慎む? 事にする」

「人類再興には他に手がないもんなぁ」

 事あるごとにハクトが言う。からかうのは止めろ。そうイリアは声音に込めた。

「あるわよ! DNAシンセサイザだってここにはあるんだから。状態のいい乗員からDNAを採取することだって出来るの。あなたと私しか生き残ってないからっていい気に成らないで」

「怒らなくてもいいだろ。ごめんよ」

 DNAシンセサイザくらいはハクトも知っている。

 ――緊急警報で起こされた時の事を覚えている。

「たった一人? 嘘だろ」

 明かりの明滅する移民船、奥の手、の中を走り続けた。

 既に移民船は遠く地球を離れていた。

 誰が船をこんな名前にした。そんな事はどうでもいい。

「逞しく、負けず嫌いのお前なら生き抜ける」

 手を振り送り出してくれた施設の職員の声。

「つかお前、チンコで選ばれたんだろ? 生殖鬼よぉ。いいよなあ。生体検査で30発とか。バケモン代表として行ってこいよな。抜いてくれる時点でもう天国だわ」

 そう言い放った同室の山城は選ばれなかった。

 うるせえ実戦はねえ。

「あ……」

 生存を意味する青い光が、真っ赤に変わってしまった乗員の睡眠施設――冷凍睡眠ベッドの群れの中に一つだけ有った。

 顔写真がベッドの横に貼ってある。

「すっげえ美人じゃん」

 一瞬、警報も聞こえなくなっていた。

 毎日点検しては青が灯っていることに安堵して、緊急用食料と水だけの生活を続けた。

「俺が死ぬまで起こさないほうがいいんだろうな」

 もっと遠くへ。何かが居る所へ。

 岩とぶつかったくらいでこうなるのかよ。

「じゃ、おやすみ。姫」

 そう言って防熱シートを被って寝る。その繰り返しだった。

 そして十年。気が付いたら十年経っていた。

 乗った時が十八だったから、二十八歳に成った。

 退屈した時用の本もあれば、まだ残っている発電施設の容量から見れば何でもない学習プログラムもあった。

 ちょっと読んでは本を放り出した。学習プログラムも続かなかった。

 誰も評価してくれないとやる気が出ない。ハクトの性格でもある。

 出来る限り最高に綺麗な子を学習プログラムのアバターに選んで三か月は持ったけれど、そこまでだった。

 時々身体だけは鍛えた。

 丁寧な事に途中で故障して起きてしまった時用のガイドブックが有った。

「日本語で」と言って開いた。他の本も全部同じだ。


 ・船内の「生活区域」に移動してください。二十四時間で一日が過ぎるよう、照明を調節してあります。ご自分の好みのタイムゾーンを選んでください。壁の大時計に向けて国籍を告げるだけでも大丈夫です。

 ・緊急用食料の心配はありません。倉庫の一覧はこちら。

 ・希望を失わないで下さい。希望はあなたが生きる上で最も大切なものです。他の生存者も希望を持って乗船しています。みんなの願いが叶ったらどんなに素晴らしいでしょう。

 ・何もやる気が出ない日もあります。身体を動かしましょう。運動メニューはこちら。

 ・医薬品も倉庫に有ります。身体や心の調子を話してください。

 ・巻末にフリーページがあります。日記をつけてみるのはどうでしょう。ガイドブックには書き込みに合わせて返事を書き込む機能があります。

 ・10万時間を超えるあらゆる種類のVR体験と1万種類以上のゲームがあなたを待っています。是非、楽しんで感想を日記に書いてください。自動プログラミングでさらに好みに合ったゲームを作成します。風景へのエフェクトも自由自在。あなたを退屈させることはありません。


 入浴の仕方から排泄から何でも書いてあった。VR映像は溜まったら使った。実際飽きない位はあった。どんな変態でも大丈夫なくらい。

 何も起きていなかった時の地球の映像もあった。綺麗だった。なぜか泣けたから泣くのに使った。

 それより倉庫の隅でティシアを見つけた時の方が大事件だった。

「えっと? 生存者? メシ食ってる?」

 泣きそうだった。それが変な気分になるくらい煽情的な服だった。

「セクサロイドです。ティシアと言います。私の名前はご自由に呼んでください。好みの体型に変形するドックもあります。このままでもかなり変えられますけど。私の利用方法は分かりますか?」

 その後の事は内緒だ。思い出すと読まれる。

 ふわふわとした栗毛、はにかむような笑顔。もう一人じゃない。そうとさえ思った。

「無人島に何もっていくとか有ったな」

 一人で生活区画に居た時にそんな事を言った。

 昔は本と思っていた。

 独り言が増えていた。何も喋らないと気がおかしくなる。

「何持って行って良くてもそもそも無人島行かないな。あー。帰還用ボート。ヘリ。帰れるもんなら何でもいい。あと精神安定剤山ほど」

 山ほど。精神安定剤みたいなものは倉庫に有った。不眠、やる気ない、集中できない、落ち込む、希望をくれ。壁にある医者の画像に向けて言えばドバッとパックが出て来る。

 たまには先の事も考えた。

 予定では千年以上眠っているはずだった。何年目に壊れたか?

