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元勇者の非日常2

相棒がアジトと呼んで居た物は、アジトと言うより荒ら屋と呼んだ方が分かりやすい様な物だった。風雨に晒され過ぎたのか、屋根や壁の木は所々剥げており、敷地を囲う塀はボロボロだ。


「こっちだよ」


相棒はヒョイヒョイと器用に落ちた塀の残骸を避けながら扉の前に辿り着く。見てると簡単そうに見えるが、実際やってみると酷く難しい。瓦礫が散乱していて足の踏み場も無いし、瓦礫の上に足を置こう物なら容赦なく瓦礫がぐらつき、俺を転ばしに掛かる。


「うわぁ、っと!」


扉の直前まで行った所で大きくバランスを崩し、体が傾く。夕焼けに染まった綺麗な空が見え、そのまま転ぶことを覚悟した。目を瞑って衝撃に備える。

……。

………。

…………。

可笑しい。何時まで経っても痛みが来ない。

不思議に思った俺が、恐る恐る目を開ける。


「大丈夫かい?」


開けた目には相棒がデカデカと映り込んだ。

間近で見ると相棒が女であることが良く分かる。俺を覗き込む瞳の色は澄み渡った青、髪の色は俺と同じ黒。ただし、髪の色は本来その色では無いことを俺は知っている。少しだけ見せて貰ったのは雪の様な白色の髪。髪色を変える魔法の髪止めを付けて居るのだ。でも、今チクチクと艶やかに溢れ掛かる黒髪を感じていると黒髪もまた悪くないなと思ってしまう。そんな黒髪を見ようによっては女性にも男性にも見える絶妙な長さでカットしている。

鼻筋は通ってるわ唇はふっくらしてるわ顔はちっさいわでクッソイケメンだな。ここまで綺麗じゃ本性から男やってる俺が虚しくなるわ。

それにしても顔ちっか!

顔とか赤くなってないか俺。大丈夫か?体臭は大丈夫だよな……お風呂は昨日入ったし……。口臭は……自分じゃ分からんから息止めとくか。ここで「臭い」とか言われてみろ。1週間は立ち直れないぞ。


「だ、大丈夫。大丈夫だから」


だから早よう離せ、もう良いから。大丈夫だから。もう許して……。

グイッと相棒の肩を押して離れようとするも、何か勢い余って変な所を押してしまいそうで強く押し返すことも出来ない。あ、身体は俺と違ってちょっと柔らかい。やっぱ女なんだな。そんな当たり前のことも思ったりした。

そんな俺の微妙な抵抗に気付いたのか気付いて居ないのか相棒は素直にスッと放してくれた。

あー、顔が熱い。

もう、最っ悪だよ。絶対どんくさい奴だと思われた……。こんなマイナス評価どうやって取り返したら良いんだ……。大体こんな瓦礫だらけでスラスラ動けるなんて慣れてる奴以外無理ゲーだろチクショウ。


「良かった。怪我でもしてたらどうしようかと思ってた」


相棒はホッと一息吐き、胸を撫で下ろす。因みに相棒の体型はスラッとしていて胸は見当たらないが、一応彼女の名誉の為に言っておくと、それは単にさらしか何かで押さえ付けているだけであり、まな板って訳じゃない。


「誰が転んだ位で怪我なんぞするか」


ガキじゃ在るまいに。これでも身体能力は人より優れてる方だ。自分じゃ見ることは出来ないがステータスも高いらしい。よっぽどの転び方をしない限り傷1つ付かんだろう。


「それもそうだね。じゃあそろそろ招待するよ。ようこそ、僕のアジトへ」


相棒は安心した様な顔になると、扉に手を掛け開け放つ。


「……外とは大分違うな」


俺は内部を見てそんなことを思った。

中は割とスッキリしていて、外の様なゴチャゴチャという雰囲気はない。家具は高級そうなソファーが二つ、机を囲う様にL字型に配置してあり、奥にはベットもあった。不思議なのは外はアレだけボロっちい木造の外見だったのに中の壁は煉瓦造りだ。ペンキか何かで綺麗に白く塗り直してあるが、どう見ても木造には見えない。


