絶望だ
「あららー。そういう暴力はやめて欲しいっす。俺の生徒、サラリーマンを殴った少女を『隔離』」
風景が一瞬反転して、身に覚えのある感覚が周りを支配する。
「さて、そこの少女は邪魔なんで死んでもらうっす。俺が指差す少女の心臓を『隔離』」
「プリズンさん、大丈夫ですか!?」
妹が倒れそうになるプリズンに駆け寄り体を支えるが、すぐに血反吐を撒き散らした。
「プリズンっていう名前だったんすか。……プリズンちゃんは死にましたよ」
過去形になっている先生の言葉は正解だった。妹がプリズンの生死確認をしているが外見から分かりきっていた。
「先生、意味が分からないんですが……。これはいったいどういことでしょうか」
鈴香が恐怖の瞳で先生を見るが、その先生は不気味なほど笑っていた。声を上げて。
「えーと鈴香ちゃんっすよね、いらないから死んで。鈴香ちゃんの心臓――」
「鈴香ちゃんの生存『予測』」
妹が鈴香のことを押し倒した瞬間頭の上で空間が少しだけ歪んだ。
「狼紅君、殴りに来ないで欲しいっす。これでも君の教師なんすよ」
「なにが教師だ! 生徒を笑顔で殺すやつが教師なわけねぇだろ!」
一つ一つの拳を全力で正確に放っているはずなのに先生は笑顔のまま全てをいなしてきた。
先生がオレの足を踏み腕を引っ張り、もう片方の足で膝を曲がらない方向へと曲げた。次に腹を蹴り上げ空中に放り出されると思ったのだが、見えない壁にぶつかって地面へと落ちた。
「狼紅君には能力を早く開放して欲しいんっすよ。荒療治を使っても」
先生が妹のほうへ視線を向ける。
「愛する妹が死んで怒りの力で解放、でお願いするっす。椎名の心臓を『隔離』」
「やめろ!」
椎名はすぐに屈んで横へ飛び、立っていた場所を見ると小さな空間のゆがみがあった。
「先生、私を殺せると思わないでください。先生の発言『予測』」
「とても良いっすね。すぐに俺を敵とみなし能力を解析してくるとは、さすが天才」
「先生の能力は指定した物体の場所を他の次元へと送ること。しかし広く見積もって指定した物体は肉眼で見える範囲であり、少しだけタイムラグがある」
「そこまでとは、おみそれするっす。まぁ分かっても止められないっすけど。狼紅の心臓、鈴香の心臓を『隔離』」
「お兄ちゃん!」
椎名がオレに向かって手を伸ばして走ってくる。
「すごい、すぐに友人を捨てて兄を助けに行くなんてとても良い子っすね。つーか狼紅君にやるはずないっすよ。残念、もしも鈴香ちゃんを助けに行ったら生きてたかもしれないのに」
椎名が鈴香の方に振り向いたとき血を吐きながら椎名に手を伸ばす鈴香がいた。
ゆっくり鈴香は倒れこむ。
「ああああぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!」
椎名が金切り声を上げ、先生を睨んだ。
「うん、良い叫びっすよ。それに狼紅君と同じようにすぐ戦闘へと思考変換するのは兄妹だからかな」
椎名が一歩先生に向かって踏み出し、走り出した。
「確かに椎名ちゃんの能力は俺と相性が悪いなぁ」
「先生の行動『予測』」
椎名は空手で成人男性にも劣らず、圧倒する。
普段の試合では能力を使っていないが一度だけオレに怪我させた暴走族を潰したときに使った。
先生の行動は全て椎名にとっては筒抜けで、全て避けられ、全て当たっていた。
「これは大変っす。体術だけなら勝てると思ったんすけど、能力と合わせられちゃ無理っすよ。椎名ちゃんの能力を『隔離』で蹴り飛ばしましょう!」
椎名の動きが一瞬止まり、間を挟まず先生が椎名の横腹に蹴りを入れた。
「俺が隔離できるのは物体だけじゃないんすわ。でも能力を隔離するのはデメリットが高いんでしたくなかったっす」
数秒後、周りの風景が反転しさっきまでいたいつものショッピングモールになっていたがプリズンと鈴香はいなかった。