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北欧貴族と猛禽妻の雪国狩り暮らし  作者: 江本マシメサ
三章『北欧貴族と猛禽妻の辺境の村、大改造計画!?』

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続・養蜂家になろう

 父の研究書にあった、蜂に刺されないためのポイントを復習する。

 まず、服装はなるべく目立たない色のものを纏う。

 これに関しては大いに無視していた。森の中へは、青と赤の布地を使った民族衣装で分け入っていたのだ。

 次に、蜂の前で慌てないこと。蜂の出す合図に目を向けること。

 服に止まったからといって、すぐに刺すわけではない。蜂も、向かってくる存在がどういう者なのか調査をしているらしい。

 これに関しては難しいなと思う。だが、可能な限り、慌てないようにしたい。


 先日蜂に刺された話を、ジークが母にもしたらしい。


「リッちゃん、お母さん、蜂よけを作ってみたの」

「おお!」


 それはつばの広い帽子を囲むように、細かく編んだ網が付けられたものだった。

 小さな穴なので、蜂が顔面に近づけないような構造になっている。


「これ、すごいね」

「服も、厚い生地で白い物を作ったから、着て行ってね」

「ありがとう」


 今まで服を重ね着しているだけだったが、一気に防御力が上がったような気がする。

 これで、蜂が近づいて来ても冷静で居られると思われる。


 気合を入れて母の作ってくれた防護服を着こんだ。玄関で外出用の靴を履いていれば、ジークとアルノーが見送りに来てくれた。


「リツ、分かっているとは思うが、十分に気を付けてくれ」

「了解です」


 アルノーも力強い応援の眼差しを向けているような気がした。額に軽く唇を寄せ、出来るだけ早く帰って来るからね、と声を掛ける。

 ジークの頬にもキスをしてから出掛けることに。


「行ってらっしゃい」

「行ってきます」


 まだ完全に雪が解けていない春の森を進む。

 今回の目的は、蜂を捕まえることだ。

 蜂の巣の女王は一年に一回生まれる。

 前の年の女王は、働き蜂の半数を引き連れて巣を出るのだ。

 そのご一行を捕まえるという訳である。


 森の中を注意深く進んで行く。

 途中で、ウロウロと飛び回る蜂を見つけたので、あとを追ってみた。

 巣別れをした蜂は、次なる移住地を調査しているらしい。なので、あとを追えば、蜂の集団、分封蜂球に辿りつく可能性があった。


 根気強くあとを追った結果、木にぶら下がった分封蜂球を発見!

 幸い、巣代わりの木箱を設置した場所に近いので、持って来ることにする。


 ゆっくりと近づき、分封蜂球の下に蜜をたっぷり塗った木箱を置く。


 蜂達が巣箱に気付き、入ってくれたら成功だ。

 これが上手くいかなかったら、分封蜂球を網で捕まえるという手段を取る。

 蜂球になっている蜜蜂は大人しいらしいが、直接の捕獲は緊張してしまう。

 どうか、設置した箱に定住してくれますようにと、お願いすることになった。


 森の中で薬草や香草を摘んでから帰宅。

 玄関の扉を開けば、ジークが走って出迎えに来てくれた。


「ただいま」

「おかえりなさい」


 息つく間もなく、ジークは蜂に刺されなかったかと聞いてきた。

 本日はこの通り、母の防護服もあったし、前よりは落ち着いて行動出来たので、刺されることもなかった。


 そういう風に言えば、ジークはホッとしたような顔を見せてくれた。


「そうか。無事なら、良かった」

「……うん」

「どうかしたのか?」

「いや、なんだか、嬉しくって」


 今まで新しいことを始める時は毎回探り探りで、怪我をしたり、危ない目に遭ったりすることもあった。

 成果が出なくて凹み、一人暗い部屋に帰って、擦り傷の手当てをしたり、裂けた服を縫ったりという行動を寂しくしていたのだ。


 それが普通だった。でも今は違う。


 心配してくれたり、助言をくれたり、応援してくれたりする家族が居る。

 とても嬉しいことだと思った。


 これからも、家族のために頑張ろうと気合を入れ直す。


 翌日。

 ドキドキしながら森に向かった。分封蜂球があった木を目指して歩く。


 ――見つけた!


 遠くから見れば、蜂球は無くなっていた。

 分封蜂球は同じ場所に待機をしているわけではない。二日ほど経ったら、別の場所へ飛んで行ってしまうのだ。

 なので、無かったからといって期待してはいけない。


 ゆっくりと、巣箱の中に近づいて、箱の中をそっと覗き込んだ。


「……!」


 思わず声を上げそうになったが、寸前で呑み込んだ。


 すごいことが起きていた! 箱に中に、蜂が居た!