「そりゃそうさ。もしかして外見で誤解されてしまったかな」


相棒は後ろから俺を抜き去って部屋に足を踏み入れると、(勿論土足だ)魔法使いが着るような野暮ったいローブを脱ぎ、扉横のハンガーに掛ける。

俺も入ろうと思い、足を踏み入れようとした所で不意にそう言えば此処は女の子の部屋なんだよな、と思い出し、苦笑いをした。確かに女の子の部屋では有るが、家主は男の格好をしていたり、生活感がまるで無かったり、アジトと言っていたりと女の子の部屋感はまるでない。小さくお邪魔しますと言いながら中に入ると先に入って行った家主は笑顔で迎えてくれた。


「外のアレは偽造フェイクなのさ。確かに此処は“暗殺ギルド”(ウチ)の名前で守られてはいるけどそれは裏のこと。全部が全部何処かしらの組織に与している訳じゃないし、この街のことを何も知らない市民や流れは何時でも必ず一定数居る。そんな奴らに家捜しされたら非常に困るんだよ。何せこういう場所には見られたら不味い書類がわんさか有るからね。だから此方としてもも外の偽造みたいに彼らを悪の道に引き吊り込ま無い様に配慮しているのさ」


相棒はそこまで言うと咽が渇いたのか、棚から瓶を取り出し蓋を取ると一気に煽る。匂いから察するに酒精の類いではなく、単なるジュースか何かの様だ。


「ハッ、何時からウチは慈善業者になったんだ?それと“悪の道”じゃなくて“土の下”の間違いじゃねぇか?」


俺達が今更悪の道は無いもんだ。


「ぷはっ、上手いことを言うね。確かに一理ある。何か飲むかい?」


瓶から口を離した相棒は此方を指差し、にやりと笑う。独りだけ飲んで居たのが気が咎めたのか、俺にも勧めてくる。勿論俺は丁重にお断りした。

今更グラスにつがれても先程直接飲んでた光景が目に焼き付いて離れないし、かと言って新しい瓶を開けるのも申し訳無い。

いや、まぁ、間接キスはしたいにはしたいんだけど、今ここでしたらこの後頭回らなくなりそうで怖い。これから仕事の話をしなくちゃならないし、焦って変なことを口走りそうだ。

そう、何せ此処は完全アウェイ(女の子の部屋)。些細な言動が俺の好感度にクリティカルに直結する。

一言間違っただけで次の日からリュウジじゃなくてそこの人とか言われ兼ねない。ナニソレ怖い。


「じゃあ、書類持って来るから其処で待ってて」


俺が密かにごくりと唾を飲み込んで居ると、相棒は瓶を棚に戻すとそう言った。


「持って来る?一部屋しか無いだろ?」


どう見てもこの家は一部屋のワンルームだ。外の感じから見ても何処かに余裕があるとも思えない。


「いやぁ、“土の下”からさ」


相棒は人の悪そうな笑みを浮かべて肩を竦めると部屋の右端に移動した。

そして木の床の一部に出来ていた凹みに手を掛けると、一気に上に引き上げる。

あー、成る程地下室か。通りで土間じゃ無かった訳だ。こんな貧民街じゃ珍しいと思ってたんだよ。外の偽装に地下室と2重のプロテクトが掛かってた訳ね。良く考えるなぁ。この部屋にそんなに生活感が無かったのも納得だ。きっと地下に他に家具があるのだろう。


「俺も行こうか?」


俺が聞くと相棒は少し恥ずかしそうにはにかんだ。


「いやぁ、少し散らかって居てね。あまり見せたく無いんだ。其処で待っていて欲しい」


「わ、分かった……」


俺が慌てて頷くとにっこり笑って下に入っていく……。

しっかしイケメンってのは得なモンだな。どんな顔でもかっこ良く見えるんだから。


「……何か良い匂いするんだけど……」


早く戻って来てくれよ相棒……。俺の理性が残ってる内に……。

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