なにやら嫌な予感がします・・・
『み・う・ね・え・さ・ま!!GOOD MORNINGでえええっす!!今日も一段とカワイイ!!大好きです!!世界で一番愛してます!』
・・・ピピピと鳴るはずの目覚まし時計からなぜ、弟の海の声が聞こえるのでしょう。だいたいは想像がつきます。3歳年下の若干シスコン気味の弟が夜中に勝手に部屋に入り、目覚まし時計を取り換えたのでしょう。・・・まったく。
バッチ―ン
2回目の再生の直前に止めてやりました。
「・・・むぅ。ウミめ、5分早い」
「姉様!!起きられましたか??」
予定よりも5分早い目覚まし時計の設定を恨めしそうにみていると、犯人のウミが再びノックもなしに部屋にやってきました。黒髪黒目で色白、儚げな印象を持たせる美少年が私の弟・ウミです。病弱だった幼少期に彼の世話を手伝っていたおかげかとても懐いてくれました。ちょっとウザいくらい・・・
「起きれたわよ、見ての通り・・・てか、ウミ、貴方、また勝手に部屋に入ってきて目覚まし時計変えて何がしたいのよ」
「ご、ごめんなさい、姉様。少しでも僕のこと想っていただけたらと思いまして・・・」
「・・・。わかったわもういいわよ」
彼の愚行にあきれながら言うと、うるうると私が座っているベッドの下で跪きながら上目づかいでみてきます。・・・かわいい。我が弟ながらかわいすぎる。なので、許してあげました。撫でてあげると、犬みたいに喜んでくれます。そんなこんなしていると、使用人がやってきました。30代の美人でベテランメイドさん、倉持美鈴は、ちゃんとノックして入ってきてくれました。手には私の学校の制服を持っています。
「お嬢様、御仕度をそろそろ」
「あ、美鈴、おはよう」
「おはようございます。さて、海様はお戻りください」
「え、あ、ええええええ」
美鈴がてきぱきと準備をしながら、これから着替える私のためにウミを連行するように後から来たメイドさんご一行に指示しました。基本的に不器用な私のためにお化粧などは美鈴がやってくれます。私の肩まである黒髪を丁寧に梳かし、メイクを施すと鏡の中の私は黒髪ストレートの幼さの残る日本美人さんになります。悩みの童顔です。
「さすが、美鈴だわ」
「あら、ただ髪を梳き、ナチュラルメイクをしただけですわ。未海様はもともと美人ですのよ。さて、ご朝食を召し上がってください」
優しい美鈴は、いつもそんなことを言ってくれます。そして私を食卓へ促しました。リビングに着くと、両親と弟がすでにいました。
「おはようございます。お父様、お母様、ウミ」
「おはようマイ・スウィートフェアリー♪」
「おはよう、未海」
「姉様♡ 今日も一段と可愛らしい!!」
このように家族の挨拶をかわすと、食事にありつきます。今日の朝食のフルーツシリアルもとてもおいしいです。
「今日の会議はやだなぁ。先方が気難しい人なんだ」
「あら、大変、あなた、大丈夫?」
「父上なら大丈夫ですよ」
「そうよ、お父様なら」
父は、業界の皇帝と言われていますが、実際はかなり内気です。なので朝食時は、仕事に対し憂いをおびているので母が心配し、私たち子どもがひたすら勇気づけます。そんなこんなで朝を過ごすと、私も出発の時間です。
「出陣!今日も一日、何事もなく平穏にすぎますように」
モットーは、平和主義、事なかれ主義、現状維持です。
「姉様に悪い虫がつきませんように」
モットーは、壱に姉様、弐に姉様・・・らしいです。
姉弟そろって玄関で神頼みをし、リムジンで聖花学園・中等部と高等部に向かいます。
中等部と高等部は繋がっていますが、校門が別々なのでそこでいったん別れます。・・が、
「あぁ、どうして、中等部と高等部は3年制なのでしょうか・・どうして日本国は僕と姉様を引き離すので・・以下略」
いつものようにぐずる弟を宥めて見送ると、やっと校舎に入れます。
上履きに履き替えていると、ずどーんという衝突音と共に体が傾きますが、動揺はしません。いつものことです。親友が朝から助走をつけ飛びついてくるのは。
「おっはよ~~未海♡」
「おはよう、アリア」
親友・アリア・ミュートン、超有名外資系ホテルの社長令嬢です。ちなみ彼女も上花です。しかもギリギリ。なぜなら、財力・将来性は申し分ないのに、日ごろの態度に問題が大ありだからです。日仏のハーフで薄茶のふわふわロングの髪をポニーテールにしたアリアは黙っていれば、お人形さんのように美しいのですが、少々お転婆なのです。(少々は自称です)
クラスは、各学年5クラスずつで、階級ごちゃまぜです。私たちのクラスは2-Eです。極花もいないので平穏なクラスです。HRが終わると、1時間目まで10分ほど時間があります。だいたいその10分の間がこの学園が最も騒がしくなる時間でしょう。
「「「「「「「きゃーーーーーーーーーーーーーー」」」」」」
さっそく黄色い声が聞こえてきました。昇降口付近に人だかりができ、その中心に4名の男子生徒がいます。あ、私、視力はそんなに良くないので、この距離だと、誰が誰だかわかりません。とゆーか・・・
