ぷろろーぐ
複数作品並行進行型作者。
のんびりしていって下さい。
平和である事は、時に静寂に繋がる。でも、僕の平和は、必ずしも退屈、とはならないようだ。
「……ねえ」
「どうかしましたか」
「……誰も、来ないわね」
「……来て欲しいんですか?」
「……やっぱり、二人で良いわ」
「そうですね」
「そこのワイン・レッド取って」
「その原稿資料取って下さい」
「「………………」」
「「……どうぞ」」
こんな部活です。気取ってみて恥かいたよ。
ある日普通に学校へ行くと、僕の机と椅子がきれいさっぱり無くなっていました。
……あれ。見間違いかな。コシコシと目を擦って見ました。やっぱりありませんでした。……これはあれかな。今巷で流行しちゃってる、「いじめ」というやつ? いや、それは無いか。時代の流れに全力で逆らってる、この平和な学園だよ? 昨日の一番のニュースは、茶道部の桃谷先輩が猫の大群に襲われてた、って事しかないぐらい平和だもん。いつも通りのモモちゃん先輩ですね。それに、クラスメイトも皆優しいし、いじめなんていうのじゃないよ。そんなのはさいていだよね、うん。
……うん、分かんない。教室の真ん中で突っ立ってる僕を、皆がアワアワした顔で見てる。何だろうね。僕を見られたって困るよ。何か、面倒くさそうな予感がします。
……あ、机があったところに何か落ちてる。手紙だ。もしかして、僕の机達を持っていった人が書いたのかも。僕の机が壊れてて、直すために持って行ってくれたのかもしれない。親切心かな? 意外と良い人なのかもしれないね。読んでみよう。
「机と椅子を返して欲しければ、一人で部活棟の第4部室までこい」
僕の期待を返せよ。めっちゃキョウハクしてきてますよ、この人。何が平和な学校じゃい。
持っていた荷物を、隣の席の芝さんに預けて、僕は部活棟をてくてくと歩いています。朝のHRまでに返して貰わないと、とばっちりを受けるのは僕なのです。急がねば急がねば。
入り組んだ校舎を、地図片手に進みます。もう二年生とはいえ、僕は部活に入っていません。部室が集まるこの校舎には縁が無いのです。
しかも、よりにもよって、あの第4部室って……。
いえいえ、僕は強い子なのです。どんな怖い人が出てきたって、負けたりしません。
色んな部活が朝練をしています。ワイワイガヤガヤと喧騒が聞こえてきます。叫び声や爆発音が聞こえるのは……、ご愛嬌ですね。
もうしばらく歩くと、部活棟の端の方に来ました。ここには、文化部の中でも危険な部活とか、世界を揺るがすジッケンをしてる部活(部員談)とか、何か関わっちゃダメなような部活の部室があるらしいです。
心なしか、薄暗くなった気がします。朝なのに。僕の平穏な一日、気を確かに持てー。頑張って進みます。ついに、目的の場所にたどり着きました。ちょっと立ち止まって入り口を見ます。
「この先私有地につき、関係者以外立ち入り禁止」
「許可無く侵入した場合は 」
いや怖いわ。入った、とかじゃなくて侵入て。その後ろ絵の具で塗りつぶされてるし。何? 無断で入ったら僕どうなるの? いや僕は関係者に入るのか。ていうか僕いつの間にこんな人に目を付けられてたの? 文字見たら分かる、ヤバイ人です。
……やっぱり噂通り。この第4部室は、とある人のアトリエらしい。絵の道具かな? ドアの回りにはごちゃごちゃと物が置いてあるね。噂通りなら、この部屋は女の人が一人で使ってるはずだけど……。
決心しました、僕は。はい。こんな所で足踏みしていては、僕の机と椅子は返ってきません。平和な日々はただ今僕から全力逃走中です。おそるおそる、観音開きの扉にすがり付き、開きます。
「失礼します……、机と椅子を、返してもらい、に…………」
瞬間。息を、飲んだ。
外からでは分からなかった、大きな部屋だった。両開きの窓は開け放たれ、純白のカーテンが風に揺れていた。壁の至るところに絵が飾られていた。でも、僕の声を奪ったのは、そんな物じゃなかった。
部屋の中程に、大きなキャンバス。その隣に、一人の女性が佇んでいた。
太陽の光が差し込んできて、その人の姿に影を落とす。すっと上げたその顔を見た瞬間、全てが白い光に包まれた。
整っている、そんな陳腐な言葉では語り尽くせない。壮絶なまでに、美しかった。澄んだ海色の目が、真っ白な舞台を見つめていた。
不意に、女性がこちらを見た。まるで、僕がいることに今気が付いたかのように。体ごと正面を向いて、僕と相対する。
静かに息を吸う音がする。口を、開いた。
「…………誰? 郵便屋さん? 今日配達の日だっけ?」
麗しい彼女は、そう言いました。
…………。
僕は、真面目なお顔をしてそうおっしゃった彼女を無視して、ニコッ、と微笑みました。
僕は、満面の笑みのまま彼女を見、そして空いている窓の外を見ました。
学園一の有名人である彼女の頭には、可愛らしい子猫の耳が付いていて。
今日もお空では元気にドラゴンが飛んでいました。
……え。この人、自分が僕を呼びつけた事、忘れてるんですけど……。
……………………何これえ。
りーんごーんがーんごーん。
平穏な一日が、逃げていく音を聞きました。
こんな日常(?)です。
このお話もどうぞお楽しみに~。