死生契闊
えっと…ドユコト?
落下音聞こえたから、その場所に行くと、女の子がいた。と…。
ドユコト?
一回落ち着こう。今の状況は部屋から女の子が出てきて、それを変な風に勘違いしたのか、妹がオレに関節技をきめて、オレは涙目になっていると。
どゆこと?
女の子はただ泣きながらこの状況をスルーしてリビングに向かって歩いている。
「まるで意味がわか…痛いっ!」
「どうゆうことか説明してねお兄ちゃん」
「オレだってしらな…痛い痛いっ!」
「冗談はほどほどにね。部屋に幼女を連れ込むなんてねぇ」
「痛い痛い痛いっ!折れる折れる!」
「折れろ」
妹の非情な言葉を聞きながら、視界の端に、女の子がふらふらと歩いてベランダの方へと向かっていた。
女の子は窓を開けると、外からの冷たい夜風がカーテンと一緒に水色の髪を舞い上がらせ、女の子に対しては少し大きめである純白のワンピースが揺れた。
心臓がいきなり跳ね上がった。
悪い予感というものは本当にあるようだ。
女の子がベランダに出ると柵に手を掛けて、柵によじ登り、柵の上に裸足で立ち上がると身を放り投げようとしたのだ。
「椎名!どけ!」
「なんでかな?お兄ちゃんは悪いことをしたんだから捕まえ―――」
「いいから!早くしろっ!!」
椎名が体をビクッと動かし、硬直すると同時にオレの体にかかる力が無くなった。
一気に四肢に力を入れて立ち上がり、女の子の元へと走り出す。
女の子の体が外のほうへと傾きだし、涙が置き去りにされていくように、瞳が通った場所に弧を描いている。
「ママ…」
そう呟きながら女の子はベランダから足が離れた。
「クソッ」
オレもベランダから飛び降り、落ちていく女の子の手を握り、頭を上に持ってくるように引っ張り、離れないように肩の上に乗せる。
下を見ると、四十メートルぐらいはありそうだ。
単刀直入に言うと、死にそうだ。馬鹿な行動をしてる。
実家は二階建てなのだが、たまにナイフを持った妹と追いかけっこ?をするときに逃げるための最終手段で、二階に上って、飛び降りる事によって妹から逃げるという作戦があった。
もともと体は丈夫なので、二階からの高さなら怪我無く着地が出来る。
まぁ、その容量で簡単にベランダから飛び降りてしまったのだが、体は耐えてくれるのだろうか。
「ひぐっ…だぁれ?」
こんな状況で質問をしてこないで欲しい。
「うっ、ひぐうぇうぇぇぇん」
いきなり泣き出した。見た目はもうすぐで小五ぐらいの背丈の癖に、精神年齢がものすごい幼稚に思える。
というか耳元で泣かれているので、鼓膜が痛いほど揺れる。
「小鳥狼紅!オレの名前だ!これでいいか!」
「うっ…」
オレの名前を聞いた瞬間泣きやんでくれた。
そんなことをしてると、地上との距離が十メートル程になっていた。
下にいる人達が落ちてくるオレ達見てザワザワと騒ぎながら、落ちるであろう場所から人が離れていく。
オレは何もできないままそのまま地面へと落下していった。
地面がふかふかしていた。
違う、地面とオレ達の間に多くの布団があるのだ。
それのおかげで奇跡的に助かったと言えるのだが、いきなり布団が出てくるなんておかしい。
「奇跡だろ」
「まじか、こんなことってあるのかよ」
「運が良かったなあいつら…一階から五階に住んでいる人全員が布団を落として助かったって」
ザワザワと騒ぎ立つ会話の中、あきらかに奇跡や偶然でも明らかに変な事が聞こえた。
「次は幼女…変態」
その声もハッキリと聞こえた。
声がする方向を見ると、制服から、近くのコンビ二による感じの黒いラフなジャージを着ていたピーシーちゃんがいた。片手にはやはりパソコンが握りしめられている。
「オレは飛び降りるこいつを見て、助けようとしただけだ」
こいつはいまだどんな奴なのかが分からないから、もしかしたらネット内では超テンションが上がる奴で、「見てみてこの写真!なんか幼女を抱えた変態な男が空から降ってきたwwwwwwまじ腹筋が崩壊しかけたwwwwしかも、実は後輩なんだよねwwww」とか自分のブログに書き込んでしまう人かもしれない。夜遅いのもあってか人通りの少ない通路だったから良かったのか、周りにはそれほどの人数はいない。ピーシーちゃんに弁明でもすれば周りの人は納得してくれるだろう。
「助けたし…もう帰る」
オレの弁明を聞かずにマンションの中に入っていった。そのマンションは見間違えなければ、オレと同じである。
しかし、やはりピーシーちゃんは未来を捻じ曲げて、どうやってもフラグを破壊できるようだ。
これで布団の奇跡も納得できる。
もうここで誤解を解こうとしてもめんどくさくなってしまうので、もう逃げてしまおう。
オレは女の子を担ぎながら、四肢に力を入れて布団から飛び降り、妹が待っているマンションへと走り出した。
「お兄ちゃん!!!もう!!危険なことはするなぁ!!!」
何度も腹パンをして、妹は涙を溢れさせながら怒っていた。
女の子を担いで、ドアを開いた瞬間、外などお構いなしでやってきたのである。
「やめてよ、お姉ちゃん」
女の子が椎名の服を引っ張りながらそう言った。
さすがに椎名も女の子には反抗できないのか、オレへの暴力をやめて溜め息を吐いた。
「ありがとう、名前は知らないけど助けてくれて」
「だって…ミチの『一匹狼』なんだもん。ミチ・イスラームの『一匹狼』なんだもん」
大事な事なので二回言いました的に言われたのだが、はて、ここらへんには変人しかいないのだろうか?
「誓いのチュー」
オレの頬に唇を当てているの女の子の名前は…ミチだっけ。