「相変わらず冷めてるね、未海は」
「だって興味ないし」
「そーゆーもんかね。極花のこと知らないの未海くらいだよ」
「いや、知ってるよ。名前とかどんな人か」
「顔と名前、一致してないくせに!しかも噂で知ったんでしょ」
・・・。そうでうす。私の知っている限り、極花、今年全員2年で、A,B,C,D組にそれぞれ1人ずついますが、彼らには、特権があって授業を受けなくてもいいのです。でも、受けたい方は、クラスで受けてもいいのですが、幾分、イケメン過ぎるため他の生徒が集中できないという理由と頭良すぎて授業のレベルが合わない理由のため極花のための教室があります。通称・VIPルーム。もちろん、特権階級ということで良いこと尽くしな一面が際立ちますが、生徒会のような一面があり、なにやら仕事が大変そうです。すべての行事の運営から日ごろの部活や委員会の運営まで管理を、社会人並みに引きうけているらしいです。
メンバーは、常盤自動車コーポレーション長男・常盤貫、超難関、超有名私立桜野医科大学理事長兼桜野医療コーポレーションの次男・桜野太一、弓川商事長男・弓川文人、サマーサイエントカンパニー長男・夏野桃矢。どいつもこいつも日本を牛耳る企業の御曹司です。なにやら、常盤さんは、近寄りがたい王のような風格で仕事熱心でまじめな方らしいです。桜野さんは、かなりマイペースな方でかつ、クール?みたいでちょっと女子に冷たいみたいです。一方、弓川さんは、ジェントルマン精神を持ち、女性お好きなようで、色恋沙汰の中心にいます。なんでも極花の広報担当・・・。夏野さんは、カワイイ系らしいですが、天邪鬼な一面があり、年上の方からの人気強らしいです・・・。
まぁ、私にとってはどうでも良いことです。
騒ぎとは反対方向へ行けば関わることはないので、他生徒との諍い(いさか)にも巻き込まれずにすみます。いや、しかし・・・10分休憩はもう終わりなのに黄色い声は鳴りやみません。いつもなら2分前にはみなさんクラスに戻ってくるのですが・・・
「今日は一段とすごいね」
「まあね、蝶々シーズン到来ですから」
「ああ、今日からでしたか。なるほど~」
蝶々シーズンとは、そうですね、何と言いましょうか。学園のマドンナになるチャンス期間ですね。これは伝統的な学園の制度で、基本的に男性が中心になってしまう極花に対するものというか・・・上花の中から一人だけ極花と同等の権利を持ち彼らと共に行動する女生徒を極花が選ぶ制度です。4月解禁です。去年も同じメンバーで、蝶々は、常盤貫の姉である常盤美佐子様でしたが、3月に首席で卒業したので今は、空席で、上花の女生徒たちには絶好のチャンスなのです。しかも、私と親友のアリアは、蝶々という制度に全くもって興味がないので、上花の女子の皆さん、確率が少し上がりましたよ♪
「みなさーん、もう授業がはじまりますよー」
さてさて、そんなこんなで先生が乱入してきました。やっと群衆がそれぞれの教室に戻っていきます。一時間目は数学です!大嫌いですが頑張ります。
意味不明な数字の羅列と悪戦苦闘して、英語を学び、国語で小テストを行い、待ってました、私の大好きな世界史の授業です。なぜかって?愚問ですね。「歴史から学べ」「歴史は繰り返す」とはよく言ったものです。世界的な歴史上の英雄たちは、輝きさえしますがその後は、魔女狩りやら負け戦続き等、散々な終焉を迎えてしまうのです。一方でその後ろでせっせと働いていた人物たちは目立ちはしなくてもそこそこうまく生きているではありませんか!なんて素敵!・・・こほん、失礼しました。と、とにかく世界史とは人生の教訓なのです。
「やったー」
「ラッキーですわ」
「・・・」
「ちょっと、大丈夫?未海?」
黒板にはでかでかと「自習」の文字があります。私はショックの余り呆然とその文字を見つめました。クラスの皆さんが喜びに浸る中、呆然と立ち尽くす私の隣で親友が心配しています。
「きゃーーー、桜野様と夏野様ですわー」
さらに悪いことに教室の前で私の敵!いや、避けねばならない対象が私がいる教室前の廊下に!女子の皆さんがわらわらと円をつくります。いけません、自習ショックに狼狽している場合ではないのです。逃げねば!
「アリア、私、図書室に避難しています」
「あー、りょーかい。私はイケメンを眺めてるわ。昼休みに迎えに行くわ」
「「美波さん、がんばれー」」
避難場所を親友に告げるとさっそくダッシュで逃げます。クラスの男子の皆さんに応援をもらいながら。極花に興味がないむしろ避ける対象の女子は珍しく、極花に勝ち目がない男子の皆さんはそんな私にやさしく接してくれます。あ、そういえばアリアが興味がないのは、蝶々制度であって、イケメンは大好きみたいです。
「あれー、桜野様がいないじゃない」
アリアが残念がっていることも知らずに、私は図書室に無事に辿りつきました。
「むぅ。蝶々制度はじまりといい、世界史の自習といい・・なにやら嫌な予感がします」