一話 メンドクサイ先輩
遅くなって申し訳ありません&説明不足過ぎて混乱させてしまい申し訳ありませんの舞い(/_;)/~~
聖レリア学園。国の首都から少し離れた所にあるこの学園は、のほほんとした校風で知られています。歴史を感じさせる厳かな校舎に、自然溢れる広大な敷地。そんな見た目とは裏腹に、地域の人からは「生徒よりも野良猫の方が多い」だとか、「猫の方がよっぽどアクティブ」だとか言われてます。
こんな風に平和な学園の一室では今、彫刻刀やハサミが宙を舞っています。
「あっ、ちょ、待っ……。うわあっ!?」
「待てー! この覗き不審者ー!」
「酷い誤解ですね!? と、取り合えず落ち着い……、てぇーっ!」
戦場です。この学園で、近年稀に見る戦場です。凄い敵意向けてきてます、彼女。あ、また懐から新しいハサミを召喚してるね。全力投擲だね、うん。なんか、刺すぞーってハサミが言ってるみたいだよ。
っていうか、そんな事してる場合じゃないよ! もう朝のHR始まってるよ! チェックメイトだよ!
何でこの人は授業に行かないんでしょうとか、何で机を返して下さらないのでしょうとか、そういうのは一旦封印しまして、僕は懸命に事態の収拾を着けようと頑張ります。
「あのー! 僕机と椅子を返してもらいに来たんですけどー!」
キャンバスを挟んで見つめ合う僕と先輩。普通なら感動的なシーンなのに、ああ、なんという事でしょう。一欠片も愛を感じられません。
「うるさい! この鬼畜痴漢後輩君め! 私のアトリエに忍び込んで、無事に帰った者はいないぞ!」
うわあ、むっちゃ悪役~。でも、この人にならむしろ罵られたいって男子は多いだろうなぁ。それぐらいきれいだって思うよ。
「~~ですから! 僕の机と椅子を返して欲しくば、この教室まで一人で来いって、手紙に、書いてたじゃないですか、っとぉっ!」
「……、う?」
……いや、う? じゃなくて。
「……あれ、書いたっけ?」
「書いてましたよね。さっきも僕の事、後輩君だとか言ってましたよね」
きれいな投球フォームで固まる彼女。
「じゃあ……」
スススと床を滑って接近してきました。器用な人だなぁ。
「君が、クオレ・L・空葉君か?」
「……はい、高等部二年のクオレです」
「そうか、君が…………」
何かすごい下から見てきます。てか顔! 顔近いよ! 甘い香りフワァンって!
「……んとに、………ぃんだな……」
「ははははい!? 僕何か変なことでも……!」
「……いや…………」
何事か呟いて、またスススと離れて行きます。何か、さっきまでとは違って、こう、キリッとした空気をまとったような……。恐いよー、もうやだよー。
「……なあ、クオレ君……、空葉君か?」
「あ、クオレ・Lが家系の苗字で、空葉が、僕の名前……です」
「そうか。なら、後輩君」
いや名前使わんのかいっ!! 今のやり取り要った!? 僕の名前、そんな変!? ……まあ、男っぽくないとは良く言われるけどね。
「なあ後輩君。君は、今何の講義を取っている?」
「……基本教科は普通に全教科、芸術選択は文学科で、魔法教科は、錬金術と獣操学、詠唱魔術科に……」
「あー、もう大丈夫。君が極度の優等生なのは分かった」
自分から聞いてきてそれは失礼じゃないデスカネ。
「取り合えず、芸術で文学科を取っていれば、それで良い」
「……? どういう…………」
僕が問いをもらすと、彼女はこちらを向いて、薄く微笑みました。……何しても絵になるなぁ。
「いや、それは今君が知らなくても良い事だ。こんな朝早くから呼び出して、すまなかったな」
悪かったっていう自覚あったんですね。
「君の机と椅子を持っていったのは私だ。返そう」
「あ、どうも」
いやどうもじゃないよ僕。この人に、朝からこんな大変な目にあわされたのに、何で普通にお礼言ってるんだよ。良い人か。
ズリズリと、奥から僕の机と椅子を引きずってくる先輩。まあ、何はともあれこれで僕の平穏な一日が返って来ます。やっとだよほんとにもう。
「早く戻らないと、サボリのレッテルを貼られるぞ、優等生君」
「誰のせいだと思ってるんですか」
何かもう、慣れっこになっちゃったこの人との会話を軽く流します。それはもう軽く、流し素麺のように。両脇に机と椅子を抱えて、なんとか扉を開けます。
「何でこんな事したのか知りませんけど、今度からはもうしないで下さいね」
学園一の有名人に、良く分かんない嫌がらせ(?)をされ、クラスの皆にも変な目で見られ、挙げ句の果てには授業にも遅れてしまいました。もーたくさん。もー結構です。私の非日常タンクは満タンです。私、実家に帰らせて頂きますっ!
