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聖花学園の蝶々  作者: 月宮蛍
出会い編
6/27

明日から不登校になりますッ

「絶対無理です!!!」

 「桃矢、アレ、印刷して」

 「りょーかい」

抜けていった魂は思ったよりも早く体内に戻ってきました。10回目の私の拒絶も見事にスルーされました。魔王様こと常盤貫様は、ウィーンと音を立てて稼働したプリンターの前で腕組みをして何かが印刷されるのを待っていたかと思うと、出てきた用紙を眺め、うん、と頷きこちらに戻ってきました。


「ここにサインして」


 常盤様がペンとその用紙をこちらに向けて差し出しました。その用紙には契約書と書かれています。内容は、蝶々として極花と協力しこの学園の運営の仕事に携わることを誓え、みたいなことがつらつらと丁寧な言葉で書かれています。ぜーったい嫌なんだから!!


「・・・」

「未海、はやく」


 常盤様、もはや自重していません。最初は、美波さんだったのに!しかも敬語から命令口調!目を合わせたら催眠術にもかかるんじゃないかってくらいの鋭い目つきなので目を合わせられません。なので、親友のアリアに助けを求めました。


「ありあ~」

「未海、あきらめた方がいいわ、平穏だけが全てじゃないわ」

「全てなんですぅぅぅ」


 アリアはというと私が常盤様のことを魔王様と呼んだ時点では真っ青になっていましたが、そのお詫びに蝶々になれという命令を聞いた瞬間にいつものアリアに戻り、いや、むしろ極花側についてしまいました。


「未海が天下の常盤貫様のことを魔王と呼んだときは、さすがの私も、未海はこの社会から抹殺されるもんだと思って、焦ったけど、蝶々になれば許してくれるなんて、優しいじゃない」

「いやいやアリア、あなた・・・「未海、早く書いてくれないかな?いいかげんにしないと・・・」


 なかなか言うことを聞かない私に常盤様は、はぁと大きく息をついて、背もたれに両手を広げるようにかけ、足を大きく組んで意地悪そうに言った。ちなみに、私と魔王様の攻防戦に飽きたらしいキラキラ様こと弓川様は、女の子を口説きに、いえ極花の広報の仕事の一環があると言い、VIPルームを出ていき、桜野様も「はやくサインした方がいいよ」というアドバイスを残し、そのまま寝入ってしまいました。夏野様は、相変わらずPCと睨めっこしたりこちらの様子を楽しそうにみていたりしています。


「い、いい加減にしないと・・・なんでしょうか・・・?」

「目立つことが嫌いなんだよね?だからせっかく蝶々任命式をなしにしてあげようかと思ってたんだけど、10秒以内に書かないと俺の姉以上のことやってあげる♪ いくよ、10~、9~・・・」


 常盤様のお姉さまが蝶々になった時の任命式は式というより、東京ガールズコレクション?いや、パリコレ?みたいなファッションショーでした。ぜったいむり!!あんなことはもちろん、それ以上なんて!!


「5~、4~」


サラサラサラ~ シュッ


「はい、ありがとう」

「・・・(泣)」


 今度こそ本当に魂の抜けた私は、昼休み終了のチャイムが鳴る瞬間まで、高そうなテーブルに突っ伏していました。一方、アリアは出された餡蜜を美味しそうに食べつづけ、常盤様も満足そうに私のサインを見つめ、学園側に提出するためにコピーすると言ってコピー機に向かいました。


キーンコーンカーンコーン・・・


 私がどんなに辛かろうと、時間は無情にも過ぎていきます。この後、どうやって生きていけばいいのでしょうか・・・


「契約は明日からだからね、未海、午後の授業、行っておいで」

「未海ちゃん、せいぜい楽しんで、最後の平和」

「・・・ぅぅ、もはや私の平和は貴方達によって崩壊しました」


 そして・・・そして私は、アリアに引きずられながら、教室まで戻ってきたわけですが・・・。視線が痛いです。5時間目の生物も今まで以上に身が入りません。ごめんなさい、先生。授業開始と共に教室に飛び込んだこともあり、皆さんにいろいろとツッコまれるということは保留になりましたが・・・この授業が終わった瞬間に、おそらく私は囲まれ、問いただされることでしょう・・・なんて言えばいいのでしょうか!?「何があったのかって?なんかねー、興味本位で呼び出されてね、思わず常盤様のこと魔王様って呼んじゃって、そしたらねー、それを許してもらう代わりに蝶々になったの♡」こんなこと言えるか―泣


