次元規制令
-Two dimensions culture-
兼ねてより増加の一途を辿っていた二次元愛好家人口が、二十一世紀後期、ついに世界人口の一割を超過。
それに伴い、二次嫁・二次婿による独身者の増加、三次元に帰って来れなくなった遭難者、各々が神と崇拝する対象の違いによる宗教戦争、現実世界への失望や若い世代の三次元離れ、他業種を脅かす市場の拡大など、様々な社会問題が浮き彫りとなり、特に先進国に措いては最大の社会問題に発展していた。
そして、あらゆる弊害に悩まされる各国の首脳陣と国際安全保障理事会は本格的な政治対策に乗り出した。
――次元規制令。
二次元文化の大部分を規制するこの悪法は、日本、欧米諸国、ヨーロッパ圏に始まり、瞬く間に世界中で施行され、数年のうちに世界共通の法として確立した。
施行に伴い、各地で激しい抗争・テロ・ストライキが行われ、特に先行して施行された主要30カ国では愛好家からの抵抗が激しく、第三次世界大戦の契機にさえなりかねなかった。
一連の紛争は、第三次世界小戦(三次元とかけたことに由来する)などと呼ばれ、その後、同禁止令及びその執行機関は先行して行なわれた忌むべき数字と反〝萌え〟制度という性質から30wという通称を持つこととなる。
30wの完全施行後、二次元愛好家は無条件で犯罪者として扱われ、自らを信者と呼称し、また、一般的には感染者と呼ばれ、一方的な迫害、弾圧の対象となった。
過去、キリスト教徒に対する日本のバテレン追放令から禁教令に渡る歴史に非常に酷似しており、なぞらえるように世界中で信者差別の風潮は激しさを増す一方であった。
特にアニメの原画やセル、ポスターなどの踏み絵は効果が絶大であり、年間に複数回行われる「隠れ信者狩り」に用いられ、これを拒んだものは例外なく逮捕・処罰の対象とされた。
経済的打撃も凄まじく、すでに世界情勢に大きく関わる二次元産業の一斉禁止は、各国にかつてないほどのダメージを与え、こと二次元産業に措いて最先進国であり、世界市場シェアの半数近くを握っていた日本に措いては、30w施行に伴い一時は失業者が30%を超え、GNPが大幅に下がるなど、壊滅的なダメージを受けた。
国際的に見ると、その失われた経済需要は30wの施行産業へと変換され、施行後数年の後に世界経済は安定したかに見えた。
しかし、その後もレジスタンス化した各国の現地ビリーバーと執行機関との対立は激しく、水面下での抗争は後を絶たない。
そして、もっとも抗争が激しく、様々な情勢が錯綜し、混沌に包まれる地域があった。
その都市の名前は――。