 嬉しくって落ち着きがなくなってしまう。


 そのまま走って家に帰り、ジークと母に報告をした。


「努力の成果が出たな。すごいことだ」

「ありがとう」


 こうして成果があったと言えるのは嬉しいものだ。

 ジークに褒めてもらえたので、頬が緩んでしまう。


 今回のことは、養蜂への第一歩でしかなかったが、それでも喜びが溢れて止まらなかった。

 俄然、やる気が漲ってくる。


 後日、箱をいくつか増やし、分封蜂球の下に設置して捕獲するという作業を繰り返した。

 六つ程作って、蜂が入ってくれたのは三つ。

 網で捕獲をしようと森の中を探したが、巣別れの時期が終わって蜂球を見つけることが出来なかった。


 とりあえず、今年は三つの巣箱で養蜂を始めることになる。


 春は女王蜂の産卵の季節と、採蜜の時期。

 自分が出来ることは多くない。


 働き蜂が蜜を集めてくれるのを待つばかりだった。


 ◇◇◇


 春になればいろいろと始めなければならない。

 白樺の蜜採りに、森の薬草・香草摘み。

 トナカイの森の柵の補修に、乳絞り、耳印付けなど、やることが山のようにある。


『紅蓮の鷲亭』の営業時間の短縮と定休日を増やさせてもらった。


 村人に会うたびに「今日は開いていないのか」とがっかりされることもしばしば。


 申し訳なかったが、このように店の存在を望まれるのは嬉しいことだと思った。

 出来るだけ店を開きたい気持ちはあったが、忙しくってどうにもならない状態であった。


 真剣に、手伝ってくれる人を探さなければと考える。


 そうこうしているうちに、嬉しい知らせが届いた。

 アイナとエメリヒが近日中に帰って来るというのだ。

 村を離れること一年と半年。

 ベルグホルム家はすっかり平和になっている。

 お爺さんが具合を悪くしていることは心配だけど、食欲はあるようだし、その分アイナのお母さんが頑張っている。

 食料については可能な限り提供しようとしたけど、貯蓄がかなりあるので大丈夫だと言ってお断りされた。


 今まで、アイナのお爺さんが獲った獲物などを売って、お金を貯めていたらしい。

 しばらく心配はいらないと言っている。


 もしも困った時は頼ってくれと伝えておいた。


 今までベルグホルム家を見守ってきたが、驚くべきことはアイナの母の強かさだろう。

 大切な娘を手放す勇気、家族の面倒を一身に受けようとする気概、明るく元気に生活を送る精神力。

 そのすべてが賞賛すべきことだと思った。


 彼女の頑張りが、ベルグホルム家を変えた。


 早くアイナとエメリヒが帰って来て、支え合ってくれたらいいなと考える。


 そして、我が家にもささやかな変化が。


 一週間に一度か二度、家族みんなのお休みを入れるようになった。

 休みの日は何もしない。これが決まりだ。料理や家事、犬の世話などはランゴ家の人々がしてくれる。


 休日は野歩きに行ったり、港町に買い物に行ったり、アルノーと遊んだりして過ごす。


 でも、まだ『休暇を過ごす』ということに慣れていなくって、うっかり薪割りなんかをしていたら、母やジークに怒られてしまうことが何度かあった。


 働いてはいけないということは難しいと言えば、ジークに笑われてしまった。


「リツは趣味というものがないのか?」

「ジークやアルノーと遊ぶこと、とか?」

「それは家族サービスだ。趣味ではない」

「そ、そんな!」


 趣味というのは、自分だけの楽しみらしい。


「リツが好きなことをして過ごすんだ」

「好きなこと……」

「何かあるだろう?」

「アルノーを眺めたり、一緒に散歩したり、ジークとお話したり、触ったり、キスをしたり」

「……それも、家族サービスだ」


 家族と触れ合っている瞬間が一番癒されるのだ。


 だから、趣味:家族サービス、でいいなと思った。


 そんなわけで、今から趣味の時間とする。


 アルノーは母と散歩に出かけていた。

 なので、ジークをもふもふすることにする。


 彼女の肩をそっと抱き、頭を撫で、首筋に頬をぴったりとくっつける。

 ジークの肌はすべすべしていて気持ちがいい。

 髪の毛もサラサラしていて、触り心地が良かった。


「リツ、それでいいのか?」

「うん、幸せ!」


 これぞ、至福の時間なのだ。


12月4日に二巻の発売日を迎えました。

無事に本屋に並ぶことが出来たのも、読者様の応援のお蔭です。ありがとうございました。

また、これからも『北欧貴族と猛禽妻の雪国狩り暮らし』をよろしくお願いいたします。

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