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ワンライ投稿作品

ロスト・ワールド・アドベンチャー

作者: yokosa

第122回フリーワンライ

お題:

逃がさないよ

不穏なキスで熱を高めて


フリーワンライ企画概要

http://privatter.net/p/271257

#深夜の真剣文字書き60分一本勝負

 チュンッ――


 ホリィの背にした土壁が弾け飛び、土埃が舞う。折しも向こう側を伺おうとしていた頭を慌てて引っ込めた。続けて二発、三発と壁越しに嬉しくない衝撃が伝わる。

 ホリィは亀のように身を竦めると、横目で相棒を睨み付けた。

「今度は何やらかしたのさ」

「ひっど、何その言い草。この世の出来事は全部アタシが元凶なわけ?」

 相棒はさも心外そうに口をへの字に曲げた。彼女の半径二、三メートル以内に降りかかる厄介ごとは、だいたいにおいてその中心地に因果関係を求めることが出来るのだが。ホリィは経験的にそれを知っていた。

「ちょこっと食べ物を恵んでもらおうとこっそり入ったら、うっかりこの辺り一帯を締めるチンピラの巣窟だっただけで」

 ほら見ろ。ホリィはつけない溜息の代わりに、大げさに肩を落とした。埃に咳き込む相棒と違って、ホリィは呼吸を必要としなかった。土塊を浴びた金属の肌も、乾いた布で拭けば新品同様に輝くだろう。

「で、どうするのさ。アカネ」

 アカネと呼ばれた少女は、ホリィとは対照的に、日干しレンガの鉛に対する対弾性についてあまり頓着してないようだった。ホリィに水を向けられるまで、栗色の髪を気にしているそぶりすらあった。

「どうもこうも、アンタあの脳みその代わりに馬糞とヤニが詰まってそうなチンピラと、いつもの文化的な交渉がしたいって言うの?」

「じゃあどうするのさ」

「んー、そうね……」

 ステロタイプな思考ポーズで頭を巡らせたアカネは、一渡り部屋――打ち捨てられたかつての住民の住居――を見回した後、ホリィの顔で視線を止めた。正確にはホリィの顔の、人間で言う口の辺りを見て。

「やっぱこれっきゃないわね」

 ニコリと一言。この窮地に相応しくない笑顔は、ホリィの無機物で出来た体にも悪寒を走らせた。

「な、何を――」

 思わず後ずさりするが、すでに角に陣取っていたホリィはほとんどその場を動けなかった。

 逃がさない、と不穏当に囁きながらアカネがにじり寄る。

 アカネはやおらホリィの顎を掴むと、そのまま口付けをした。彼女の息が切れるまでたっぷり十秒ほど唇を押しつけた。

「はー、おもしろ。いつまで経ってもうぶなんだから」

 と、口を離して親父のようなことをのたまう。

 ホリィはというと、キスされたままの体勢でブルブル震えている。我慢の限界か――いや、小刻みな振動がその体を変化させていた。間接から蒸気が立ち上り、熱量が急激に増大していく……


 *


 ホリィは人間ではない。その名も本当の名前ではない。

 この世界は数百年前に一度滅び、生き残った人々が文明の残滓と、かろうじて繋ぎ止めた知識で細々と暮らしている。

 そんな中、時折「遺跡」と呼ばれる不可侵地帯で、失われた旧世界のテクノロジーである「遺産」が発見されることがあった。

 アカネは「遺跡」を専門にした盗掘を生業とするトレジャーハンターで、ホリィは彼女の発見した、極めて珍しい完動する「遺産」だった。

 誰がなんの目的で造ったのか。ホリィは今では考えられないほど高度な技術の結晶だったが、その本来の性能とデータの大部分にはプロテクトがかけられていた。

 そして開発者の嗜好なのか、高い知識と思考力を持ちながら、この汚れきった世界では考えられないほど純粋無垢な性格をしていた。

 例えば、キスをされただけで、我を忘れてプロテクトを一時的に緩めて暴走してしまうほどに。


 *


 縦横無尽に飛び跳ねていたホリィが、膝を折って着地した。同時、戦闘に特化して変形していた足――馬や犬の後ろ脚のような飛節が出来て機動力を高めていた――が元に戻る。

「……ちょーっとやりすぎちゃったかな、これ」

 アカネは“惨状”を見渡して言った。

 点在する住居の壁はことごとくぶち抜かれ、そこかしこに襲ってきた男たちが倒れ伏している。

「アタシ抱えて逃げるだけで良かったんだけど……ねえ、聞いてる? ホリィ――ホリィ……ちゃん……? えーと、ホリィさん……?」

 片膝を立ててうずくまるようにしていたホリィが、

「きゅう」

 と鳴き声のような声を上げて横向きに倒れた。急激に力を解放した反動で目を回したらしい。触れるとまだ熱を帯びていた。


「え、嘘!? ちょっと! アンタも倒れてどうすんの! 誰が片付けんのよこれ!

 起きろ! バカホリィ!」



『ロスト・ワールド・アドベンチャー』了

 なろうの皆様お久しぶりです。いや別に誰も待ってはいないか。

 ここ数回ほど番号が飛んでますが、ちゃんとやってました。Twitter上で1ツイート作品として。がっつり書くのがめんどくさ――もとい、超短文作品で文章の取捨選択を磨くために。ええ。

 なんか今回のお題はどうにもピンと来なくていつもみたいな捻りが思い浮かばず、だったらいっそストレートにエンタメしてみようかと。イメージは九十年代のガイナックスアニメ。外見の描写をもっとやりたかったけど時間がないので割愛。各自好きに想像していただければ。

 どうでもいい裏設定として、ホリィはメカなんで性別はないけど人格は女の子です。あと戦闘モードで変形して飛節が出来てるんですが、飛節のことを英語でホック/hockと言うそうです。そんでHollyhockで花のタチアオイを意味します。アカネとアオイというわけ。まあどうでもいいんですが。

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