挿話『辺境ハロウィン!』
買い物から帰って来た母とジークを見て、驚くことになった。
大量のカボチャを抱えていたからだ。
「一体どうしたの、それ?」
「ハロウィンのお祝いをしようと思って~」
「は、はろうぃん?」
なにそれ、と聞けば、母は生き生きとした様子で語り出す。
旅行中に異国でやっていた祭りの一つだと。
しかしながら、母はハロウィンという催し(?)について、あまり詳しくないようだった。
話をまとめると……
・カボチャでお化けの彫り物を作る。
・仮装して「お菓子をくれなきゃ悪戯する」と脅す。
・夜はカボチャ料理でパーティを開く。
記憶があいまいになっているようで、かなり適当な感じがした。
きっと、本当の祭りは神聖な何かがあるのかもしれない。
でも、面白そうだと思った。
良いところ取りをして、村全体のお祭りに出来ないかな、と考える。
だって、お菓子が貰える行事なんて、子供にとっては楽しいではないか。
村人も、子供が遊びに来てくれたら嬉しいだろう。
開催は一週間後と少しだけ急だけど、急いで企画を立てて、なんとかお願いをして回ることにした。
◇◇◇
とりあえず、適当に『辺境ハロウィン』と名付けてみた。
協力をしてくれる家には、当日、玄関先にカボチャを置いて貰うようにした。
子供達はちょっとした仮装をして、お菓子を貰いにカボチャの家を巡る。
お菓子を貰ったら、その家のお手伝いをして、帰るのだ。
村の家を回って協力をお願いをした。
子供達が絡んだ行事なので、受け入れてくれる家が多かった。
一応、アールトネン隊長にも声を掛けておいた。
心優しい隊長さんは、当日、窓口にカボチャを置いて子供達を待っていると言ってくれた。
土産屋のおかみさんは懐かしいと言ってハロウィンを喜んでくれた。
そこで、詳しいハロウィンの話を聞くことになる。
ハロウィンとは秋の実りを祝い、悪いものを追い出すというものらしい。
国や地域によって様々な歴史と解釈があり、行うことも多岐に渡ると言う。
たいていは、仮装をしてお菓子が貰える楽しい祭りとして認識されているとか。
宗教色の濃いものでもあるが、気にしている者はほとんど居ないとおかみさんは話す。
「まあ、楽しんだ者勝ちみたいなところはあるんじゃないかねえ」
「なるほど!」
まあ、元々は母の適当発言から始まったことなので、この村なりのハロウィンを楽しむことにした。
土産屋ではお菓子作りの材料を買って帰る。
ハロウィンは明日に迫っていた。
色々準備で忙しくしていたので、お菓子作りは後回しになっていたのだ。
母やジークもせっせと作っていたが、折角なので自分も何か作ることにした。
勿論、作るのはカボチャのお菓子!
簡単なスコーンを作ることにした。
まずはカボチャを切り分け、柔らかくなるまで煮てから潰す。
本当は皮を剥いた方が舌触りとかはいいんだけど、カボチャの皮は栄養満点なのでそのまま一緒に混ぜてしまった。
カボチャの中に温めた牛乳を入れて、しっかりと練る。
ボウルの中に小麦粉とふくらし粉、砂糖を入れてかき立て、湯煎で溶かしたバターと滑らかになったカボチャを入れて混ぜた。
生地がまとまって来たら、粉を振った板の上で捏ねる。
木の棒で伸ばし、畳んでからまた伸ばす、というのを何度か繰り返した。
粉を振った細いカップを生地に押し付けて、丸い型を取る。それを、油の敷いた鉄板に並べて、最後に炒ったカボチャの種を生地の上に置いていく。
二十分ほど焼いたら完成。生地は綺麗に膨らんだようだ。
しばらく放置して、粗熱を取ってから味見をしてみることに。
さっくりほろほろとした食感のスコーンは、カボチャ本来の甘味を楽しむことが出来る。
炒った種も香ばしくて美味しい。
ジークや母にも味見をして貰ったが、おおむね好評であった。
母とジークはチョコとナッツ入りのクッキーを作っていたようだ。
一枚貰ったが、とても美味しかった。
三人でお菓子を紙に包む作業を終えたら、明日の準備は万端となる。
「そう! リッちゃんとリンデちゃんにハロウィンのお服を作ったの!」
「え?」
仮装するのは子供達だけでしょう? と聞こうとしたが、母は軽やかな足取りで部屋から飛び出して行ってしまった。
嫌な予感しかしない。
戻って来た母は、嬉しそうに作った服を見せてくれた。
「リンデちゃんには、これ!」
ジークに用意してくれたのは、フード付きの真っ黒い魔女の外套。
意外と簡単な仮装だったので、ジークはお礼を言いながら、ホッとするような顔で受け取っていた。
「リッちゃんは、これ!」
「……」
自分のは服ではなかった。猫の三角耳のようなものがついた、カチューシャが手渡される。
「か、母さん、これは?」
「猫さんのお耳。……ごめんね、リッちゃんの分のお服を作る暇がなかったの」
「……いや、いいけど、俺は仮装しなくてもいいんじゃないの?」
「でも、黒猫夫婦ってテーマがあったから」
「黒猫夫婦?」
その時になって、ジークと共にハッとすることになった。
彼女の魔女の外套のフードには、猫耳が付いていた。
「ジ、ジークの、猫耳!!」
「可愛いと思うのよ~」
「す、すごく、可愛いと、思う!!」
さすが母上!!
