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西の魔女が飛んだ  作者: 七次元事変
3/4

2.

 最初の魔法使いと呼ばれる青年がいた。彼は光の魔法使いで、周りを暖かな光で満たすことができた。

 先の混乱で疲弊していた世界は、貧困地域に(エネルギー)を送ることができなくなっていた。彼はその場しのぎだとわかってはいながらも、暖かな光で植物を、人を癒して回った。

 癒しの光は豊富な栄養を、豊富な栄養は植物を生み、植物は食料を生んだ。彼に癒された人々はしばらく病気をしなかった。彼は当然感謝されたが、それを面白く思わない者もいた。

 戦争を商売にしているものたちや、現代の奴隷商人。一番東の半島。平和だと困る者、歪んだ者たちだった。


 当然彼らの発言力若しくは声は無駄に大きく、世界の厄介の仕事お疲れ様、やめていいんだよ? と言いたいところではあるが、言っても止めてくれるはずがない。

 じきに彼は悪者にされた。様々なメディアによる一方的なバッシング。

 その過程は当然裏から見た話だ。一般人はテロ組織の支援をしているとされた者に味方などしない。

 魔法世代――かの大量死事件よりあとの世代――が世界に疎まれ始めたのは、そこからだった。


 彼の活動は次第に妨害され始め――ある日。

 ホテルへの襲撃。彼の生存は絶望的かと思われたが、逆に生存したのは彼一人であった。圧倒的な力、おおよそ科学では到達できそうのないその頂は、批判を呼びもしたが、権力者にとって、排除よりも利用させようと思わせるほどだった。

 そして魔法は、暴力装置になった。






「飛ぶのなんて誰だって出来るんだ! どうでもいいじゃないか! 君の優秀な魔法をこんなところで燻らせるだなんて勿体無い!」


 彼はいきなりそんな事を言い始めた。


「君が戦闘について本気で考えればきっとこの学校でトップ、いや、日本、きっと全世界でトップになれる。そして魔法世代の自治にまた一歩近づく。いいことしかないんだぞ!」

 さあ! と私の手を取って教室の外に連れ出そうとする筒方君。私は無理やり歩かされて少しよろめいた。


「筒方君、女の子の扱いが分かってないんだね。幾ら強い魔法使いがモテるからって、そんなのでは精々ちょろい娘の一晩の相手が辛うじて務まるだけだよ」


 そう言って手を振り払うと、魔導航空部の先輩たちは爆笑した。筒方君の顔がみるみるうちに紅潮していく。してやったぜ。


「――っ!! 黙って聞いていれば散々言ってくれて! だったら魔導戦で決めようじゃないか! 魔導戦闘部と魔導航空部で! 良いですよね、先輩!」


 彼がそう言ってずれると、彼の後ろの人の全身が見え始めた。


「――ああ、いいよ。やはり学年トップ、魔力ポテンシャルAランクという戦力は、戦闘部にいるべき、とまでは言わないけどうちの部に欲しいからね」


 眼鏡をクイっと上げながらその人は語った。そんなにずれやすいのか。

金城(かなしろ)! また来たか学年()()トップ魔法使い!」


 驚愕する波翅先輩。でもそれも一瞬で、互いに凄く睨んでいる。

「そんな目で見るなよ三位君、怖いじゃないか、とにかく……」

「お前が言うな、去年も引き抜きに来たよなお前! 今年はやらんぞ! 今年はうちの部も鍛えたからな! 本業と違うことさせやがって……」


「「全員表に出ろ!」」

 息ピッタリじゃん、あんたら。



 私達は渋々グラウンドに出た。グラウンドに半透明の直方体のフィールドが形成されていた。

「あれは見たことがないかもしれないけど、戦闘用柔式封鎖結界だ。高速でぶつかっても柔らかいクッションになってくれる。まあレスリングのロープ? みたいなものだ」


 波翅先輩の解説に金城先輩が付け足した。


「君たちみたいな空飛ぶのに命を懸けてる変な人達にはぴったりの安全装置だよ。一応安全じゃないと魔導戦なんて許可が下りないからね」


 魔法で空を飛ぶのが好きな人ってそういう認識なんだ……でも魔法をえっちぃお絵描きとかフィギュア作りに使ってる人よりはマシ……なのかな? どれも立派な技術だと思うんだけどな。

