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北欧貴族と猛禽妻の雪国狩り暮らし  作者: 江本マシメサ
追加話

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ルカ・サロネン・エスコラの活動報告 中編

 五年目

 あいつの一族は仕草などで感情を表すらしい。

 領主も多くは理解していないと言った。

 よく、意志の疎通が出来ない異国人と同居が出来るなと、感心してしまう。


 奴とはたまに、森で出会うことがあった。何も持っていない時は、仕方がないから兎とかの小型の獲物を渡すようにしている。

 別に、あいつの為に渡している訳ではない。小型の獲物の解体は面倒だからだ。

 少しだけ目を細めてから、口元を緩ませる顔が笑顔だと気付いたのは最近の話。


 なんだよ、笑えるんじゃんかよ。


 ◇◆◇


 モテない領主が結婚をして、村も徐々に変わりつつある。

 噂の嫁の姿は見ていない。よく領主と一緒に狩りに行ったりしているらしいが、目にする機会はなかった。

 それよりも気になるのは、村の若い娘達は新しく村に来た赤毛の男に夢中だということ。

 なんでも、土産屋に女達は集まって、そいつとのお喋りを楽しんでいるらしい。

 偶然、土産屋の前を通りかかった時に窓から中を覗いたら、異様な盛り上がりを見せていた。

 集まっている女の年齢層の厚さにも驚く。三歳児から、上は五十代のおばさんまで。


 五十代のおばさんは自分の母親だった。……いや、なにやってんだと聞きに行きたい。


 噂の色男とやらを見てみたが、別にたいしたことはない。

 腰回りなんか女みたいに細いし、筋肉もあまりないように思える。あんな体で家族を養える訳がない。

 皆、都会の男だからちやほやしているのだろう。顔だって大したことはなかった。


 幸いにも、女達の中にあいつは居ない。


 黒髪黒目の女は他に居ないから、一目でわかった。

 それが分かった瞬間に、この女達の集会についてどうでもよくなってしまう。


 そのまま狩りに向かった。


 夜、父は母に昼間からどこに行っていたんだと聞かれていた。

 母は笑顔で土産屋に居る男前に会いに行ったと言っていた。


 隠す気はないんかい。


 親父は微妙な顔をしていたが、咎めることはしなかった。

 異国出身の母に平伏して結婚を申し込んだらしいので、力関係は昔からはっきりしていた。


 両親を見ているとなんだかな、と毎回思ってしまう。


 ◇◆◇


 翌日。

 狩りに出かけようと家を出れば、あいつが少し前を歩いていた。

 大きな籠を持っているので、買い物に来たのだろう。


 声でも掛けてやるかと近づけば、俺よりも先に誰かが声を掛ける。

 その人物は、昨日土産屋で見た赤髪の男だった。

 あいつが持っていた籠を持ち、すぐ傍を並んで歩いている。


 一瞬で顔が熱くなった。

 それが、怒りによるものだと分かったのは二人の姿が見えなくなってからだ。

 行動も気に食わないが、民族衣装の着こなしも気に食わない。

 普通は腰丈の長さなのに、赤髪は膝丈のものを纏っていた。伝統的な衣装を着崩すなんて、軽薄な奴だと思ってしまう。


 違う部分でもイラついていた。

 あいつは、普段から男に興味無いみたいな顔をしていたのに。

 いつも、俺が荷物を持つと言っても首を傾げるだけなのに。

 よく知りもしない男を頼ったりしているので、余計に腹が立つ。


 その日は雑念が混じっていたからか、兎の一羽ですら狩ることが出来なかった。


 手ぶらで帰れば、城塞の中であいつと鉢合せしてしまう。

 どうして会いたくない日に限って会ってしまうのか。


 なるべく視界に入れないようにしてから、横を通り過ぎた。


 その後、数日程むしゃくしゃとしていた。

 狩りに出かけていれば、またあの赤髪の男が他の女にもちょっかいを掛けていたので、いい機会だと思って声を掛けた。


「おい!」と威勢良く声を掛けたのは良かったが、相手の返事を聞いて驚愕することになる。


 赤髪の男の声は、男にしては高かった。

 女の声にしたら低い部類になるが、男の声ではない。


 一応、念のために性別を確認する。……やっぱり、女だった。


 紛らわしい!!


