明日考えよ・・・
「おわった・・・」
何がって?それはですね、私がず~~~っと守ってきた平穏がです。私は今、見慣れた自室の天井を約2時間ひたすら見つめています。いつも一緒に帰る弟は、先ほど慌てて帰ってきて、今は私の部屋の前で泣いています。鍵をかけたので入ってこれないのでしょう。彼の言葉からするとおそらく、今日のことは中等部には広まってはいないみたいです。彼は、私が勝手に帰宅したことと、引きこもっていることにただただ嘆いているのです。
「なにがあったのですか?未海姉様?お返事してください」
「お嬢様?」
美鈴まで加わってしまった・・・。分かっています。いきなりタクシー捕まえて、学校から無言無表情で帰ってきて、部屋に閉じこもれば、学校に置き去りにされたシスコンの弟と運転手さんは、青ざめるし、ひどい態度で帰ってきた私を迎え入れたメイドさんたちもまた戸惑うのは当たり前です。悪いのは私です。・・・そろそろ出なきゃ・・・
「やっほー、未海~」
「ミュートンさん?」
「ミュートン様!?」
どうやら、親友のアリアまで来てくれたみたいですね・・・。扉の向こうでいきなり登場したアリアにウミと美鈴が驚いています。アリアは基本的に家への出入りは自由なのです。
ガチャリ・・・
「ウミ、美鈴、アリア・・・ごめん」
謝ると、三人はもちろん、そこにいた皆がホッとしたようにニコリと微笑みました。・・・が。 美鈴は突然、バッと立ち上がるとパチンと指を鳴らしました。控えていたメイドさんたちがブラシや鏡などを持ち出てきました。
「お嬢様、失礼します」
ガシリ、と腕を掴まれ部屋へUターンさせられます。お着替えタイムですね、ハイ。
「まだ制服でいたのね、未海。じゃあ、リビングで待ってるわ」
なぜか、真紅のドレスを着てばっちりメイクになっているアリアは、メイドさんたちと共に私の部屋に入ろうとしたウミの襟首を掴んでリビングへ向かいました。
「ミュ、ミュートンさんっ!!??」
「ウミ君、相変わらず、重度のシスコンね。そんなんじゃ彼女できないわよ~」
「・・・」
シフォンの花柄のワンピースに着替えさせられた私は、アリアとウミがいるリビングに向かいます。アリアとウミは優雅に紅茶を飲んでいます。見た目だけ・・・会話は全然優雅ではありません・・・
「だ~から~、彼女できないよ、そんなんじゃ」
「未海姉様がいれば、恋人なんてものいりません」
「そーゆーの、マジきも~いって皆に言われるよ~」
「世界中誰になんと言われようとも未海姉様が嫌いにならないでいてくれれば構いません」
「うわ~・・・あ、未海!おそ~い」
うん、ごめん、ウミ・・・ちょっとお姉ちゃんも引いちゃったよ・・・と会話を呆然と聞いていると、アリアが私に気付き、座るように言いました。
「・・・なんでアリア、そんな恰好しているの?」
「ん?あぁ、これ?今夜、パパの方のグランパとグランマが来日するのよ、で、外食~」
「あ~なるほど・・・」
「で!今日のことなんだけど・・・」
キタ―。やっぱり、夢じゃないっすよね・・・
「あら~、アリアちゃん、いらっしゃい」
「未海ママ!お邪魔しています」
「うふふ、あら、アリアちゃん、そのドレスうちの新作ね♪」
「そうなんです~。超可愛くて、つい買っちゃった!」
本題に入る前にまさかの母様の登場です。お母様はアリアの性格をとても気に入っています。アリアもまた、お母様の性格はもちろん、お母様が手掛けるブランド・Riaをとても気に入っているので、仲がすこぶるよろしいです。
「あ、未海、おめでう、あの常盤様に直々に任命されるなんてすごいわ」
「じきじき?にんめい?」
きゃあああああああああああああああああああああああああああ。いま、私の全身が凍りつきました。予想外のタイミングに私の準備はまだできていなかったのに・・・しかもなんで、お母様がそのことを!?ウミが不思議そうに首を傾げお母様が強調した部分を繰り返します。
「あら~?海が知らないなんて、珍しいわね。蝶々になるのよ、未海は」
「・・・」
シスコン・ウミは完全に思考回路が遮断されフリーズしました。隣にてフリーズしていた私は、母の一声によって完全に復帰しました。パニック状態ですが・・・
「お母様!?なぜそれを!?」
「なぜって・・・さっき常盤様から電話が来たのよ、素敵な方ね、貫君♡」
「・・・魔王」
完全に外堀から埋めやがりましたね・・・魔王様。これじゃきっと、お父様にまで及んでそう・・・。で、ですが、私にだって事情が・・・。でも言えません。大事な家族に心配だけは絶対させたくありません。
~♪~♪~
「…Allô?…Oui.…Oui. Salut」
悶々としているとアリアの携帯が鳴りました。なんとなく、私達3人は、アリアを見守ります。フランス語を使っているあたり、例のおじいちゃんたちでしょうか。とりあえずはい、はい、と頷き、最終的には、またね、と簡潔に電話を終わらせるとふーと盛大に息を吐きました。
「空港まで迎えに来いってさ~。もう行かなきゃ~。未海、あの人達なら大丈夫だと思うよ。箝口令も出て、効果も抜群!ほら、ウミ君が知らなかったんだよ!中等部まで漏れてないってこと!だからちゃんと明日、来てね」
「・・・」
「未海・・・もしかして、あの時の・・」
「やーだ、お母様!何言っているの?問題ないから!」
アリアの言葉には思わずしかめっ面をしてしまいましたが、お母様が向けた言葉には思わず、笑い飛ばすことでごまかそうとしました。あ~やっぱりわざとらしかったかしら。お母様は、疑念や心配を拭い切れた様子ではないですね・・・。ウミまで心配そうな眼差しを向けてきます。
「あの、奥様、そろそろ・・・」
「あら!もうこんな時間!・・・ごめんなさい、未海、海。今日、フランスに行かなきゃいけないの・・・」
「知っています。昨日から仰っていたでしょう?私は大丈夫ですから」
美鈴が時計を指しながら、お母様に話しかけてきました。どうやらフライトぎりぎりみたいです。まだ不安をぬぐえないのでしょう、心配そうに私を見ますが、大丈夫!を全力の笑顔で連発して送り出しました。ちなみに、アリアと同じ行き先なのでお母様は一緒に行きました。
「だからね、違うの。私はもう大丈夫・・・ただ、明日は行かないけど」
「未海姉様!それは、大丈夫ではないではないですか!」
「・・・いいから!今日は、部屋に勝手に入らないでね!嫌いになるよ?」
お母様が出発した後も、弟のウミが心配していろいろとツッコんできました。あの時のことは、もう誰にも、家族にも思い出してほしくないのに・・・食い下がるウミに私は、無理やり話を中断させ、効果抜群の「嫌いになるよ」という言葉を残し、部屋に戻ります。案の定、ショックの余り、ウミはフリーズし、最終的に泣き崩れました。私はというと、しばらく悶々としていましたが、お風呂に入り、夕食を済ますとなんだかどっと眠気が襲ってきたので、いつもより早く就寝することにしました。
「ふぁぁ。まあ、とりあえず明日は自主休日だし、これからのことは明日考えよ・・・」
朝には、この計画がいとも簡単に、パアになることも知らずに、私は明りを消して眠りにつきました。
今回は、極花メンバーの登場なしになってしましました・・・^^;