夏の一夜 another side
夏の一夜を先に読んでください^^
私は、殺された。
理由は知らない。多分父が検察だったのが理由なのでは無いかと思う。今となっては確認しようもないが。
凶器はナイフ。死因は、心臓を一突き。成仏は……残念ながら出来なかったようだ。
好物はお寿司。父が数年前……最後に連れて行ってくれた外食。
友達は居なかった。父が持つ黒い噂が原因だったのだと思う。
父は汚職も有り、褒められた人物では無かった……が私は関係ない。そんな思いでお嬢様学校で暮らしていた。
家柄と親の職業が学校内での地位となる。そんな学校。
本当は行きたくも無かったけど親の意見には逆らえず、そこに居た。
検察の娘と言うだけあって周りは恭しく、汚い笑顔を私に向けていた。
もう一度言おう。私は死んだ。いや、殺された。
恨みはある。だが恨む相手は知らない。顔は見たけど知らない相手。正直恨む方法が分からなかった。
死んだ後、成仏は出来ない。成仏という概念が本当にあるのかは知らないが、自分はこの世を彷徨っていた。誰にも見えない身体。声も届かない喉で。
自分の死んだ神社。そこからある程度の所までしか動けない事が、数日の経験で分かった。動かないのでは無い。感覚的には子供時代に一人で家から出歩くような寂しさが一番近いだろう。
神社の周りに、ショッピングモールなどは無い。つまり何も出来ない。時間だけが無駄になりながら2日目が終わった。
3日目からは神社に手を合わせる毎日だ。
朝、祈る。昼、祈る。夜、祈る。
欲しいのは話し相手。寂しさを紛らわせてくれる相手。
お嬢様達の巣窟の媚びるような形ではなく、本当に私を見てくれる人が欲しかった。
数日後、何人目かの参拝客。数日で数人というあたり、この神社の不人気が伺えるだろう。
私は動かず、いつも通りお参りを続けていた。どうせ自分は触れない。見られない。聞こえない。それは経験で分かっていたのだから。
……おかしい。
いつになっても上がってこない。見ているだけなのか。……私が見えているのだろうか。
相手が私と同じと言うことも考えた。その上で私は後ろを振り向く。……目があった。
お互い見つめ合ったまま数秒。
「ねえ、どうしたの??」
相手から声を掛けられる。初めてだ。
とっさに
「す、すみません!」
と謝る。全く想定外で噛んでしまった。……とても恥ずかしい。
顔を真っ赤にしている間、相手はお祈りをしているのか、こちらを振り向く事はない。幸いだった。
その間混乱して、じっとその人の後頭部を見続ける。おそらくは男だろう。
短髪に切りそろえられた頭髪と、メンズのTシャツが主張していた。
少し間が空いて、男が振り向く。お祈りが終わったのだろうか。
じっと目が合う。……こちらに気付いていた。間違いなく。
軽く頭を下げ、横を通り過ぎようとする男。その姿に一筋の希望があった。
私が見えている。私の声も聞こえたかもしれない。
この男が何者かなどどうでも良かった。人と関われる。その希望で頭が埋め尽くされた。
「あ……あの!」
思い切って声を掛けた。不安と期待が入り交じる。
「どうしたの?」
返事があった。軽く涙が出そうになった。……人と、関わった。
声を掛けて何かがしたかったわけでも無かったがもっと関わっていたいと、欲が顔を出した。
「一晩だけ、私と遊んでくれませんか?」
感想宜しくお願いします。