 しかも、赤髪は領主の嫁だった。だから、あいつと親しげにしていたのかと合点がいく。


 誤解も解ければ、途端にどうでも良くなった。

 一応、あいつにも謝ろうかと思ったが、別にちょっとだけ無視をしただけだからいいかと思った。


 六年目

 村は相変わらず平和そのもの。

 大きな変化といえば、城塞の軍人達と親しくなったことだろうか。

 話をしてみれば、なかなか面白い奴ばかりであった。

 城塞に出来た食堂も都会の料理が出たりして面白いので、たまに通っている。

 そこで、軍人達と食卓を囲んでいれば、思いがけないことが話題に上がった。

 それは、あいつの話だった。

 異国の娘でこの辺には居ない珍しい容姿をしているが、良く見たら悪くないと。

 それに、良い体つきをしていると言っていた。


 あいつは村の民族衣装を纏っていない。

 異国の服装で居た。

 冬は毛皮の外套などを纏っていて、村人と格好は変わらないが、夏になればその違いは一目瞭然である。

 村の女達は、首元から足元まで露出は一切無いが、あいつの服装は何と言えばいいのか、そう、かなり開放的だ。

 胸元はがっつり見えるし、腹も出している。スカートは膝丈で、脚も丸見えだ。

 都会の女でも、あんな格好はしていないと言う。


 だが、軍人達はあいつの親父が怖いので手が出せないと言っていた。

 確かに、それは言えている。

 更に、言葉も通じないし、安易に交際をしたい相手ではないと。


 話題は次々と変わっていく。女の話であることには変わらないが。


 軍人達の中で密かに人気だった女が異国人に掻っ攫われたらしい。

 誰だと聞けば、ベルグホルムのじーさんの孫娘だった。

 名前はアイナと言っていたか。

 軍人達は悔しがっていたが、あれも相当気の強い部類の女だ。嫁にするのはご免だと思ってしまう。


 結婚適齢期の男達は女に飢えていた。

 早く結婚をしたいと。


 結婚については何も言われていない。

 うちは兄貴が結婚をしているから、そこまでうるさくないのだ。

 子供が一人しか居ない家はいろいろ大変なのだろう。


 今の俺にはどうでもいい問題であった。


 七年目

 最近、あいつは女と絡んでいる。

 相手は異国から帰って来ていたベルグホルムのじーさんの孫娘だ。

 一年半ほど異国で暮らして、連れ去った男と一緒に帰って来たのだ。

 二人して楽しそうにしている姿を何度か見かける。

 そういえば、今まで女と絡んでいるところなんて見たことがなかったことに気付く。

 あいつも、年頃の娘らしい情緒を学んでいるということなのだろうか。


 まあ、俺には関係ないことだが。


 八年目

 親父から、もう十九にもなるのだから、そろそろ結婚をしろと言われる。

 村の女だと子供ができにくいから、港で魚でも売りながら嫁探しをして来いと言われた。

 冗談では無いと、父親の命令を無視する。


 母にキノコ狩りに頼まれてキノコ狩りに行った帰り、あいつに出会う。


 びっくりしたこともあって、巨人女だとか、男を引っ掛ける為に出歩いているとか、暴言の限りを尽くしてしまった。

 そんなこと、今は全然思いもしていないのに。


 多分、こいつが村の民族衣装を着ていたのが大きな原因の一つだろう。

 いつもより、可愛く見えた。

 暴言を吐いてから、激しく後悔をする。


 もう、こいつにかかわるのは今日限りで止めようと思った。

 会えば酷いことばかり言ってしまう。

 全く素直になれなかった。


 相手の反応はない。俯いたまま動かなくなってしまった。


 沈黙に耐えきれなくて、肩を掴んで話を聞いているのかと迫ってしまった。

 目が合ってから、気まずい思いをする。

 どうして、堪える力と学習能力がないのか。


 そんな俺を見て、あいつは声を上げた。

 大きな声だったので、ビクリと肩を震わせてしまう。

 っていうか、声を聞いたのは初めてであった。

 見た目に似合わず、結構可愛い。……いや、今の問題はそうじゃなくて。

 何にびっくりしていたのかと思えば、あいつはこの国の言葉で、俺に背が高くなったと言った。


 確かに俺はいつの背を追い抜かしていた。

 子供の頃はこいつの背を抜かすことばかり考えていたのに、最近はどうでもよくなっていたからか、すっかり忘れていた。


 それにしても、いつの間に喋れるように……。


 いつも絡んでいる女、ベルグホルムの孫娘から言葉を習っていたのだろうか?


 ということは、さっきの暴言も全て通じていたということになる。

 額に汗がぶわっと浮かんできた。


 早くここから立ち去ろうと思って後ずさる。

 だが、あいつは俺に覚えたばかりの拙い言葉で話しかけて来るのだ。


 どうして絡むかだって!? そんなの決まっているじゃないか!!


 頭の中でははっきりと答えが出ていたのに、口に出すことは出来なかった。

 適当に誤魔化して逃げてしまった。


 翌日から、あいつは面白がって俺に話しかけて来る。

 まさか、立場が逆転するとは思わなかった。


 今日も、あいつの間違った言葉を正すことから始める。

 めちゃくちゃな言葉遣いをするので、突っ込みは尽きなかった。


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