ジークに猫耳を合わせるなんて、天才だと思った。
いいね、ハロウィン。最高だね!!
「暇があったら、尻尾も作っておくね」
「おお、尻尾!!」
「リッちゃんのだけど」
「いや、俺の尻尾はいいよ……」
今晩はよく眠って下さいと、お願いすることになった。
揺り籠の中ですうすうと眠る息子の顔を覗き込む。
アルノーは大きくなったらいろいろと可愛い怪物の扮装をして欲しいなと思った。
◇◇◇
ハロウィン当日。
早速、魔女猫ジークを覗きに行った。
化粧台の前に座っていたジークは、魔女の外套を着ていたものの、フードは被っていなかった。
そっと、背後に回って被せてみる。
「おお、美人猫!」
「……」
鏡越しで鋭い視線を向けられてしまった。
でも、似合うからいいじゃない?
「リツの猫耳は?」
「あれ、付けなきゃ駄目なのかな?」
「付けた方が良い」
おっさん猫耳って、誰得……。
でも、ジーク一人だけ仮装させるのも気の毒なので、自分も猫耳を被ることにした。
「そういえば、ハロウィンの言葉があったよね!?」
「お菓子をくれなきゃ、悪戯する?」
それそれ!!
ちょっとジークに言って貰いたかったから、聞けて嬉しい!!
「ねえジーク、もう一回言ってみて」
「……お菓子をくれなきゃ、悪戯するぞ」
「ええ~~、困ったなあ、お菓子、持っていないんだよねえ~~」
どうそ、悪戯して下さいと、両手を広げた。
ジークは呆れた表情で見ている。
「……そういう歓迎するような体勢で、悪戯を受け入れようとする人を初めて見た」
「そうかな?」
念の為に、打撃系以外でお願いしますと言った。
仕方がないという表情で、ジークが近づいて来る。
肩に腕を回して、頬にキスをしてくれた。
悪戯最高!!
◇◇◇
我が家にも可愛らしい怪物さん達がたくさんやって来た。
お菓子を渡せと脅されたが、目的の品物を渡せば大人しくなってお手伝いをしますと言ってくれる。
乾燥キノコを袋詰めして貰ったり、庭の手入れを手伝ってくれたり、犬と遊んでくれたりと、いろいろ頑張ってくれた。
お菓子係をジークと母に任せて、村の様子を見に行く。
驚いたことに、協力してくれた家はたくさんあった。
城塞のアールトネン隊長も、子供がやって来て癒されたと話す。
最後に、テオポロン家に行きついた。
彼の家にも、カボチャが置いてあった。
なんとなく、身振り手振りでハロウィンの説明をしていたが、きちんと通じていたんだなあと嬉しくなる。
扉を叩けば、テオポロンが出てきた。
手にはお菓子の籠を持っている。
「あ、テオポロン、子供じゃなくて、ごめん」
だが、テオポロンはじっとこちらを見下ろすばかりであった。
もしかして、アレを言ったらお菓子をくれると言うのか。
「お、お菓子をくれなきゃ、悪戯するよ~?」
テオポロンはニヒルな笑みを浮かべてから、籠の中のお菓子をくれた。
「わ、わあ、嬉しい~~……」
そして、テオポロンの家でミルポロンが割った薪を片付けるというお手伝いをしてから帰ることになった。
広場に居た子供達は、テオポロンの家に行くのが楽しかったと話していた。
一体、どんなことがあったのか。
内緒だと言われてしまった。
後日、買い物から帰る途中に子供達の楽し気な声がすると思って覗き込んだら、テオポロンが子供を高い高いしている様子が見えた。周囲の子供達は、次は自分だと、嬉しそうにしている。
ハロウィンの日のテオポロンの謎が解明した。
突発的な催し物ではあったが、村人からの評判も上々であった。
また、来年も出来たらいいなと思った。