 よく見れば魔導戦闘部の人らしき人々がここよーし、あそこよーしと結界装置のチェックを行っている。


「気づいたかい? 凄いだろう。この勝負の段取りは全てこちらが取り仕切っているんだ。生徒達の自治が許されていて、実際にうまく回っている。真面目に活動してくれれば君の精神的成長を約束も出来る。いい部活だろう?」


「ふーん、そうなんですかー」

「興味なさそうだな羽箒さん、この僕と一緒に切磋琢磨していくチャンスだというのに」

「興味ないしね」

「魔法使いは戦えないと生きていけないことを知らない訳じゃないよな?」

「うん、知ってるよ。そう言われてるね」

「だったら――」


「せっかくの魔法で戦うなんて馬鹿馬鹿しいことなんだよ」


 言葉は返ってこなかった。


 魔導戦が始まる。

「ライフカウンターが0になったら死亡判定です! 全員死亡するか時間切れしたとき残り人数が少ない方、人数が同じときは被ダメージが少ない方の勝ちとします!」


 人数は魔導航空部5人対魔導戦闘部5人だ。

「基本はマンマークで行こう。羽箒さんは戦い慣れしてるかわからないから、とりあえず一年生の筒方君を相手してもらおう。引きつけておいてくれれば大丈夫だ。飛べるよね? ――え、飛べるんだ、そうだね。じゃあ話は早い。僕たちは浮いてて被弾しにくいから適当に飛んでて良いと思うよ。他のみんなは作戦通りにいこう」

「「「「はいっ」」」」

 飛べなかったらどうするつもりだったんだ、と思う火姫であった。


「試合開始ッ!」

 掛け声の瞬間、戦闘部は攻撃魔術の詠唱、チャージを開始して、航空部は飛行魔術のセットアップを始めた。

 最初の一撃は大魔法を使うのがセオリーである。距離が遠いし、詠唱も同タイミングで始められるからだ。

「おー皆流石に詠唱が速い。だけど――」


 そこだけはこれに敵わない。


「『箒の魔女(ノンブルーム)』ッ!」


 瞬間、火姫以外の全員は風圧に砂埃を警戒して顔を覆った。

「なんだ!?」

 火姫が爆発する。いや、砂埃が舞っただけだ。しかし突然発動されたありえないタイミングでの魔法に筒方は詠唱中の魔法を中断して周囲に注意を払った。払ってしまった。


 正直火姫のポテンシャルだけは誰も知らない。魔導航空部のおおよその使用魔法、魔力量は魔導戦闘部にほとんど筒抜けであり、逆もまたそうだ。筒方のポテンシャルは事前に話しているので魔導戦闘部が知っている。


 だが火姫の使用魔法や魔力量は魔導戦闘部が知らないのは当然のこと、魔導航空部も知らない。

 従って――様子を伺うために、火姫以外の全員の魔術発動は遅れる。詠唱を終えた筒方以外の戦闘部の面々は後出しでの相性劣勢などを恐れて魔法発動3ステップ中の真ん中、効果の数的イメージをわざと遅く行っていた。筒方は単純に困惑でイメージが遅れた。

 魔導航空部は飛行魔法のセットアップだけは完了している。だが何もしない。誤射を恐れているからだ。

 

 よって――その間に長い詠唱ができる。


「悠久なる刻、悠久なる地を経て紅炎なる我が祖の友よ、我の全て身にその残滓を宿し――」


 火姫の大魔法の使用に気付いた魔導戦闘部は詠唱からやり直し、力学的防御の魔法を発動する。


「硬質なる壁よ、我を包み守り――」


 だが遅い。


「皆々燃やせ、『不死鳥の火粉』ッ!」


 火姫の全身に赤々とした炎が灯り、その赤橙色の髪がたなびく。同時に羽があるようにも見えるその炎は羽ばたき、炎に包まれた火姫は筒方に向かって低空を突撃する。


 必中のタイミングでの突撃。だが、筒方の魔法は防御ではなく――射撃。


「――『魔力弾(マギブレット)』! 炎に包まれているからといって魔力弾が通らない道理などない!」


 火姫の前方の四方に放たれた弾丸は逃げ場を奪うかのように迫る。

 その間にも他の8人は戦闘を始めていた。魔力弾を基本として戦う戦闘部、飛び回って魔力弾を避ける航空部。

 どちらもマンマークでの戦法を選んだようである。タイマンで倒せば文句ないだろ、とでも言いたいのだろうか。


 だがしかしそもそも戦闘部が航空部に魔導戦を挑むというのがおかしいと思わなくもないが、魔導士は戦えてなんぼである。少なくともそのような風潮が、世の中には確かに存在しているのだった。

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