 こんなことをエンドレスで考えていると授業時間が残り5分となりました。早い人はペンを筆箱にしまい始めています。うぅぅ。どうしようどうしよう。お腹痛いですと言って取りあえず、今日はもう帰ろうか・・・ちらりと先生の方をみると、先生は黒板に背を向けていて、逆にクラスの皆さんと視線が合いました。あぁぁぁぁ、逃がすものかと目が語っています。・・・に、逃げれない・・・。


キーンコンカ―ンコーン・・・


「「「ありがとうございました!っ美波さん!!」」」

「・・・ひぃ」


とりあえず、奇跡を信じて授業中に、少しずつ鞄に教科書を入れ、チャイムと同時に神業と言っても過言ではない速さでペンケースから生物の教科書、ノートを詰め込み、廊下に駆け寄りましたが・・・。生物の先生、御年65歳、でも見た目80以上のおじいちゃんがショック死しちゃうんじゃないですか!?という勢いで皆さんに囲まれました。


「美波さん、どういうことですの?」

「VIPルームに招待された理由は!?」

「いつのまに極花の皆様と!?」


 ほらキタ―、と言わんばかりの質問攻めです。私の心は雨模様ですが、私を取り囲む皆様の勢いがすごすぎて涙が引いてしまいました。何か言おうにも言葉が出てきませんが、答える隙が無いほどの質問攻めなので、始終、私は、苦笑いです。


 「もう、みんな、それくらいにしてあげないよ」

「「「ミュートンさんは黙っていてください!!」」」

 「・・・あらら」

 

アリアの助け舟も今回ばかりは通用しません。本当にどうしようかな、気絶したふりでもしようかしら・・・なんてことを考えていたその時でした。


ガラッ


私の背後にある扉が開きました。私を囲み、質問攻めをしていた皆さんが、目を開き固まりました。


「未海」


 最近、本当に最近、というかここ1時間前くらいに聞きなれた声が私を呼びました。そしていつの間にか後ろから肩を抱き寄せられました。いまだ、背後は振り向けません・・・恐怖で!!


「みなさん、今日は勘弁してあげて下さい。彼女のことは、明日、包み隠さずに発表させていただきます」


はい、さすが魔王様です。このクラスでかなりの発言力を持つアリアさえ成し遂げなかったことを一言で、いや、もはや存在だけでやらかしました・・・コクリとゆっくりと縦に頷きました。


「それではみなさん、ごきげんよう」


常盤様は、とても爽やかな笑顔で皆さんに言うと、私を引きずるような形で退出していきました。・・・は!こんな実況中継をしている暇はありませんでした!!


「ま、まお、いえ!常盤様!多少納得できない言動がありましたが、助けて下さりありがとうございます!それから申し訳ないのですが、私、本日とっても忙しいので、帰らなければなりません、では!!!」


 体中のエネルギーを出し切って硬直していた体を無理やり動かし、常盤様から離れ、ほぼ直角に頭を下げ、「明日発表する」とか抱き寄せたこと以外に感謝を早口で述べて、ダッシュで校門を目指そうと駆け出しました。


「未海!ストップ」


曲がり角の直前でそう、命令されました。常盤様の声は、大きすぎなく、透き通っていて、全力ダッシュ中でさらに動揺しまくっている私の耳にもちゃんと届いて、足の動きを止めさせました。まるで、魔力です・・


「常盤様じゃなくて、貫ってよんでよ、あと、明日ちゃんと学校に来ること」


私は、思わず彼の言葉に頷きそうになりました・・・が、負けませんでした。


「私は、明日から不登校になりますッ――――――――――」


そう、告げて私は、全力で走り去りました。

 


お気に入り登録、ありがとうございます(^^)

とても励みになります。


今回は、魔王様率が高めでした。

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