「ああ、そうだ。後輩君」
「……何ですかまだ何かあるんですか」
というか、何で彼女は僕の事を「後輩君」と呼ぶのでしょう。
「今日の放課後、もう一度部室に来てくれないか?」
「嫌です」
おっと、つい本音が出ちゃった。
「そうか来てくれるか。なら、講義の後に、また一人でここに来てくれ」
人の話聞けや。
「嫌です。何で貴女は僕に関わろうとするんですか。僕にとって、いえ貴女にとっても、お互い知らない人間ですよ? 何がしたいんですか、貴女は」
さっきから少し本音が口からこぼれ始めています。……先輩に対して、キツすぎる言葉だったかな……。……あー、うん。謝ろう。何か分かんないけど、謝って終わりにしよう。ていうか、僕が悪いみたいになってるよ。すごく、混乱してきてます。ほんと、さんざんな朝だよ。
「……あの、先ぱ…………」
僕は、先輩に謝ろうと口を開きかけました。すると。
「それでも来なければならないな、後輩君」
僕のその先を遮るように、言葉を並べられました。……ん? 来なければならない? どういう、事でしょう。先輩が僕を呼んだのには、何か深いワケがある気がしてきました。
「どういう、事ですか」
「……君は私を知らないが、私の方はずっと君を見ていた、という事だ」
……。……え。見られてた? まさかかさまのホラー展開来ちゃった? んなアホな。じゃあ、何で先輩は僕を観察(?)していたんだろう? 考えを巡らせてみても、ピンとくる回答は思い浮かびません。
「私は、自分がここで周りの者に、何と呼ばれているかは知っている」
学園一の有名人、という呼称の事でしょうか。奇人呼ばわりされているというのに、何故この人は平然としていられるのでしょう。
「容姿、性格、行動……。確かに私の外聞は異常だと言われても、仕方の無い事だろう」
…………もう、僕には、彼女が何を言いたいのか、分かりません。
「だが、君だって上手く隠しているだけで、変人には違いないだろう? ……なあ、カレア君?」
「……………………は…………?」
僕には、それしか、言えませんでした。この人の、訳の分からない挑発とも取れるこの問いかけに、呆れ怒っている、のではありませんでした。その通りだから、でした。
「……何であんたがそれを知っているんですか」
「言葉端からボロが出ているぞ。乱暴な言動には注意した方が良い」
「……ッ…………!」
グッ、と、歯を噛み締めます。本当に、ずっと見ていたというのは嘘偽りでは無さそうです。
「何が目的ですか」
「そう警戒するな。別に危害など加えない。ただ……」
「ただ、何ですか」
「……ただ、君がもし来なければ、少し不味い事になるかもしれないな。もちろん君にとって、な?」
「脅しかけてるんですか…………!!」
僕の怒気を不敵な笑みでさらりと流して、先輩は更に畳み掛けてきます。
「なあ、来てくれるよな? 優等生君。まあ、私にとって君の本性が露見することは、なんの痛手でもない。言っても良いんだぞ?全校生徒の前で……」
「……学園一の奇人である貴女の言動に、耳を傾ける者が、果たして何人いるでしょうね」
せめてひと言。この人に、言い返したかった僕です。
「ふふ、随分強気にでたな。……まあ、まだ放課後まで時間はある。よくよく考えればいい」
僕の中での彼女の信用パーセントは、この数分間でガタガタと落ちました。それほど、彼女の言葉は僕に突き刺さりました。
踵を返し、つかつかと扉の方に向かいます。両脇に机と椅子を持って。背中側から見て、出来るだけ堂々としてるように歩きます。
「失礼します、先輩」
ただそれだけを返して、部屋から出ようとすると。先輩が一言ボソッと言いました。
「……私は、読心術の講義ではいつも最高評価だ」
ビシッ。僕の固まる音が聞こえました。……え、じゃあ何か? 今まで僕の心読み放題だったって事? 恥ずかしいなオイイィ!! じゃなくて、え、やば、全部思ってた事バレてる!?
「……一つだけ言わせてもらうなら……」
あー、僕の平穏無事な一日、いえ人生終了のお知らせですね、はい。
「この人だの先輩だの、将又彼女だのと……。混乱が手に取るように伝わってくるぞ。そうだな……」
「……セラ。私の名だ。セラと呼ぶことを、許そう」
「……は、はあ…………?」
「ふふ、そう固くなるな。恐らく、私達は随分長い付き合いになりそうだから、な?」
「……」
僕はもう何も言わず、今度こそ扉を開けてアトリエを出ました。
部室棟を、早足で歩きます。僕の頭の中は、先ほどのやりとりで一杯でした。なんか、うん。もう、僕が摂取するメンドクサイウム1年分を、イッキ飲みさせられた気分だよ。……とか、ふざけてる余裕も無いほど焦ってます。
(どうしよう……、どうすれば……!」
僕が焦るのも、無理はありません。自分がで言うことでもないけど。先ぱ……、セラさんが握っているらしい、僕の秘密。もし、クラスメイツ(複数形)にでも情報が渡れば! そんなこと、考えたくもありません。
「……隠し通さないと……!」
口に出して、自分に言い聞かせます。
「僕が………………」
「僕が、大の猫嫌いだって事だけは…………!!」
違うわド天然 ――by.現在進行形で心読んでるセラ先輩
――僕とセンパイの出会いは、こんな、今となっては何気ない、日常でした――――
次回からはちゃんと説明入れます。
次回もどうぞよしなに。