夏といったらベリー摘み!
夏が盛りを迎えると、森はベリーが旬を迎える。
皆、指先を赤く染めながらベリーを摘んでいくのだ。
これまでは手摘みで行っていたが、家族が増えたこともあり、ベリー摘み機を導入してみた。
ベリー摘み機というのは先端に熊手のような物があり、それにベリーを受け止める箱が付いた代物である。
これで木々の隙間を梳くように動かすと、ベリーの実だけが採れるというわけだ。
ただ、未熟な実も一緒に摘んでしまうので、帰ったあと選別をしなければならない。
それでも、ベリー摘み機を使うとたくさん採れるので、ありがたい限りだった。
今日は一人で森の奥まで入り、ベリーを摘んでいく。
辺り一帯、たわわなベリーが実っていた。
帰ってすぐに加工したいので、さくさく摘んでいく。
ひと掬いしただけで、手のひらいっぱいのベリーを摘むことができる。
「わあ、すごいなあ!!」
一人しかいないのにわざと大きな声をあげるのは、獣避けという目的がある。
また、領民に獲物と勘違いされないための用心でもあった。
俺の代ではないものの、たまに誤って人を撃ってしまう、という事件が発生していたのだ。
前回起こったのは百年以上も前で、そのさいに今の民族衣装に変わったと聞いている。
華やかな青に染められた服は森に存在しない色合いで、獲物と間違わないような対策でもあるのだ。
ベリー摘みは集中しすぎると、命の危機に脅かされる。
そのため、子どもや女性陣は二人一組で行くことが推奨されていた。
今朝、母が俺一人で行くことを心配していたが、幼い子どもじゃないんだから、と思ってしまう。
最終的に猟犬を連れていくからと言って、単独でやってきたのだ。
「よし、こんなものかな!」
かごいっぱいにベリーが採れた。付き合ってくれた犬には、ご褒美用の干し肉を与える。 家に戻ると、外で洗濯物を干していた母に帰宅を知らせた。
「リッちゃん、おかえりなさい! ケガはなかった?」
「この通り、元気だよ」
「よかった」
続けて、家にいるジークとアルノーに声をかける。
「ジーク、アルノー、ただいま!」
「リツ、おかえりなさい」
ジークは無言で俺の体を触り、ケガなどないか調べている。
ケガをしても隠すと思われているらしく、信用がないのだ。
「よし、どこも変化はないようだな」
「おかげさまで」
立って歩けるようになったアルノーは目が離せないらしく、よちよち歩きながらやってきた。
両手をあげて抱っこをせがむので、高い高いしてあげる。
きゃっきゃと喜ぶ顔を見ていたら、疲れも吹き飛んだ。
「これからベリーを加工するんだけれど、ジークも一緒にやろうよ」
「アルノーはどうする?」
「母さんに任せておこう」
そろそろ交代の時間だと言っていたので、アルノーは預けておくことにした。
家の裏にある簡易台所で、ジークと並んでベリーを加工する。
ます、井戸水でベリーを洗った。
未熟なものや虫食いのあるものはぷかぷか浮くので取り除く。
捨てるのではなく、森に放って動物たちに食べてもらったり、自然の摂理に倣って土に返したり、しておくのだ。
さらに目で見て明らかに熟し切っていないのも避けておく。
「というわけで、下ごしらえが終わったので、ベリージュースを作ります!」
アルノーも大好きなベリージュースは、辺境暮らしに欠かせない。
たくさん作って、冬の生活にも備えておくのだ。
作り方は実にシンプル。
鍋に水を張ったものにベリーと砂糖を入れてぐつぐつ煮込む。
途中でレモンの絞り汁を入れるのも忘れずに。
火が通ったら、マッシャーでベリーをしっかり潰していくのだ。
くたくたになるまで煮込んだら、火を止めてモスリン布で濾していく。
澄んだ色合いのベリージュースが完成した。
「リツはベリージュース作りが上手いな。私が作ると、少し濁った色合いになって」
「レモン汁を入れるタイミングの違いかな? 俺は沸騰しかけたタイミングで入れるんだ」
「なるほど、今度試してみよう」
できたてのベリージュースを、薄めてアルノーに味見させるという。
そんなジークを見送ったあと、俺は次なるベリーを加工する。
それは、熟す寸前の酸味があるベリーだ。
これを瓶に入れて、ジークが好きな蒸留酒を注いでいく。
しばらく置いたら、ベリーの酒漬けが完成するのだ。
まだアルノーは完全に乳離れしていないので楽しめないだろうが、これが完成する頃合いには乳離れもしていることだろう。
「ジーク、喜んでくれるかな?」
なんて呟いて、独り言を言う癖ができてしまっていることに気付く。
森以外では完全に不審者となるので気をつけよう。
そんなことを考えつつ、ベリーを加工したのだった。