 大体八百年だ。予定の宙域まで二百年はある。そこに着いたら何かがあるという訳でもない。

 待ち望んでいた、頼みの何か、が宇宙船に侵入してきた時の事は分からない。圧倒的な光で目が眩んでいる間に保護された。

「もう一人居るんだよ! もう一人! 違う、三人!」

 そう叫んだことだけは覚えている。

 ――「寝てるの?」

 イリヤは呆れたように、とろんとした目のハクトに言う。

「起きてる。とにかく無事でよかったな」

「あーもう! 涎垂らして!」

 ハクトの手に小さなタオルが押し付けられる。

 年上扱いは最初の数時間だけだった。ハクトから歳なんかどうでもいいと言った。

 イリヤを見る度に思う。どうしたらたったの18年間でこんなに頭が良くなるんだろうな。

 ハクトとしては空白の10年何やってたのかという事にもなるけれども。ショックでポカーンとしてただけだ。バカにはなった。そんだけだ。

「どうだろう? イリヤさんはこのやり方でも、つまり対話でもいいようだが、ハクトくんは何か別の方法を考えたほうがいいかな。対話にも向き、不向きがあるようだ。必要なら再度賢者会議で検討して貰う」

「んー」

 ハクトは言い淀んだ。

 別々に成るのは嬉しくはない。

「ああ、なるほどね。君は女性教師が好きなようだね」

「こいつの要望なんか聞かなくていいです!」

「そういう言い方はさぁ」

「女性教師? タイツ? 短いスカート。興味深い」

「もう私が全部答えますからハクトは無視してください」

「えー。だって中身は宇宙人で……俺、大丈夫かな」

「何が大丈夫なのよ!」

「興奮とかね」

 冗談だ。イリアが大音声なのは放っておく。

 女教師。もう28なのに何考えてるんだ俺は。

 中身は18のままか。やっぱりな。

 やばい死にたい。出来損ない。超古典映画ばっかり浮かぶ。

 あんなに技術ない時代に凄いよな。

 ソー、みたいに死にたい。鳥、みたいに死にたい。

「君はタナトス? 死への願望? 絶望? があるのかな」

「ああ、死にたいっていうのはちょっと痛いっていうか」

「単に不快、です。むしろ破壊衝動です。死にたいじゃなく殺したい、です。ハクトの場合。でしょ?」

「十年寝顔見てた俺に酷いよねえ」

「気持ち悪いから言わないで変質者。私の顔写真で、その、何でもない」

「読まれちゃうじゃないかよ」

「君たちは、興奮を伴うある種の行為、我々も定義が難しいと合議中だが、仮にエクスタス。脱自的行為。……すまない、難しいので語彙をもう一度選択させて欲しい。相互受け入れ? 愛? そうだな愛。新しい概念だ。うまく使えないかも知れない。何よりも愛で繁殖する。遺伝子的優位に愛が優先する。そう理解していいかな」

「概ねそうですけれど、変質者までそれで括っていいんですか? 監察官」

「イレギュラー? 変異? は常に存在する。完璧なものはない。イリアさんが望むものと、ハクトくんが実現? しているものは違う」

「人それぞれ、だと退屈な話なんですけれど」

 ふぅ、とイリアは溜息を吐く。

「すいません。何の情報も加えていなくて」

「いいんだ。自由にして欲しい。我々は今、君たちがなぜ滅びてしまったのか、再建しても滅びるだけなのか、非常に興味を持って、それこそ全星の知恵? を結集して考えている。回避策はあるのか。我々はどこまで介入していいのか。問題は沢山ある」

「助けないってのはあるのかよ。いいから助けろよ。出来るんだろ?」

 ハクトとしては自分でも抑えられないうちに、感情が爆発していた。

「ハクト。やめて。もう口きかないからね?」

「……上から言うんじゃねえよ。イリアにじゃねえよ? ああ俺らはタダの難民だよ。このまま殺すとか言うなよ? 救わない事にしましたとか事務的に言うなよ? これでも全力出したんだ。助けてなんて言わない俺が言ってるんだよ」

「聞いてくれているのに恫喝とか、評点が下がるだけでしょ」

「零点で何が悪い。おい、イリア?」

 キューブリックみたいに白い部屋のドアが閉まる。

「なぜだ? なぜ同種なのに対立する? 戦うべき脅威は無数に、例示したほうがいいね、環境、技術的限界、大規模災害、」

「うるせえ」

 ハクトは部屋を出た。

 また評点が下がる。マイナス10で審議停止、だっけな。

 いま何点だよ。

 マイナス3だ。

 頭に浮かぶ。肉声の要らない異星人。


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