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幕間 2人の受付嬢

「この後も仕事頑張れよ!」


私は目の前の不愉快な男が冒険者ギルドから出ていくのを確認し、念の為10秒程待ってから隣に居たティリーに話し掛けることにする。


「ティリー、貴女あんな人の何処に惚れたのよ?」


私は普段ギルドの受付業務を担当しているだけあって丁寧な口調を心掛けている私ですが、親友のティリーにだけは砕けた言葉を使います。親友に隠し事は出来ない、と言うと何かカッコ良く聞こえますが、実際には同期でまだ敬語を教えられない時から親交が有ったというだけ。

なし崩し的にそうなっただけで特に他意はありません。ですがそのお陰で、何でも忌憚なく話し合える友人を持てたことは私の人生において最良の宝でしょう。

当のティリーはボーッとさっき出ていった冒険者ギルドの扉を眺めていて、私の言葉にビックリした様に此方を向きます。


「ほぇ!?リュウジに!?ナイナイナイナイナイ!全然惚れてない!」


ティリーは顔の前でブンブンと両手を振ると聞いてもないのに勝手に弁明を始めます。それだけで認めたも同然ですね。追及する手間が省けて助かります。


「私は別に惚れてなんか……。確かにカッコいいとは思うし、優しいし、ミステリアスだし、スラッとしてるし、夏の鎖骨は理性をを殺しに掛かってるとは思うけど……。別に惚れては……」


あ、もうお腹一杯なので大丈夫です。それ以上の追撃は独り身の私にはキツい物があるので控えて欲しい所です。

全く、それにしてもこれは由々しき事態です。懸想しているとは思っていましたが、まさか此処まで重症とは……。あんな不愉快な男にティリーが良いように弄ばれると思うと無意識に歯に力が入ります。これは何とかして眼を覚まさせてあげなくては。


「はぁ、あんな男の何処が良いのよ。頭良くなさそうだし、強くなさそうだし、ひょろいし、甘っちょろいし、世の中なめてるし、礼儀がなってないし、強引だし。貴女男見る目皆無よ?」

最近ティリーの様子がおかしいと思って注意して見れば、あんな男に引っ掛かってたなんて……。

もし良い人だったらティリーを任せてみても良いかもとか思っていましたけど、会ってみて良く分かりました。あれじゃ私の可愛いティリーは任せられません。

ちわーす、などという礼儀の欠片もない挨拶、高圧的で自分上位な態度、高がギルド職員に商会の利益を全て預けるという頭の抜け加減。将来性もまるで無さそうですし、明日にでも無一文になっても不思議ではありません。

私達はエリートです。文字の読み書きに加え、事務作業もこなせて自分で言うのもなんですが顔も良い。

勿論、これはそれ相応の努力で手に入れました。何の伝もない小さい商人の娘だった私にはそれこそ血の滲む様な努力です。故に私達は結婚相手にはより良い条件を求める資格と権利があるのです。


「うぅ……そんなことないよぉ。だって、リュウジは見掛けに依らず良い人だよ?ドジる私に前と全然対応変えないし、他の人みたいに下品じゃ無いし、ちょっと常識は無いけど頭はそれほど悪くないし、それに常に良い匂いがするし、身体エロいし」


え?誰の話をしてるんですか?恋は盲目とは言いますけど流石にこれは無いでしょう……。明らかに別人ですよ。美化し過ぎでしょう。情報、綺麗好きしか合ってないじゃないですか。盲目にも程がありますよ。

後身体がエロいって……。淑女的にどうなんですか、その表現。


「でも良かったぁ……」


私がティリーのフィルター越しのリュウジの人物像に面食らっていますと、当の本人から場違いな安堵の溜め息が聞こえてきました。


「え?」


思わず聞き返しますと、ティリーは胸を撫で下ろすのを止め、モジモジと指を弄りながら真っ赤な顔で恥ずかしそうに上目遣いでゴニョゴニョと文章にならない言葉を転がしました。


「いや、だって……。リズがもし、リュウジのことが好きだったらヤだ。リズとか可愛いし、胸おっきいし、勝てないし……。だから、安心したっていうか何ていうか……」


何この可愛い生物。このままお持ち帰りしたい。

涙目で上目遣いとか私を誘ってるんですか?どうなんですか?

いけない、このまま行くと禁断の扉を開いてしまいかねません。思考を逸らしましょう。

ティリー、自爆しましたね。その言葉、自分でリュウジが好きだと言っている様な物です。

全く、あんな男がこんな可愛い生物を弄べるなんて羨ま……。許せません。

こうなったら何としても邪魔せねば……。幸い、あの男がだらしないお陰で攻め口は幾らでも在ります。その中でも最大の物を……。


「あの男は止めておきなさい。大体あの男指輪してたじゃない。何?妾にでもなるつもり?」


リュウジ、貴方は嫌いですが今だけは褒めましょう。ナイス不潔。お陰でティリーを説得出来ます。

そう、リュウジの左手の薬指に嵌められて居た指輪。マジックアイテムの様でかなり値が張りそうな緋色の指輪だが、その場所に着けているということは結婚指輪、或いは婚約指輪だろう。

あの男は歴とした牝付きだ。


「うっ!いや、でも奥さん見たこと無いし……。ただの虫(男)除けということでワンチャン……」


「無い」


そんな都合の良いこと有る訳無いでしょう。どんな確率ですか。女の人なら分かりますが、男はそんなことしません。男は皆オオカミです。来る者は拒まず、去る者は許さずの精神で食いものにされますよ。どれだけの女がそれに引っ掛かって酷い目に遭ったことか……。


「ティリー、良く考えて。妾になったって良いことなんて無いわよ?愛してくれるのは最初だけ。数年もすれば飽きて放り出されちゃうんだから。側室にでもならない限り身分も補償されないし、訴え出ることも出来ない。泣き寝入りするしかないわ。後に残るのは嫁き遅れになったその身1つ。行き先は高級娼婦しか無いわ」


説得を聞いたティリーも私もブルリと身を震わす。世の中世知辛いのである。

不幸中の幸いなのは私達は読み書きが出来てそれなりの教養を持っている点。条件を選ばなければよっぽどのことが無い限り職に就くことが出来るだろう。橋の下で1日の糧を得るために私を買ってくださいと男に体を売る未来は来ない……筈。

いや、ほんっと過去の私に感謝。


「私はティリーの為に言っているの。お願い、分かって?」


私がティリーの肩を掴んで必死にお願いすれば、ティリーは分かってくれたのか不承不承頷いてくれました。


「……うん、なるべく努力する……」


少々頼りない返事だが、今はこれで良いです。見てろよリュウジ。いつかあの浮気野郎の尻尾を掴んでティリーに諦めさせます。絶対。

ストック切れました。

今後週2投稿は期待しないで下さい。

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