表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/25

合縁奇縁

「痛い痛い!摩擦でズボンが焼ける…今ズボン燃えた!?破けた!パンツが見える!」

 先生にガッチリと襟をつかまれ、縦横無尽に先生が走り、オレのまだ二年はあろうズボンの寿命を数分で終わらせてしまった。

「大丈夫っすか?」

 ヘラヘラといつもの笑顔を絶やさず聞いてくるが、今だとその笑顔が悪魔の微笑みにすら見えてしまう。いや、もしかしたら性格は悪魔と同じようなものかもしれない。

「聞かなくても分かるだろっ!」

「そうっすね」

 さらっととんでもない事を言いやがった。こいつはいくら天才と言われようが、一応オレの担任であり、一人の公務員の教員のはずなんだが、生徒のことなんて知ったこっちゃ無いという感じである。

 何故こんなことまでされてるのに、先生から逃げないって?それは単純明快、こいつの足が速すぎるのである。周りの風景が一瞬にして遙か遠くの背景に変わっていく。このスピードで地面に足でもついてみろ、地面と足の摩擦抵抗のせいで運が良くて靴程度、運が悪くて足ごと持っていかれるかもしれないんだぞ。

 え?それじゃあなんで尻と地面が接触してるのに、下半身が遙か遠くの景色を赤く染めないかって?これも単純明快、実は尻は地面に接触をしてるのではなく、先生の足がどういうことかオレの尻のすれすれを通っているのだ。

 襟と首の間に手を入れて窒息死をするのを防いできたんだが、オレの手より制服が無残にひきちぎられてバラバラ殺服になりそうだ。

 どのくらいオレの服は我慢できるだろうか?デッドラインはもうすぐである。

「お待たせしたっす」

 先生が急ブレーキを掛けたせいで振り子の法則により、オレの首と服にとても強い力が作用する。

 つまり、全力疾走でデッドラインを超えたのである。

 無残にも聞こえる繊維と繊維をつなぐ糸が無理矢理はがされていく音、首が絞まって気管が細くなり、笛のような音も聞こえる。

「きゃぁ!!」

 誰かにぶつかった…違う、オレはコンクリートにぶち当たり、近くにいた女が悲鳴を上げたのだ。

 地面にドスッという音が聞こえると共に、重力によって地面に落ちたのだと思った。すぐに体勢を正座にして右腕で自分の上半身にあるピンク色をした部分を覆い隠す。

 昔から何故だか知らんが、他の人より数倍色が濃いのだ…じゃなくて、町を守る警察を呼ばれる前に誤解を解かなければ。

「上半身が裸で、ズボンの尻が破けて、パンツにも小さな穴が空いていても、変な人ではない…」

「大丈夫ですか…?」

 そこにはひぃ子ちゃんがいた。何故かいたるところに切り傷があり、息が荒かった。

 そういう町の中でそういうプレイが好きな人だったとは、これからひぃ子ちゃん改め、M子ちゃんと呼ぼう。

「危ないぞ、二人とも!」

 颯爽?とM子ちゃんの隣に現れてきたのは腐二君だった。

 まるでさっき倒れていたのが嘘みたいに元気はつらつである。少しイラッとするな。

 でも「危ない」って…どういうこと?

 大きな影がオレ達三人に覆いかぶさってきた。

『にゃ~ん』

 まるで大型拡声器から聞こえたようなエコーのかかっている鳴き声だ。

 さっきまで小さな道も悠々と通り抜けていたあの猫が体長十メートルぐらいに大きくなって、オレ達に襲いかかって来たのだ。


 【ナンバービースト】

 この世界には大きく四つに分けることができる人の思想がある。一つ目は【ナンバーヒュマン】で持つことが出来た能力を世界に役立てようとする者。二つ目は【ナンバーヒューマン】で持つことが出来た能力を悪事に働かせる者。三つ目は【ナンバー】、【マスターナンバー】を持たない者で気にしてない者。四つ目は【ナンバー】、【マスターナンバー】を持たない者が、持つ者に対して嫉妬する者がいる。

 四つ目の思想の人達は二つ目の思想の人達に対して大きな憎悪があり、その憎悪が形となって生み出されたのが【ナンバービースト】である。四つ目の思想の人達が集まったある組織が、死んだ【ナンバーヒューマン】を手に入れ、研究をして、【ナンバーヒューマン】の血液を数滴獣の血液に混入すると、化学反応が起こり、ただの獣が不思議な力を得るという実験が昔にされた。しかしその実験は動物愛護団体によって早急に停止となった。それを不服と思ったある研究者の一人が、実験の成果を世界に見せ付けるために、監禁していた動物を一気に放ったという『数獣実験開放事件』とひとまとまりで名づけられた。力の発見は獣によって個体差があるため、今でも普通にいる獣が人を襲う【ナンバービースト】かもしれないのだ。


 M子ちゃんは腰が抜けて立てそうに無い、オレはオレでさっきの痛みで立ち上がることができない。

「閃光のように速く…」

 本来、触って気持ちよくキーホルダーにもなったりする猫の可愛いチャームポイントが、今凶器となしている。

 死ぬ間際は時間が遅くなる錯覚が起きると言われているが、本当に遅いな。それと断片的な色が無い記憶も蘇ってきて―――

 待て、もうすぐで死ぬかもしれないのに腐二君が抱きついてきやがった。死ぬ前に「あれ?この人死ぬ前に男と抱き合ってるwもしかしてホwwモwww」と変な疑惑を持たれるかもしれない。妹の学校生活が危うくなってしまう。

「そうはさせるかっ!」

 オレは腐二君の手をするりと、まるで白鳥の舞いかのように優雅に綺麗に避ける。

「なん…だと……!」

 腐二君がこちらを見て、驚いている。

 ニヤリと勝ち誇ったようにオレは腐二君を見て…いや、待て…明らかに時間が経つのが遅すぎないか…?  

「小鳥狼紅…死亡フラグ…『破壊』…」

 突然後ろからピーシーちゃんの声が聞こえてきた。すぐさま後ろを振り向くと、ジト目でこちらを見ているピーシーちゃんがいた。

「裸…変態」

「変態じゃねぇ!これはあのふざけた先生のせいなんだよっ!」

「まぁ…どうでもいい」

 本当に興味が無いのか、すぐに視線を逸らした。

『にゃー』

 猫のことを忘れていた。すぐに上を向いて、猫の姿を確認する。もう少しで猫パンチがオレの頭…じょ……う…に……あれ?

 何も無かった。正確に言えば空と、ビルの上部が見えていた。

「き、来ますよ!」

 M子ちゃんが何かに怯えながら発した言葉は、すぐになんなのかが分かった。大きな猫がこちらに向かって走ってくるのだ。しかも、端にある電柱を無視して折っていくような位の強さで。

「逃げるなんてありえないっすよ?狼紅君」

 涼しげな顔で先生は猫を見ていた。周りを見ても皆動こうとせずただどこか落ち着いた目で猫を見ていた。

「時間、場所、俺の生徒を『隔離』っす」

 次の瞬間、周りの景色がガラスに写ったかのように、左右が反転していた。

「後は君たちに任せるっす」

   

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